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権限の分離、3人の死、責任の消滅

[ワーカーズ・イシュー(1)政府の依頼、資本の殺人]「公共」発注工事… なぜ惨事を呼んだか

キム・ハンジュ記者 2019.08.26 12:08

政府の依頼、資本の殺人
2018年12月10日 泰安火力発電所でキム・ヨンギュン死亡
2019年1月31日 釜山市コンテナターミナルで労働者1人がコンテナの下敷きになり死亡(港湾公社)
2月14日 ハンファ大田工場で労働者3人が爆発事故で死亡(防衛事業庁契約)
3月18日 慶北環境エネルギー総合タウンで労働者3人が転落死(慶北道主務官庁)
4月25日 昌原市の民間委託労働者1人が作業中に死亡
5月9日 新西天火力発電所の労働者1人が勤務中に死亡
5月15日 江原中央高速道路舗装工事で労働者1人が死亡(道路公社)
5月21日 慶南クムサン小学校の汚水管工事中に労働者1人が土砂埋没で死亡
5月21日 釜山大ドンポ美術館の環境美化労働者1人が建物の外壁が崩れて死亡
5月29日 光州市立国際プール工事現場で労働者1人が転落死
6月5日 ソウル市医療院美化労働者1人が過労と感染で死亡
6月9月 済州道の済州波力試験場工事現場で労働者1人が死亡(海洋プラント研究所発注)
6月16日 ソチョン郡のセマウル新築工事現場で労働者1人が転落死(忠清南道発注)
6月19日 ソウル市中浪区の下水道管清掃労働者1人が心臓まひで死亡
7月1日 高陽市の送電塔で労働者1人が転落死(韓電)
7月20日 国道36号線の工事現場で労働者1人がキャノピー崩壊で死亡(国土交通部)
7月31日 木洞雨水ポンプ場の工事現場で労働者3人が水没死(ソウル市発注)
8月9日 ソウル大学の清掃労働者1人が死亡
8月18日 首都圏広域急行鉄道の工事現場で労働者1人が設備に当たり死亡(鉄道施設工団)
※資料参考. 労働健康連帯、韓国産業安全保健公団

イシュー(1)[政府の依頼、資本の殺人]順序
1. 権限の分離、3人の死、責任の消滅
2. 公共が資本に渡した労働者の死…国家は幽霊?
3. 繰り返される「公共工事」の死亡事故…責任は誰に?

[出処:キム・ハンジュ記者]

7月31日、木洞の雨水ポンプ場で発生した労働者3人の死。 誰も責任を取らなかった。

#1下請非正規職労働者、ク某氏の息子

「お父さんの三虞祭を終えた時でした。 朴元淳(パク・ウォンスン)ソウル市長から電話が来ました。 遺族に謝罪するといいました。 責任者を処罰して追悼施設を建設するといいました。 国家賠償についても話しました。 実はとても激昂して…。 具体的にどんな話がやりとりされたのか、これ以上思い出せません。 なぜ今になって電話をしたのか、とても腹が立ちました。 朴元淳市長に 『なぜすぐに私達のところに来て謝罪しなかったのか』、 『雨水ポンプ場の事故がおきた時、 被害者の家族をまず安心させることが役割ではないですか』と話しました。 私は真相が糾明されて国家が約束を履行するまで、最後まで見守ります。」 (8月14日「ワーカーズ」との通話で)

#2 現代建設労働者アン某氏のお父さん

「息子が死にました。 これは補償の問題ではありません。 まず国家が誤りを認めて責任を取るべき問題です。 今、事故がどうして起きたのか究明もできていません。 マスコミは遺体が発見された位置について、ひどいことを言って騒ぎ立てています。 捜査の結果も出ていないのに。 良い法令、制度を作ってどうしますか。 国家が管理して監督すればどうしますか。 いつまで安全不感症で不信を高めるのでしょうか。 責任を回避する構造です。 まともな安全システムがありません。」 (8月8日、陽川警察署面談直後の取材陣との出会いで)

