本文の先頭へ
LNJ Logo 「戦後80年《明日の神話》次世代につなぐ 原爆×芸術」展
Home 検索
 




User Guest
ログイン
情報提供
News Item 0922art
Status: published
View




 志真斗美恵 第15回(2025.9.22)・毎月第4月曜掲載



●「戦後80年《明日の神話》次世代につなぐ 原爆×芸術」展(川崎市立岡本太郎美術館)

原爆の記憶をどのように次世代へ伝えるか?

 戦後80年で多くの美術館が企画展を行なっている。その一つである川崎市生田緑地の岡本太郎美術館を訪れた。生田緑地に車は侵入禁止で、セミの鳴き声に耳を傾けながら大木に囲まれた坂道を歩いた。美術館では、岡本太郎の仕事を次世代にいかに継承するかを念頭において「次世代と描く原爆の絵」と「現代アーティスト9組(8人+2人)の作品」を展覧している。

 展覧会のきっかけとなったのは、広島市立基町高等学校創造表現コースの生徒たちの作品だ。爆心地の近くにある同校の生徒たちは、2007年から、広島平和記念資料館の依頼により、半年以上かけて被爆体験者から証言を聞き、その記憶を絵にする活動をしてきた。1年かけて仕上げた作品222点は広島平和記念資料館に収蔵され、今回、初めて42作がまとめて岡本太郎美術館で紹介された。

 生徒の絵は、部屋の左右に展示されている。部屋の正面の壁には言葉が掲示されている。「自分はまだまだ無知であることを知る」「血を流しながら苦しそうに歩く人、見てもいないのに私が描いていいのか」「記憶や感情を、一度自分を通してキャンバスに描いていくことは、大変難しく、責任が重い」「1枚の絵ではあるけれども、その中にたくさんの平和な世界を目指す思いが込められている」……すべて絵を描いた高校生の言葉だ。

 「死んだわが子を背負う若いお母さん」(2016津村里奈)、「アア!幽霊だ!」(2013高山愛季)、「母の背中 大火傷にウジ虫が動く」(2012山下聡美)など、写実的に描かれている。

 迫田勲は、原爆投下の日、森で作業中に黒い雨を受け、級友とはしゃいでいた子どもだった。高齢になり、高校生の持田杏樹に当時の様子をはなした。それを聞いた持田が作品にしてゆく過程が映像化(2024)され、館内で流されていた。 

 岡本太郎は、「明日の神話」(1968)で原爆が炸裂した瞬間を描いた。「明日の神話」は、渋谷駅通路に設置されている。会場中央にその大きな原画が提示されている。岡本太郎は、30歳で応召し、中国戦線で「冷凍された5年間」を過ごした。岡本は、原爆を「日本人すべてが引き継がなければならない問題」と捉えていた。彼の撮った広島、長崎の写真も展示され、一枚一枚の鋭い画角が印象的だった。

 現代アーティストは、80年前の戦争の記憶を起点として、現在の戦争や原発事故を、自分自身で受けとめ、油絵のみならず、彫刻、映像などをはじめ多様な手法でとらえようとしていた。参加作家は、安藤榮作、笠木絵津子、後藤靖香、小林エリカ、蔦谷楽、冨安由真、安喜万佐子、米谷健+ジュリア、李晶玉で、女性が8人もいる。

 在日朝鮮人3世である李晶玉は、「排外主の流れは日増しに加速し肥大しているように感じる」と記している(作者の言葉)。『Ground Zero』(2022)では、遠くに富士山があり、川は蛇行し東京湾が描かれる。上空に原爆とみえる赤い球体がみえ、その下の東京の街は黒い。現代の都市の感覚で広島の被爆範囲を実感させる。原爆を投下したB29のコックビットを描いた『Enola Gey』もある。これらは白と空の青で表現され、異様に静謐な雰囲気に満ちている。

 被爆3世の安富由真は、「影にのぞむ」と題して、天井から下がる手を、インスタレーションで表現している。小説『女の子たち風船爆弾を作る』(文藝春秋刊)が評判を呼んだ小林エリカは、インスタレーション「SUNRISE」で、太陽の光が地球に届く時間と原子爆弾の光を体感させる。インスタレーションとは空間全体を1つの作品と捉え、オブジェや映像、音響を配置して観客が五感で体験する現代美術の表現だが、たった1人で部屋に入り静けさの中で彼女らの思いを追体験し考えることができる。

 実際に被爆した方たちが高齢になっている現在、経験をとらえようとする芸術の試みに注目したい。様々な方法と作品とを積み重ねることが、非戦の課題を浮き彫りにするだろう。

(10月19日まで、一般1000円、高・大学生・65歳以上800円、中学生以下無料)


Created by staff01. Last modified on 2025-09-22 10:07:51 Copyright: Default

このページの先頭に戻る

レイバーネット日本 / このサイトに関する連絡は <staff@labornetjp.org> 宛にお願いします。 サイトの記事利用について