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LNJ Logo あらためて引き込まれた「はだしのゲン」の力声〜神田香織・伊織「戦争講談」を観て
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小泉雅英

 神田香織さんの講談『はだしのゲン(総集編)』を見に行った(2024/08/02 なかの芸能小劇場)。

 今回は、「神田香織・伊織 戦争講談 親子会」ということで、先ずは前座の神田おりびあさんが、歴史上の「本能寺の変」(部分)を、メリハリの効いた名調子で語った。全編は、おりびあさんが二ツ目に昇進してから、という。楽しみにしたい。

 次に、神田伊織さんの『東京大空襲』。以前、祭礼か何か、御茶ノ水駅頭で、伊織さんが語っているのに遭遇し、しばし足を止めたことがあった。高座でお話を聴くのは、今回が初めて。声も良く、語りも上手いので、ついつい引き込まれてしまった。

 『東京大空襲』は、伊織さんが学生時代に、戦争体験者の聞き書をしていて、その時に出会った老人の話を基に創った作品という。その男性の初恋の顛末など、面白可笑しく、笑ったり泣かされたりしている内に、戦争の悲惨さが語られる。伊織さんには、今後も、夏場だけでも、幽霊に成り代わって、無念の死を遂げた多くの民衆の声を語り続けてもらいたいものだ。


*神田香織さんと伊織さん(右)

 休憩の後、いよいよ神田香織さんが登場。『はだしのゲン(総集編)』は、ゲンの家族が原爆に遭い、日常が一変、父親を失い、生命だけは助かった母とゲン、産まれたばかりの妹の「8・15」までの状況を、主にゲンの行動を通して描かれる。

 食べるものもなく、赤ん坊に飲ませる母乳も出ない中で、母と妹を救うために、お米を求めて彷徨うゲン。行く先々で遭遇する体験が、神田さんの全身が躍動する語りで、展開される。
 立ち寄った農家で、虎造ばりの名調子で浪曲を聴かせ、食べ物を貰うが、子どもの唸る浪曲に農家の主人は涙し、それを聴いている観客も、泣かされる。かと思うと、切腹を見せて上げると子供たちを騙し、せしめたお米を抱いて逃げる途上で、肥溜めに落ちてしまう話に笑わされる。
 死体と間違われて運ばれ、多くの遺体と一緒に焼かれそうになり、火傷を負ったが、危うく九死に一死を得るなど、散々な状況を生き抜くゲンが、神田さんの語りを通して、いつの間にか神田さんがゲンになっている。

 そんな中で、お金持ちの家で、全身にウジが湧いた男性の世話をする仕事を得る。家族からも見放され、奥座敷に押し込められた青年は、実は画家で、ゲンと同じく、原爆の被害者だった。初めは恐る恐る接していたゲンも、彼の要望に応え、ウジを取ったりなど、いろいろと世話をする。
 やがて青年の我儘に閉口し、思わずピシャリとたしなめて、逃げ出す。が、やはり気になり戻ると、青年の態度も変わり、これまでに描いた作品をゲンに見せるなど、神の国日本を信じる皇国青年としての自らを語り出す。ゲンも父から受けた反戦思想を語る中で、青年はリアルな現実を認識し始め、二人の関係性が変わって行く。

 3円という大きな報酬を得て、帰途に就く頃、「終戦」の放送に出くわす。戦争が終わった。これで平和な世界に暮らせる。母を抱きしめながら、戦後への決意と希望を語るゲンの言葉で、50分余にわたる『はだしのゲン(総集編)』は、終わった。

 舞台で観客を泣かせていた神田さんは、終演後、親しい人、懐かしい人と挨拶を交わす中で、感激の涙を流していた。

 中沢啓治の原作『はだしのゲン』を読んだのは、既に半世紀前で、リアルな描写と展開に、強い印象を持ったことは確かだが、個々の物語は、殆ど忘れている。今回の講談では、ゲンの行動を通して、生きることへの強い意志と、平和への希求を、改めて感じさせられた。同時に、物語を立ち上がらせる講談の表現力を思い知らされた。
 次回も、何とか見に行きたい。(2024/08/03記)

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【8月6日(火)追加公演決定!】
 会場:本所地域プラザBIG SHIP 四階多目的ホール(東京都墨田区本所1−13−4)
 開場18時30分 開演19時
 木戸銭:3000円 当日券のみ(予約不要)
 ※定員(120人)になり次第札止め
 問い合わせ:オフィス10 office10.jyu@gmail.com 03-6315-0422


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