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太田昌国のコラム : トランプとオバマは、それほど異物なの | ||||||
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トランプとオバマは、それほど異物なのか去る6月13日、イスラエル軍は200機以上の戦闘機によって、イラン全土の100以上の標的を攻撃したと発表した。中部ナタンズのウラン濃縮施設、弾道ミサイル拠点などに加え、革命防衛隊のサラミ総司令官などの軍高官と(イランの通信社の発表によれば)アバシ元原子力庁長官を含む6人の核科学者も殺害された。個人を狙い撃ちする場合は、執務室の場合もあろうが、多くは自宅で家族もろとも狙われたと推測されている。イスラエルのモサド(諜報特務庁)は以前から、イランの核科学者を狙い撃ちする暗殺事件を繰り返してきた。モサド要員が「敵国」に潜入して、工作員として活動する場合もあろう。「敵国」内部に協力者を獲得する場合もあろう。よく知られているように、モサドは要人の住居も日々の動向も高い精度で把握しているから、そのような個人の「狙い撃ち」作戦が可能になるのだ。 これに対してイランは直ちにイスラエルに向けたドローン(無人機)発射で報復した。以後、この一週間の動きの中で、注目すべきことを項目にしてみる。 1)イスラエルのネタニヤフ首相の言によれば、攻撃は事前に米国政府に通告した。同首相は、インドのモディ首相、メルツ独首相、マクロン仏大統領、スターマー英首相と協議したが(事前か事後かは不明)、「彼らは(攻撃の必要性を)理解している」と語った。 * * * ガザにおけるジェノサイドに続けて、イランの核施設攻撃に踏み切った核保有国=イスラエルの暴挙にも、これに関わって、自ら(自国の在り方)を省みることのない相変わらずのトランプの物言いにも、腹が立つ。自分たちは核兵器を開発・保持しつつ、他国がそれを持つことは許さないとする二重基準の欺瞞性も顕だ。 ところで、イスラエルの今回のイラン攻撃を知って私が咄嗟に思い出したのは、別なことだ。2011年5月2日、米海軍特殊部隊と中央諜報局(CIA)の部隊がヘリコプター4機と特殊訓練を施した犬も動員して、他国であるキスタン北部アボタバードで、同国政府の同意も得ずに勝手に行なったビン・ラディン殺害作戦のことだった。双方の軍事作戦を共通に貫く性格――驕り高ぶった大国=強国が、国際関係にあって差し当たっての遵守基準になるべき国際法を破っても、それは自国のみには可能だと信じ込んでいる、傍迷惑な選民思想を拠り所としているという意味において。 これをお読みの皆さんは、これが、誰が米国大統領であった時の出来事だったかを覚えておられるだろうか? 初のアフリカ系・有色人種・ハワイ出身の大統領と呼ばれた、民主党のバラク・オバマである。彼は、大統領府の作戦指令部室にある大型スクリーンに映し出された遥けくも遠いパキスタンにおける米軍による特定個人の殺害計画(しかも、自らが下した指令に基づく)が遂行される様子に生中継で見入っていたのである。そばには、国務長官ヒラリー・クリントンを含めてオバマ政権の主要閣僚の顔があった。 オバマが大統領に就任したのは、このビン・ラディン殺害作戦の2年数か月前の2009年1月である。就任直後にオバマは、パキスタンのイスラム武装勢力に対する無人機によるミサイル攻撃を指示した。その後もパキスタンに対する越境攻撃を繰り返し行ない、パキスタン人に多数の死傷者が生じていることが当時報道された。その延長上で、国際法・2国家間関係のあるべき形――などを一切無視したビン・ラディン殺害作戦がある。オバマにとって、パキスタンは「それをしたところで、何らの問題も起こらない、取るに足らない」存在だったのだろう。 就任直後にそんな行為を選択したオバマは、就任から一年と経たない2009年10月にはノーベル平和賞の受賞が決定した。就任から3か月後の同年4月、チェコを訪れたオバマが首都プラハで演説し、「米国には、核兵器を使用したことがある唯一の核保有国として行動する道義的責任があり」「米国が先頭に立ち、核兵器のない世界の平和と安全を追求する決意」を明言した。ただそう演説しただけで、半年後に彼はノーベル平和賞を手にした。それから7年後の2016年、G7 首脳会議へ参加するために来日していたオバマは、米海兵隊岩国航空基地で軍の最高司令官として米軍兵士を「激励」する演説を行なった直後に、ヘリ機で広島平和公園に降り立った。そこで彼は何を語ったか。「71年前、雲ひとつない朝の、抜けるような青空から、死が降ってきて、世界は変わりました」という、主語のない物言いで原爆投下に言及し、大量虐殺の責任をごまかしたのだ。そして自らが手掛けたという折り鶴を平和資料館に置いた。こんな無責任かつセンチメンタルな米国大統領の茶番的な行為に、日本の大方のメディアと人びとはイチコロとなった。 こんな現実を見せつけられて、私は安吾の口調に似せて、次のように言ってみたくなったものだった。「日米同盟(安吾では、天皇制)が存続し、かかる歴史的カラクリが日本の観念に絡み残って作用する限り、日本に人間の、人性の正しい開花はのぞむことができないのだ。人間の正しい光は永遠にとざされ、真の人間的幸福も、人間的苦悩も、すべて人間の真実なる姿は日本を訪れる時がないだろう。」(坂口安吾「続堕落論」、1946年)。 * * * ネタニヤフとトランプの日々の言動も内外政策も、もちろん、耐え難い。彼らは、例えば、他民族を「人間の顔をした獣」と呼ぶとすれば、その言葉通りに、心に何らの痛みも感じることなく、躊躇なく殺す。神に選ばれた選民の、それは、正当な行為だと居直る。そのそばに、バラク・オバマを置いてみる。語る言葉は、確かに、トランプとは違うかに見える。実際にやったことは、どうか。 来年・2026年に「建国250周年」(1776年→2026年)を迎える米国は、あけすけと本音を直截に語るか、本音はオブラートにひた隠して表面的には〈美しい〉言葉を語るか――という違いはあれど、他国に対する侵略的軍事行動を決して躊躇うことのない大統領たちによって一貫して統治されている。その国を強力な支柱として、イスラエルという国家は成立している。このような現状を思う時、黒人解放運動家、アンジェラ・デイヴィスが「パレスチナと(米国)黒人の自由のための運動との繋がり」を軸に据えて、この間の研究と発言を続けてきたことの重要性が改めて浮かび上がる。「米国内部の人種主義、異性愛家父長制、経済的不公正の構造」などは、イスラエルと米国とのあいだの共通性、すなわち「建国以来の入植者植民地主義(セトラー・コロニアリズム)、先住の人びとに対する民族浄化のプロセス、人種隔離システム、構造的抑圧を実行に移す法制度の行使」の現実を改めて浮かび上がらせる、と主張するのである(アンジェラ・デイヴィス「ブラック・ラディカリズムのいくつもの未来」、大畑凛=訳、『ブラック・ライブズ・マター 黒人たちの叛乱は何を問うのか』所収、河出書房新社、2020年)。 世界規模で次々と引き起こされる政治的・軍事的・経済的重大事件に、私たちの心は掻き乱される。そこにつけ込むように、トランプやネタニヤフのような政治家は、ひたすら煽情的、扇動的なキタナイ言葉を撒き散らす。それに巻き込まれず、過去を振り返りつつ事態の本質を探る努力が私たちには必要だ。 Created by staff01. Last modified on 2025-06-21 20:36:47 Copyright: Default |