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君が行け、基本所得社会

[ワーカーズ開講準備号]基本所得姉さん、私たちを救ってくれますか?(2)

パク・タソル記者 2017.02.23 12:11

[扉]今回は『基本所得』だ。 半額登録金、基礎老齢年金に続いて新しく発掘された大統領選挙用の福祉問題だ。 万人に平等な基本所得とは。 なぜか、今の窮乏した生活と不平等な構造を一気に解消する万能の鍵のようだ。 だが私たちが暮らしている資本主義社会はそれほど扱い易い相手ではない。 資本主義メカニズムが不平等を内在していることを知らない人はいない。 力が傾いていることからして不公平だが、彼らが素直に金と不平等の権力を差し出そうとするだろうか。 何か別の内心が隠されているようだ。 「チャムセサンXワーカーズ」は気になった。 基本所得が施行される未来の社会では、私たちの人生は平等だろうか。 そして崖っぷちに立つ人々を救い出せるだろうか。 悩んだ末に5回にわたり、企画連載記事を載せることにした。

※以下の文は基本所得が施行された未来社会を想像した仮想記事です。

家族構成員

AはL電子の下請企業で働く生産職労働者だ。 妻Bは同じ業種の下請企業の経理で働き、Aと会って結婚した。 だが息子が病気になった後には仕事を辞めて息子の世話をしている。 長女Cは大学3年で、脳性麻痺で挙動が不自由な息子Dは特殊高校に通っている。

▲2019年8月のA家の収入内訳

▲2019年8月のA家の支出内訳

ある家族の2019年8月の家計簿を調べた。 月所得540万ウォンは少なくない金額だが、 この4人家族はほぼ500万ウォン以上を生活費として支出する。 特異事項があるとすれば、病気の息子のために薬代と治療費が毎月出て行く。 そのためか、文化、余暇生活の費用は殆どない。 息子の通院治療のためにいつも食事を作ることが出来ず、よく外食をするだけだ。 生活費上昇の最大の要因は物価上昇、薬代と治療費上昇などの外的な要因にある。 皆が一定の所得を受けとるようになった以上、物価は上がるはずだった。 また基本所得の財源のために、既存の福祉が一部削減された。 経済的、政治的な変化で基本所得は好き嫌いが分かれる複雑な性格を帯びるようになった。

基本所得ブームが起きた時、政界の賛成派は左右を問わなかった。 理由は違っても、基本所得が必要だと主張した。 基本所得がもたらす豊かな人生は、さまざまなイメージで作られ、消費された。 これは国民的な支持につながり、財源作り、既存の福祉との関係設定などで数か月どたばたして、 結局1人当たり月60万ウォンを支払うという政策が施行された。 毎月10日、全国民の通帳に60万ウォンの基本所得が入金される。

基本所得、正体は何か

Aにとって基本所得は、ある日空から落ちてきた宇宙生命体のようなものだった。 労働との連係を切るという基本所得の発想は革命的だった。 何の条件もなく所得を再分配するという要求は、時代に応じているように見えた。 だがいつも労働者政策に関心を持っていたAには疑わしかった。 労働者のための法律がこのように簡単に導入されることは無かった。 労働界の中では意見が入り乱れていた。 基本的生計を維持するという次元で正当性を持つが、労働条件が後退するという反論も少なくなかった。

基本所得の議論を率いたのはテスラのイーロン・マスク社長、FaceBookのクリス・ヒューズ共同創業者など、IT企業のCEOだった。 「生産性が超高度化した社会では、すべてが豊かになり、安くなる」から基本所得の帰結は避けられないと彼らは主張した。 人間の労働力が必要なくなるということだった。 彼らは莫大な資金をかけて基本所得の実験に支援を行い、 その実験はいつも多くの支持を受けた。 主流マスコミ各社もこうした結果を着実に報道し、基本所得は全世界で法制化され始めた。 従来の福祉を一本化して、財源調達の余力ができた北欧国家では、 所得下位階層の購買力が向上するという成果もあった。 韓国でもこれまで議論されていた30万ウォンよりも気前よく、60万ウォンが導入された。 青年の大きな支持によって実現した収穫だった。