#3 下請労働者セリン・マウン氏の遺体を本国に移送したミャンマー労務官

「セリン・マウン氏は2017年5月、E-9(非専門就職ビザ)で韓国にきました。 ミャンマー現地の友人は、木洞事故が現地のマスコミで報道されたといいました。 セリン・マウン氏の遺体は8月6日にミャンマーの故郷に到着しました。 私と現代建設の関係者1人が遺体移送に参加しました。 遺体は故人の兄が引き取りました。 (事故以前の)彼の家族は平和だったようです。 私は遺族に現行法と制度によって賠償問題などを解決すると約束しました。」 (8月15日と16日「ワーカーズ」とのメッセージで)

「ワーカーズ」はセリン・マウン氏が本国に到着した後、 現地の状況を撮影した数枚の写真を受け取った。 写真の中にはミャンマー現地の住民約100人が集まって故人をむかえた。 一番前には遺族と思われる人たちが嗚咽していた。 仏教式の葬儀を行う様子も入っていた。

誰のための「公共」工事だったのか

木洞雨水ポンプ場の事故の過程はこうだ。 7月31日午前7時10分、現代建設下請(協力業者)労働者2人が 定期作業のために水路に入った。 7時30分に大雨注意報が発令された。 7時16分から8時まで、ここでは37mmの暴雨が降った。 すでにこの日の午前5時から豪雨が予報されていた。 これを憂慮した陽川区庁の職員が7時31分に水門が開いたのかを確認するために 試運転をする業者の職員に電話をかけた。 業者の職員は当時現場にいなかった。 彼は7時38分に現代建設職員に電話して、水門の開閉の確認を要請した。 現代建設職員はこれを確認するために現場事務所から制御状況室まで移動した。 制御状況室は2か所あり、それぞれ陽川区庁、施工者が運営していた。 現代建設の職員は現場の事務所から近い陽川区庁制御状況室に行った。 しかし彼は陽川区庁制御状況室のドアロックの暗証番号を知らなかった。 それでまた区庁側に連絡をした。 その間、7時40分に低地1垂直区水門が、44分高地垂直区水門が開いた。 7時50分に現代建設職員のアが氏は作業者に待避するよう連絡しようとしたが、 つながらなかった。 トンネルの中の労働者たちが地上と連絡ができるようにする中継器はなかった。 結局、アン氏が直接知らせるために降りて被害に遭った。 流入した水が事故現場に達するまでにかかった時間は23分。 ク氏の遺族によれば当時、トンネルには他の下請労働者もいた。 彼らは深くないところにいたので連絡ができ、待避することができた。 この日の午前10時、下請労働者のク氏が、翌日午前5時に他の労働者2人の遺体が発見された。

惨事を起こした工事はどのようにして始まったのだろうか。 木洞雨水ポンプ場の正式名称は「新月雨水底流排水施設」だ。 陽川新月、江西禾谷地域は山に囲まれた低地で、2010年と2011年に浸水被害を受けた。 そのためソウル市は陽川区新月洞のカロ公園通りから アニャン川にある木洞雨水ポンプ場までの4.7km区間の底流排水トンネルを作る計画をたてた。 底流排水施設には6つの垂直区(低地帯の垂直区2つ、高地帯の換気・流出・維持管理垂直区各1つ)がある。 木洞雨水ポンプ場は低地帯の雨水をポンプで引き出して、アニャン川に流す役割を果たす。

計画により、ソウル市都市基盤施設本部が工事を発注した。 事業費は1380億ウォン。 市費1030億ウォン、国費350億ウォンが入った。 12月に完工する計画だ。 施工者は現代建設株式会社が引き受けた。 工事は次数竣工、つまり段階的な工事で進められた。 工事期間が長い公共工事は、ほとんどが年間予算による次数竣工でなされる。 事故は去る6月30日に竣工し、7月1日から始まる合同運営期間に起きた。 今年12月に完工の予定だったので工程完了率が95%の状態であった。 ソウル市は竣工するたびに業者と請負契約を結ぶが、 現代建設は6回、株式会社スソン・エンジニアリングが5回、 ムナ企業(株)が3回契約した。 施工、監理など分野別で契約を行い、 元請負者はまた下請構造を作った。 今回死亡した労働者3人のうち2人が現代建設下請協力業者のハニュ建設所属だった。

