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LNJ Logo 子ども甲状腺がん裁判〜新たな原告の怒りの陳述
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News Item 0917saiban
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堀切さとみ

 100万人に1人しか発症しなかった小児甲状腺がん。わずか14年の間に400人の子どもが罹患しているのは、放射能による被ばくのせいではないのか。

 9月17日、311子ども甲状腺がん裁判が東京地裁で行われた。第15回期日のこの日、大きな転換点を迎える法廷となった。
 提訴から三年余、7人の原告たちが声をあげてきたが、新たに原告が加わったのだ。186名の人たちが抽選の列に並び、私は運よく東京地裁103号法廷で傍聴することができた。
 原告8番の瞳さんは、堂々と証言台の前に歩いてきて、衝立なしで意見陳述した。いわき市出身、事故当時は小学6年生だった。

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 原発が爆発した時「いつかガンになって死ぬかもしれない」。12歳で、そういうことを、なんとなく受け入れていました。
 原発事故後の世の中の急な変化で、感情が麻痺し始めました。目の前が薄く暗くなり、沼の中を歩いているような苦痛な日々でした。でも毎日学校があって、部活に行き、友達と家に帰る。その繰り返しで、ニュースで語られる「フクシマ」と、自分の生活はかけ離れていました。外国では、福島に住人は住めないと言われているらしいけれど、私の目の前には震災すら日常になった、日々がありました。

 高校二年でがんが見つかりました。「この大きさになるには10年かかるから、事故の前に出来たものだよ」と医師に言われ、素直に受け入れると「皆、あなたのようだったらいいのに」と医師に言われました。「見つかってラッキーだったね。とれば大丈夫」とも言われました。
 手術を終え、大学に進むと、激しい精神障害に襲われました。幻聴や幻覚・・・一年前、震災後PTSDだとわかりました。「大丈夫だった」と麻痺させていたツケが回って、心と体が壊れたのだと思います。

 裁判のためにカルテを開示すると、1回目の検査の時は、がんどころか、結節もありませんでした。わずか2年で、1センチのがんができたのです。しかも、リンパ節転移や静脈侵襲がありました。
 「事故前からあった」という医師の発言は嘘でした。この事実を知り、私の精神状態は悪化し、提訴後、会社を辞めました。

 9年前、手術の前日の夜、暗い部屋で1人、途方もない不安や恐怖を抱えていました。その時、私の頭に浮かんだのは、「武器になる」という言葉でした。私は反原発運動に利用する大人に怒っていました。私は、大人たちに都合のいい、可哀そうな子どもにならない。何があっても幸せでいようと思いました。
 不安と恐怖と混乱でおぼれてしまいそうな中、手繰り寄せて掴んだものは「怒り」です。尊厳を侵された時、怒りが湧くのだと知りました。
 大人に利用されたくないと強く願っていたのに、国や東電に都合のいい存在になっていた。胃がねじ切れそうなほど悔しいです。

 私が受けてきたのは、構造的な暴力です。命よりも、国や企業の都合を優先させる中で、私たちの存在はなかったことにされていることに気づきました。私たちは論争の材料でも、統計上の数字でもないのです。甲状腺がんで体と人生を傷ついた私たちは、社会から透明にされたまま、日々を生きています。私にとって福島で育つということは、国や社会が守ってくれないことを、肌で感じることでした。

 でも私は抵抗しようと思います。命と人権を守る立場に立って、どうか独立した判決をお願いします。

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 途中からずっと泣いていた瞳さん。その背中を見ながら、彼女の怒りと覚悟を感じた。三人いる裁判官は皆若く、一人は瞳さんと同じ年齢だという。

 日比谷コンベンションホールでの報告集会では、傍聴できなかった人たちのために、原告が前日に録音した意見陳述の音声が流れる。この日もそうだった。静かで深い瞳さんの声が終わった時、法廷では許されない拍手が会場を包んだ。

 原発賠償関西訴訟団長の森松明希子さん、『俺たちの伝承館』の中筋純さんに続いて、福島県内の母子にアンケート調査をしている中京大学の成元哲教授(下写真)が、この14年のことを語った。「今からでも避難しようと思っているお母さんと、ここに居続けようと思っているお母さんとで、語り合う場を作ろう」と提案したら「語り合うなんて戦争」と返された。「もう、そっとしておいてほしい」「調査自体が風評だ」と言われてしまうのだと。こうした福島の現実が、瞳さんの苦しみを生み出してきたのだと思う。

 驚いたことに報告集会の最後に、瞳さんが登壇したのだ。集会参加者を前に「こんなに多くの支援者がいることを、ガンになった時は想像していなかった。支援者と七人の原告がつないでくれたおかげで、追加提訴できました」と感謝の言葉を述べた。
 まっすぐな瞳で、私たち一人一人に、護るべき尊厳とは何かを教えている。

 次の期日は12月17日(水)14時15分から、東京地裁103号法廷にて。


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