万能言い訳

基本所得の財源のほとんどを調達しなければならない資本の要求は小さくなかった。 資本は基本所得法と別名「企業構造調整フリーパス法」をセットで通過させろと駄々をこねた。 構造調整が目前に来ていて、さらに遅れれば基本所得という支援策もなくなりかねないという圧力も相当だった。 機会を狙っていた製造業の工場から自動化機械を導入し、大規模な人員削減をした。

[出処:チャムセサン資料写真]

Aは8次賃金団体交渉の場に労働側交渉委員として参加した。 社長と労組の委員長が複雑な表情で互いをにらむ。 多分、今日も進展した議論はなさそうだ。 使用者側は8次になっても賃金凍結を主張している。 2年間の物価上昇率にも満たない賃金上昇率には、労組も退くことができない。 基本所得は賃金凍結の強大な武器になった。

社長「単刀直入に話しますね。 今年は凍結するほうが良いです。 営業損失もそうで、ご存知の通り、法人税の負担が相当です。 理解されていますか?」

労組委員長「基本所得は緑茶のティーバッグでもないのに、いつまで絞るつもりなのか... 勝手に人員削減報告書を作って、人を追い出すだけでは足りないのですか? でたらめ報告書のおかげでクビにされた人も、残った人も、 まともな精神状態ではありません。 こんなことでは本当に重大なことになって初めて正気になるのですか?」

基本所得の導入後、賃金は深刻な停滞状況になった。 賃金を決めるにあたって重要な根拠になる生計費が、基本所得で補充されたためだ。 物価上昇率を突きつけても効果がなかった。 使用者側も法人税値上げという言い訳があった。

青年の独立運動

大学文学部3年に在学中のCは、就職準備の真っ最中の忙しい時期だ。 ところが最近は「基本所得でなくなった国家奨学金を戻すデモ」に毎日出て行っている。 Cはかなり前から財政的な自立、家族からの解放を夢見ていた。 それで2年前、国民すべてに基本所得を払うといった時には歓呼した。 一生60万ウォンが通帳に入ってくるので、卒業して職場を見つければすぐに独立しようと考えた。 毎日のように青年を売り飛ばしてきた政界が、こんな花火を打ち上げるとは立派だった。

だが金は入ってくるだけ出ていった。 基本所得が導入される前の2016年、一学期の授業料は600万ウォンだった。 Cは大学1年の2016年、国家奨学金で1学期200万ウォン程度を支援を受けていた。 だが2017年に国家奨学金が基本所得の財源として使われ、国家奨学金はなくなった。 青年にとって多いに役に立つはずだった基本所得は、大学生のCには「与えて奪う基本所得」だった。 結局、休み中のアルバイトで登録金を最大限稼いで、小遣は両親からもらって使っている。 基本所得を主張していた人々は「1年に最高520万ウォンまで受け取っていた国家奨学金がなくなっても、 1年に720万ウォンを基本所得として受け取れるので、200万ウォンの利益になるではないか」と言った。 青年の多様な自己実現の役に立つはずだった基本所得は、派手な包装紙だけだった。

[出処:チャムセサン資料写真]

基本所得が導入されて上がったのは学費だけではなかった。 大学周辺のワンルーム価格がいっせいに上がり、大学生は学校から遠く離れた郊外に家を探さなければならなかった。 往復4時間かけても家から通う学生が増えた。 7坪の家賃は2年前までは保証金2000万ウォンと月60万ウォンだったが、 最近では保証金3000万ウォンと月90万ウォン程度と大きく上がった。 基本所得を導入するため、政府は不動産オーナーの税金を大幅に上げ、 その負担はそのまま賃貸者が抱え込まなければならなかった。 主人は主人なりにうめき声をあげたが、賃貸者の苦痛に較べればおおげさな態度だった。

