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 第100回・2025年6月5日掲載

「自由の船」ーパレスチナ人民のジェノサイドを止めよ

 ようやく風向きが少し変わった。欧米でもイスラエルのネタニヤフ政権と軍が行うパレスチナ人民の民族浄化、パレスチナの植民地化、ガザ市民ジェノサイドの実態を認識し、抗議する人が増えた。主要メディアの多くがそれを報道し始め、現地に赴いて体験した実態を語る人道支援の医師や歴史学者、以前はラジオやテレビから発言を求められなかったイスラエル・パレスチナ問題の専門家や識者の声が頻繁に報道されるようになって、政府の言説も変わってきた。

 フランスでは、イスラエルの絶対的支持だったユダヤ系の有名人(ラビの女性、イラストレーターなど)が5月8日、立場を変えてガザの悲惨な状況に対してもう沈黙できないとガザの封鎖解除を訴える声明を出してから、またカンヌ映画祭で主にアメリカの有名俳優がパレスチナ支援を表明して以降、これまで口をつぐんでいたアーティスト、文化人、政治家たちもガザ市民の惨状を訴え、停戦と人道援助を求めるようになった。飢餓で骨と皮だけになった子どもなどの映像のせいかもしれない。「遅くてもしないよりマシ」という諺があるが、多くの子どもを含む5万3000人以上の死者と12万以上の負傷者、ガザのほとんど全土の壊滅まで声を上げなかった人たちは、真に目を見開いてほしい。そして、初めから国際法とパレスチナ人民の権利と自由の尊重を訴えてきた人々への中傷と弾圧がやむことを願う。(写真=「自由の船」マドリーン号)

ガザに向かう「自由の船連合 Freedom Flotilla Coalition」

 今年の3月2日以来、イスラエルはガザへの人道援助を全面的に停止した。約200万人のガザ住民のために、毎日トラック最低600台分の物資が必要だがそれをストップして、爆撃だけでなく飢餓によってガザ市民を死に至らせる措置は、まさにジェノサイドである。さらに、ごく少量の物資をイスラエル軍の息がかかった団体(?)に配布させる「人道援助」の演出を行い、遠方からそこに集まるガザ市民を銃撃するなど、ネタニヤフ政府のサディスティックな行為は際限なく続く。(写真=左から3人目がグレタ、右端がリマ・ハサン)

 2か月後の5月2日、物資を積んでガザに向かおうとした「自由の船連合」の船をイスラエル軍のドローンがマルタ島沖で攻撃した。船の前方で火災が起きて、乗っていた21か国の人道援助活動家は幸い無事だったが、航海は阻まれた。「自由の船連合」は、イスラエルによるガザへの人道援助封鎖に対抗して数カ国の22のNGOが船による物資援助を始めたもので、2010年に船舶がイスラエルに逮捕された時は死者も出た。https://freedomflotilla.org/ 

 1か月後の6月1日、自由の船連合の帆船マドリーンがシチリア島沖から出発した。今回は、気候デモを始めたスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリ、フランスの欧州議会議員でシリアのパレスチナ難民キャンプ出身のリマ・ハサンも乗船した。今回は小さい船で、フランス、スペイン、ドイツ、オランダ、ブラジル、トルコ出身の活動家計12人が参加している。目的は、ガザ完全封鎖と爆撃をストップさせることだ。届ける人道援助物資はもちろん量的に微少だが、イスラエルによる封鎖に空気穴を開け、ジェノサイドを直ちにやめるよう、広く国際社会に訴えようという平和的で象徴的、政治的な行動である。

マドリーン号の軌跡

https://freedomflotilla.org/ffc-tracker/
 5月のイスラエルによるドローン攻撃は、船が公海にいたから国際法違反であり、今回もイスラエルは「自由の船」に対する威嚇をすでに表明している。再度攻撃される危険があるため、6月2日、「1967年以降占領されたパレスチナ地域における人権状況の特別報告者」フランチェスカ・アルバネーゼなど国連の特別報告者10人が、人道援助のための船と乗船した人たちの安全を保障するよう訴えた。
https://www.ohchr.org/en/press-releases/2025/06/gaza-un-experts-demand-safe-passage-freedom-flotilla-coalition

 欧州議会議員をはじめフランス人が6人乗船しているため、フランスの外務省やマクロン大統領に彼らの安全を保障せよという呼びかけ(メール、SNS)も行われている。5月にマクロンが(ようやく)ネタニヤフ政府のガザに対する行為を「容認できない」と批判したのに対し、ネタニヤフ政府は「テロリスト側についた」などと激しく非難したが、マクロンや外務大臣は反論さえしない。ジェノサイド擁護を続ける国内の勢力に対しても何もしない。パレスチナ国家の承認や、武器の輸出や経済協力を断つ決定によってイスラエルを制裁しなければ何も変わらないが、あいかわらずマクロンは口先だけだ。それどころか、再びイスラエルに向けた機関銃の部品を6月5日に南仏マルセイユ近くの港から積み込む予定だと、独立ジャーナリストの調べで分かった。港湾労働者組合は、積み込みを拒否する声明を出したところだ。

