


戦争トラウマからPTSD(心的外傷後ストレス症)に苦しんだ元日本兵を父に持った黒井秋夫さん(76)(PTSDの日本兵家族会・寄り添う市民の会代表)の講演会が11日、京都市内でありました。
黒井さんは3日に那覇市で行われた「戦争PTSDを考える講演会・シンポジウム」(5日のブログ参照)にも出席するなど、全国各地でこの問題を訴えています。
戦争がもたらした重大な被害であるにもかかわらず、この問題が広く知られるようになったのは近年になってからです。
黒井さんはその主要な理由が、戦争神経症の兵士は「皇軍には皆無」と戦時中に日本軍・政府が虚偽発表し、メディアがそれに追随して報じたこと、さらに唯一の治療機関だった国府台陸軍病院の院長が「50年間の箝口令」を敷いたことにあると指摘しました。
黒井さんは戦争トラウマ・PTSDに苦しんでいるのは元日本兵士とその家族だけではなく、日本が侵略した中国の人々も同様であり、日本は加害者としての責任を自覚しなければならないと主張。昨年、父親が戦った吉林省を訪ね、現地の人々に土下座して謝罪しました。
黒井さんの講演のあと、受講者として参加していた精神科医の野田正彰氏がフロアから発言しました。
野田氏は、「ベトナムでは今も枯葉剤など米軍の攻撃による被害に苦しんでいる人が多いが、アメリカの精神科医は全く目を向けようとしていない。ベトナムの被害者に手を差し延べているのはドイツの医師たちだ」とし、それは「自分の父・祖父が戦争で何をしてきたかを問いかけてきたからだ」と指摘。「日本は敗戦後、昭和天皇が生き残る社会をつくってきた。いま、どういう社会をつくるのかが問われている」と、戦争トラウマ・PTSD問題が今日的な課題であることを強調しました(写真右)。
黒井さんたちの会は、戦争トラウマ・PTSDの被害・加害を、「戦争はしません 白旗を掲げましょう 話し合い和解しましょう」というスローガンに込め、非戦の活動に繋げています。
そのことは昨年、同じ「家族会」の藤岡美千代さんの講演で知り、たいへん共感しました(24年7月28日のブログ参照)。その思い・思想を確認するため黒井さんに質問しました。「侵略者によって家族が殺される、犯されるという状況でも実力で抵抗しないで白旗を上げるのか、という俗論にはどう答えますか?」
黒井さんは「よく受ける質問だ」としたうえで、「まず逃げる。それでもだめなら素手で家族の前に立って守る。だれにでもできる非暴力のたたかいを追求する」と答えました。
私はさらに、「祖国を守るために戦っているウクライナ市民にも白旗を上げるべきだと言いますか?」とたずねました。黒井さんは間髪入れず「はい、そうです」。「なぜ?」「侵略に対して武力で立ち向かえば、戦争はなくならないからです」
「白旗を掲げましょう」の思想・運動に共鳴・賛同します。ただ、「もし家族が…」という質問に対する答えはまだまだ検討する必要があると思います。「侵略に対する武力抵抗は正当な自衛権」という「国際法」の影響が、「平和民主勢力」を含めて根強いからです。
その理論・思想をどう乗り越えるか。それを黒井さんたちの活動だけに依存することはできません。学者・研究者(とりわけ平和学、国際法、政治・外交、哲学)の役割が問われます。
黒井さんは「これからアジア・世界にこの旗(写真中)を広げていきたい」と意欲を燃やしています。その活動を支持し応援したいと思います。