[出処:キム・ハンジュ記者]

分離するほど危険

領域と権限、責任の分離が生んだ惨事だった。 分離した構造の中で、現場の労働者は互いに疎通できなかった。 危険状況に対応できなかった。 陽川区庁は次数の竣工後の7月から排水施設の操作権限を持っていた。 そして7月28日まで、6回モデル運営をした。 この日、試運転を続けるという理由で基本マニュアル上水門開放水位到達率が70%のところを、もう1つは50%、他の1つは60%に下方調整した。 水位に達した時、水門が正常に作動するのかを試験するために人為的に下げたのだ。 危険が予想されている状況で、陽川区は当時現場に何人いるのかも知らなかった。 「権利と権限」が確実に分けられている理由を聞いた。 陽川区の関係者は 「私たちが運営主体だが、問題が生じた時、これを正す権限は ソウル市都市基盤施設本部にある。 竣工しただけでまだ完工ではないからだ。 また施工者の現代建設はその日、どんな作業をするのか、 何人を投入するのかをソウル市都市基盤施設本部だけに報告する。 事故現場も竣工が終わった施設で、人がいてはならないが、 状況の共有が不足していてわれわれは人がいることを知らなかった。 これから補完していかなければならない部分」だと話した。

陽川区庁は7月28日のモデル運営の時に 水門漏水、ポンプ過負荷などの問題を発見し、 ソウル市都市基盤施設本部側に措置を要請した。 それ以前にも試運転のたびに発見された問題を解決してくれと何回も文書を送ったと 区庁の関係者は明らかにした。 事実、安全問題を早く正確に解決するには、施工者にも正しく知らせるべきだ。 しかし陽川区と現代建設は契約関係ではなかった。 そのため都市基盤施設本部だけに連絡したのだ。 また、陽川区としては、問題が解決されたのかも分からなかった。 関係者は「各自が持つ権限が違う。 われわれは問題がどのように処理されたのか知らない。 処理の過程は都市基盤施設本部に聞かなければならない」と言う。

では都市基盤施設本部はどのように処理したのだろうか。 関係者によれば、都市基盤施設本部が現代建設側に問題を解決しろという業務指示は、 手続き上「監理業者」を通さなければならない。 監理業者は都市基盤施設本部が委託用役に出したところだ。 それで都市基盤施設本部はまず監理業者に問題を知らせたという。 この過程について、関係者は 「手続きによって進め、問題の一部は解決された」と明らかにした。 安全問題を解決するだけで 「陽川区庁-ソウル市都市基盤施設本部-監理業者-施工業者」までの長い過程がかかった。

発注計画そのものも「労働者安全」が粗雑だったという問題があった。 都市基盤施設本部側は当初の工事計画には労働者安全関連条項があったのかを尋ねる 記者の質問に 「契約に関しては書類が多く、関連項目を細かく見なければならない」と難色を示した。 それと共に 「工事により安全管理計画を樹立するのは施工者だ。 その計画を私たちが委託した責任監理が検討し、 検討の結果によって発注処(ソウル市都市基盤施設本部)が承認、要請する形だ。 すべての手続きは規定によって進められる」と話した。 安全に関する運営・作業マニュアルがあるのかという質問には 「捜査中なので公開は難しい」と答えた。