非正規職の増加、低賃金・長時間労働など、労働市場を改革せずに導入された基本所得は、 青年の就職にとっても特に助けにはならなかった。 良くない雇用が増え、いっそ基本所得を小遣と思って働かないという青年もいる。 彼らは友人とも会わず、旅行にも行かない。 「基本所得は社会基盤施設を強化する最善の方法とはほど遠く、 禁欲と民営化の議題が強化される脈絡で災難をもたらすものだ」。 2017年、カナダのある貧困撲滅活動家の予想の通りだったようだ。

「罪を犯す気持ちは」

息子Dは脳性麻痺3級で挙動が不自由なため、車椅子を利用している。 特殊学校に通っているが、お母さんが一緒に登下校している。 放課後には言語と歩行のためのリハビリ治療授業を受けるが、この費用が上がってお母さんの不満は大きい。 特に地方自治体が支援してきた補助費が一時になくなり、お母さんや保護者たちは対策会議もした。

色々な問題提起の先頭に立ったお母さんは、あちこち調子が悪くなり始めた。 誰も食事を作れない状況になり、外食も増えた。 Dはインターネット記事を通じ、障害者関連の支援が大挙に削減されたことを知った。 自分と同じ障害者や老人、基礎生活保障受給者は基本所得を「社会保障破壊法」と呼んだ。

従来の福祉に上乗せさせる基本所得は、結局従来の福祉手当と統廃合された。 基本所得賛成論者の中には基本所得が他のすべての供給システムを代替しなければと主張する右派がいた。 また右派の政治家たちは、金を借りずに財源を確保しろと強く話した。 最低の生計に触ってはならないという共感にもかかわらず、 社会的弱者に支援されてきた福祉費は真っ先に削減された。 政治的な合意はいつもこうして理想から後退した。

確かにこれまでの社会保障システムは、全面改正が必要な程に問題が多かった。 新しい疎外階層である「青年」は対象者から漏れていて、 受給者に絶えず何か要求して羞恥心を与えた。 貧困を証明する手続きなどが一気になくなったのは、基本所得の長所だった。 たった一つの長所。

お母さんが大型スーパーで買い物をして車に戻る。 お母さんはもう在来市場に行かなければならないと話した。 このままではお母さんにどんなものを食べたいと話すのは難しいようだ。

みなさんの家計簿、皆元気ですか?

すべての値段が上がって簡単なおかずを買うだけでも5万ウォンを超える。 燃料代はどれほど上がったのか、家から遠く離れた特殊学校はつらい。 この時ほどマイナス通帳を使ったことはない。 物価がこれほど上がった理由は、多分基本所得のせいだろう。 政府は所得が増えれば当然それだけ使うのが当然だとして消費を奨励し、 その結果インフレが発生した。

夫の職場でも話は多い。 労組幹部の夫は構造調整一順位。 一日一日が薄氷だ。 苦しい気持ちで副業でもするかと思って求人広告を熱心に見始めた。 詐欺を働けというのか、副業をしろというのか。 関連の文を読んでもよくわからない。 増えるため息のため、一緒に過ごす時間が多い息子だけが不安そうに顔色をうかがっている。

夫はたびたびおかしな行動をするが、最近はあらゆる栄養ドリンクを買い込んでいる。 家族に病気の人が増えると大変だというが、その通りのような気もしてそのままにしている。 それでも不安なのか、家族保険にも入った。 公共医療の恩恵が減り、民間保険料が大幅に上がったが知ったことではない。 こうして金を使うところが増えたが、基本所得は増えないようだ。 言論で「財政絶壁」だの「国家破産」だのと言って、賃上げだけでなく基本所得の引き上げも防いでいるためだ。 この家族の暮らしは本当に味気ない。

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2017-02-27 08:47:28 / Last modified on 2017-02-27 08:51:22 Copyright: Default

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