大阪・関西万博あの日工事現場で起きていたこと

かわすみかずみ

大阪関西万博の工事現場で何が起きていたのかを話したいという男性がいる。パビリオン建設に真剣に取り組み、万博に訪れる人々の姿を描きながら過酷な工事にひたむきに向き合い続けたマルタ館の建設業者·Ａさんを助けたいという思いから実名報道に踏み切ったのは、高関智啓さん（56）だ。高関さんは、アメリカ留学を経て広告代理店に勤務。その後看板製作の実務を習得し、2021年に独立した。広告業界やPM（プロモーションマネージャー）の経験から、万博の裏側を見てきた。

高関さんが万博に関わるきっかけはＢ工務店だった。GL Eventsのスタッフの友人を介して、Ｂ工務店から「マルタ館の看板製作者がいないので助けてほしい」と言われた。現場に行ってみると混乱した状況だった。

GL担当者から看板のイメージ図を見せられ、このような看板を作ってほしいと言われたが、無理だと断った。だが、「どういうものならできるのか?」と言われ、交渉の末引き受けた。しかし、内容変更が多く、看板製作は難航した。GL社は開幕に間に合わせようとしていたが、高関さんはどう考えても無理だと思い、現実とのギャップを感じていたという。

看板製作では、設置場所の関係で基礎工事や配線工事の業者との擦り合せが必要となる。そのとき初めてＡさんに会った。3月22日頃だった。Ａさんはかなり疲労していて、表情も暗かったそうだ。高関さんはＡさんから工事の状況や契約書の内容など、すべての事実を聞いた。高関さんは、とにかく何とかしなければという思いで「手伝います」とＡさんに告げた。高関さんは、「あのとき現場では、『とにかく開幕に間に合わせよう』という思いでみんなが団結していた」と語る。

吉村知事が「絶対間に合わせます」と言ったことが24時間労働の引き金になったという声もあるが、高関さんはそうは思っていない。強いて言うなら、無理な建設計画を放置した万博協会の責任だという。

高関さんは、「万博の工事が始まる前から、東京方面からブローカーの情報が入っていました」と証言する。仕事の先輩からもUSJの工事でフランス人設計者による修正、追加工事、未払いで多数の倒産が出たと聞いていた。高関さんは海外企業との取引には警戒していたそうだ。海外パビリオンの受注業者が決まらず、吉村知事や万博協会が中小企業にチラシを撒き、頭を下げたときも、ほとんど効果はなかったのではないかと、高関さんはいう。当時の報道で、中小事業者への説明会に参加した業者が、「具体的な内容がなく判断できない」と言っていたのが印象的だった。結局、業者が集まらなかったため、ブローカーが入ることになったのではないかと、高関さんは推測する。

工事中に起きたこと

高関さんは、国や万博協会、大阪府市の職員がマルタ館を見に来たことは一度もなかったと証言する。また、昨年3月のメタンガス爆発や、元々あった土壌汚染についても知らされたことはないという。高関さんは「万博協会はメガイベントの管理方法を知らない素人集団なので、何もできなかったというのが事実だと思います」と述べた。これまで電通や博報堂が仕切ってきたメガイベントでは、こんなに段取りができないということはなかったからだ。

実際、テストランのときなどは、「前夜に決まったので」と言い、当日突然工事をストップさせた。工事業者はその場で待機するより他なかった。何時までなのかも知らされない状態だった。また、GL社が監視カメラを設置し、労働者を監視していたことも現場で見ていたという。GLの現場責任者は、前任がうまく統括できなかったことから、管理体制を厳しくする必要があったようだと、高関さんはいう。現場で、「なぜもっと人を入れないのか?入れないなら24時間働け！終わるまで帰らせるな!」と現場責任者が言っていたことを覚えている。

高関さんによれば、GL社の職人は現場で飲酒や喫煙し、ヘルメットも被らずに作業していたという。安全管理のために行う朝礼での健康チェックや危険箇所の確認などもしていなかったそうだ。 GL社が日本の労働基準法や下請法、建設業法を理解していたか?という問いに、高関さんは「協会自体が理解していなかったと思います」と答えている。また、GL社には、日本の法律など気にしなくていいという風潮もあったのではないか?と答えた。

GL社が強気な理由

高関さんはGL社が日本の建設業者に強気で対応する理由を①日本の建設業者を下に見ていた可能性がある、�え廊�スポンサードによる優遇、と考えている。高関さんはマルタ館の工事中に、GLの責任者から、Ａさんが何度も叱責され、罵倒されているのを見ている。また、そもそも契約内容の工事が期間内にできるはずもないのに無理やり進めさせるなど、非常に理不尽なことも多かった。そこには、日本の建設業者は自分たちより下にいるという感覚があったのではないか。

次に挙げるのはメガイベントへのスポンサードだ。来年行われるアジア競技大会に関して、GL社は今年1月、愛知県に22億円を寄付している。これによって最上位のスポンサーとなった。これを利用して630億円で随意契約を結び、運営や設備を一手に引き受ける。高関さんは、「通常、スポンサーとなった企業が仕事を受注することはあり得ない」という。今年8月にGL社を提訴したレゴ社社長·辻󠄀本敬吉（たかよし）氏によれば、GL社は辻󠄀本氏の未払金請求に対して「アジア競技大会に寄付したため、払えない」と言われたと証言している。

日本の企業倫理や法律を無視して万博工事を行なったことについて、大阪府の吉村知事は「GL社の場合は言い分があるので、現在裁判で争っている。司法に判断してもらう」と発言した。吉村知事はこれまでも、アンゴラ館建設の際横領したとされる一六八建設を行政処分しただけで、GL社の違法性については発言していない。

GLEvents ジャパン社は2016年に設立。2019年7月の国際イベントニュースでは、CEOのクリストフシゼロン氏が、今後5年はアジアで事業展開すると発言している。GL社は発言通り2019年の愛知国際展示場運営、20年の東京オリンピック、25年の大阪・関西万博、26年のアジア競技大会と着実にメガイベントを獲得していく。フランスのリヨンにある本社は、本国で大きなサッカー場の指定管理権を獲得。本国でも名前を知られる会社だ。

万博という国家プロジェクトで、まさかこんな酷いことが起こるとは思っていなかったという被害業者は多い。マルタ館の被害業者Ａさんもそのひとりだ。高関さんはＡさんが、「目をつぶると夢を見そうになる」くらい極限状況で働かされた現場を見ている。それでも希望を失わず、開幕に間に合わせたＡさんこそが本当のヒーローだと、高関さんは言う。「業者が見つからず、走り回って業者を探した」とまるで自分が立役者のような発言を吉村知事がユーチューブで語ったというが、彼は英雄でもなんでもない、と高関さんは毅然と言った。

大阪・関西万博 あの日工事現場で起きていたこと

工事中に起きたこと

GL社が強気な理由

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