ソウル市が2012年に作成した 「新月雨水底流排水施設事業政策資料集」を調べた。 200ページに達する資料集には、 事業および入札計画、市民と専門家意見を検討した内容が含まれていた。 この資料では、労働者安全に関係する内容は全く見つからなかった。 またソウル市は事業推進計画の「事前検討項目」として「労働認知」は検討しなかったと記録した。 「労働認知」は市の行政で安全など労働に関する部分を点検するのかを確認するための条項だ。 ただ都市基盤施設本部が何度か作業場安全点検、安全関連業務を指示した事実を 「ソウル市情報疎通広場(文書公開サイト)」で確認することができた。 特に都市基盤施設本部は2016年7月、「雨季対応安全点検措置結果」を出したが、 △サビ発生、 △歩行路確保、 △照明の明るさ、 △踏み台の設置など、 とりあえず目に見えるものを確認する水準だった。 中継器未設置のような非常連絡体系を指摘する事項はなかった。 昨年10月に奇襲暴雨に備えて △トンネル内作業者人員統制、 △水門手動作動可否および自動制御システム事前点検、 △水防非常勤務者の定位置およびリアルタイム状況報告など指示を出した。 だが今回の事故が起きた時には、上のような業務指示は出されなかった。

現場は事故で作業中止命令が出た状態だ。 事故調査の結果発表はまだ出てこない。 8月4日にソウル市が災難状況報告文書を作成したが、公開していない。 事故原因究明ははるかに遠い。 それでも都市基盤施設本部は8月4日と16日、 ソウル地方雇用労働庁と陽川警察署側に施設運営が可能かどうかを再度尋ねた。 地方行政部の「労働者安全不感症」を確認できるような項目だ。

ターンキーを渡したソウル市、不渡り会社に下請を出した現代建設

施工者の現代建設も責任を回避する姿だけを見せた。 事故当日、現代建設の関係者が「われわれは水門開放制御の権限がない」と話した。 国土交通部によれば、現代建設は昨年7人の労災死亡者(確定基準)を出した。 建設業死亡事故多発主体2位だ(1位は死亡者10人を出したポスコ建設)。 それでも現代建設はソウル市の工事を受注して工事を進めた。 電子公示によれば、現代建設の今年上半期の国内受注現況は67件、59兆ウォンにのぼる。 特に公共部門での受注額は前年同期比9.1%増加していた。 地方自治体や公共機関が重大災害多発企業に何の制約もなく、多くの発注を出したわけだ。 発注契約はターンキーで行われた。 ターンキーは一括入札だ。 設計、施工、試運転など、すべての工程に対する総額を提示して、 結果だけ受け取る。 したがって、発注者は受注業者が下請に出すのか、 安全規則をどう履行するのかを管理する権限がない。

それで現代建設はハニュ建設に下請を与えた。 今回の事故犠牲者3人のうち2人がハニュ建設の所属だ。 特にハニュ建設は4月に企業回復を申請していた企業だ。 蔚山地方法院は5月にハニュ建設に対して債権・債務に対する包括的禁止を命令した。 この企業は蔚山地域の土地工事業者だが、 ここの建設労働者たちがハニュ建設から賃金、機械賃貸料を受け取れずに テント座り込みなどデモをしたこともあった。 不渡りの危機にあるハニュ建設が、労働者の安全を雑にするのは予想されたことかもしれない。 発注処から下請まで続く多段階構造が安全死角地帯を作ったわけだ。 多段階構造は権限を分離して責任を希薄にした。 2015年、最悪の殺人企業に選ばれた現代建設。 昨年の発注元で4人の労働者を死に追いやったソウル市。 相変らず今回の事故に対する公式謝罪はない。

8月17日。 木洞雨水ポンプ場を訪れた。 作業が中止されたここには人の気配はなかった。 入口を守っていた警備労働者は、事故が起きてからずいぶん経ち、 合同鑑識も終わったのになぜきたのかと記者に尋ねた。 現場の事務室には現代建設の当直が1人いるだけだとし、 出入はできないと話した。 入口側には「現代建設総合安全掲示板」が大きくかけられていた。 面目を失うように 「現場安全保健経営目標」、「現場安全保健経営方針」と記されていた。 今は忘れられた3人の死が語る。 現場の安全は「経営」ではなく、「構造」のせいだと。[ワーカーズ58号]

原文(ワーカーズ/チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2019-09-01 14:22:34 / Last modified on 2019-09-13 19:35:20 Copyright: Default

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