 イスラエルの不当行為(戦争犯罪、人道に対する罪、植民地化政策、アパルトヘイト、民族浄化、ジェノサイド)に対する抗議は、主にグローバル・サウスと呼ばれる国々がイニシアチヴをとって進められた。欧米諸国はこれまでと同様、イスラエルを支持して国際法の蹂躙とパレスチナ人の虐殺に目を瞑り続けた。その中でパレスチナ国家を承認したのはスペイン、アイルランド、ノルウェーだけだ(2024年)。スペインは今年の4月、左翼政党の要請によってイスラエルからの武器輸入契約を破棄した。2023年12月29日、南アフリカが国際司法裁判所(ICJ)にジェノサイド条約に違反するとイスラエルを提訴したが、スペイン(2024年6月)とアイルランド(2025年1月)もこの訴えに加わる旨をICJに提出している。(他にニカラグア、コロンビア、メキシコ、チリ、ボリビアなど中南米、トルコ、キューバなど13か国、ベルギーとエジプトは意向を表明したが正式な要請はまだ送られていない。)

 EUはイスラエルと自由貿易や政治対話の協定を結んでおり(2000年から施行)、EUはイスラエルの最大の取引先、3割を占めるという。その協定の第2条には人権を守る必要性が明記されているため、本来ならずっと以前からイスラエルのパレスチナ植民地化政策やアパルトハイトを批判して契約を見直せたはずだが、最近になってようやく見直しの可能性が語られるようになった。

 リマ・ハサン(写真)は欧州議会で1年近く、パレスチナ人民に対する虐殺や弾圧をやめさせようと何度も決議を提案して努めたが、保守と極右が過半数の議会で少数派左翼グループThe Left(720人中46人)に属する彼女たちの提案はほとんど実を結ばなかった。それにEUの政策の決定権を握るのはEU委員会と各国政府の指導者たちであり、彼らはこれまでもイスラエルの植民地化政策やアパルトヘイトを容認し続けた。指導者たちの無為とジェノサイドへの加担が変わらない現状を見て、リマは市民として行動する必然性を感じ、「自由の船」に乗って国際社会に訴えようと決めたと言う。イスラエル/パレスチナ問題はリマにとって、アパルトヘイト時代の南アフリカと同様、植民地主義による人権蹂躙に対する人類の基本的な闘いである。人権と国際法の擁護のために欧州議会議員としての限界を感じた彼女は、世界中の大勢の市民の行動によって政治を変えさせようと訴える。パレスチナ「自由の船」のアクションに賛同する人々の呼びかけは現在、40万人近く集まっている。
https://actionnetwork.org/letters/formal-notice-regarding-the-civilian-humanitarian-vessel-madleen-and-the-legal-obligations-of-the-state-of-israel-under-international-law-2?source=FFC-Home&

 出発前のリマ・ハサンとグレタ・トゥーンベリの言葉を紹介しよう。

リマ「私がマドリーンに乗るのは、沈黙することが中立ではなく共犯だからです。ガザのパレスチナ人民が虐殺され、飢餓を強いられているのを、世界は見ているだけです。この船は救援物資だけを運ぶのではなく、要求を届けます。ガザ封鎖をやめよ。ジェノサイドをやめよ。」
グレタ「私たちは200万人が体系的に飢えさせられるのを目撃しています。世界はこれをただ眺めて沈黙してはなりません。私たちのひとりひとりに、パレスチナの自由のために自分ができるすべてのことを行う道徳的な義務があります。」

 リマ・ハサンは服従しないフランスLFIから候補して欧州議会議員になった。LFIは2023年10月、ガザ攻撃が始まった当初からネタニヤフ政権による大量の虐殺行為を懸念し、パレスチナ市民をの支援と停戦を求めてきた。そのため、テロリスト擁護だとか反ユダヤ主義だとか中傷され続けた。リマ・ハサンと国会のLFI会派の長マチルド・パノーは、警察に呼び出されて「テロリスト擁護」の疑いで取り調べを受け、ジャン=リュック・メランションとリマ・ハサンのいくつか講演会は禁止された。リマはさらに、パレスチナ出身の若い移民女性であるために、極右やネヤニヤフ支持者から多数の中傷と脅迫、性的ハラスメントを日常的に受ける。「自由の船」行動ではドローンの攻撃を受けて死ぬ危険もあり、イスラエル政府に逮捕される可能性も高い。しかしリマは、この行動が自分の存在と生き方に沿ったもので、自分の使命だから、死は怖れないと言う。彼女の勇気と人間性、知性、信念の強さを讃えたい。彼女は未来のフランスを象徴する存在だ。

 パレスチナ人の命を一人でも多く救うために、人間の尊厳を救うために、「自由の船」に乗船したメンバーたちの行動を世界じゅうから支援しよう。ネタニヤフ政府による非道をやめさせるために、市民が立ち上がろう。

 来る6月12日、世界各地のNGOをとおして市民がエジプトのカイロに集合し、「ガザへのグローバル・マーチ」に参加する。エジプト当局にラファへの通過を交渉し、13日にEl Arishまでバスで行き、そこから徒歩でラファに向かう(15日に到着予定)。人道援助物資をガザに送る交渉が目的だ。世界30か国の市民が登録しているという。為政者たちの無為とジェノサイド加担に抗議して、世界の市民は各地でさまざまな行動を起こしている。私たちも各自、この重大な歴史の節目に自分ができることは何かを考え、行動しよう。 https://marchtogaza.net/

2025.6.4 飛幡祐規

*過去の「パリの窓から」は以下のコラム一覧からご覧ください。
http://www.labornetjp.org/Column


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