〔週刊 本の発見〕笠原十九司『日中戦争全史・上巻』 | |||||||
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毎木曜掲載・第219回(2021/8/26) 戦争の前史と前夜が見えてくる『日中戦争全史・上巻』(笠原十九司 著、高文研)評者:志水博子今年の8月がもうすぐ終わる。よく言われるが、8月になるとメディアは「戦争」を取り上げると。たしかに、広島・長崎の原爆忌、そして敗戦、8月は戦争の記憶を想起する季節だろう。しかし、日中戦争のことはどれだけ報道されただろうか。相変わらず少ないような気がしている。 そういう私も、小学生の頃は、日本はアメリカに敗けたのだと思っていた。その頃中国のことはどう思っていたかよく覚えていないが、少なくとも日本が侵略戦争を仕掛けたとは恥ずかしながら思っていなかった。学校で習った記憶もはっきりしない。ずっと後になって、日本は中国に敗けたと聞いて驚いた記憶がある。そのぐらい何も知らなかった。 数年前のことであるが、日本語教師として中国大連で3年間を過ごした。12月の大学には一二・九運動のポスターが貼られていたが、なんのことかわからなかった。それどころか満州事変、上海事変、盧溝橋事件、南京大虐殺、それらが頭の中で点在しているだけで線にならない。それに日本で起こった事件との関連も見えない。まして国際情勢の中に位置付けることなどできもしない。いかに自分が歴史を知らないか痛感した。それがようやく、本書によって繋がり始めた。著者は、私のような何も知らない読者のために、最初の20頁を割き日中戦争の鳥瞰図を示してくれている。これはありがたかった。 戦争には「前史」と「前夜」があるという。戦争は突然勃発するのではなく、戦争へと進む「前史」があり、それがいよいよ戦争発動・開始の「前夜」の段階まで進むと、戦争を阻止することはほとんど不可能となり、謀略でも偶発的事件でも容易に戦争に突入すると。日中戦争の歴史から学ぶべきことは、いつから「前史」が始まり、いつ「前夜」に転換したかを知ることであると。なるほど、そう考えれば、本書は“戦争リテラシー”といえる。私たちはそれを習得しなければならない。そういう時代に私たちは生きている。 731部隊を、南京大虐殺を思うとき、日本人はなぜあんな残酷なことをしたのだろう、いや、そもそもなぜ侵略戦争を起こしたのだろう、それがわからなければ、繰り返さないという保証はどこにもない。いま、おそらく多くの人が戦争を懸念しているのではないだろうか。私もそのひとりであるだけに、戦争を読み解きする能力がほしい。 本書は、前史と前夜という2つのキーワードを要にして“点”を繋いで見せる。歴史の中から見えてくる戦争は、実は周到に準備されている、その反面まったく偶発的なところから起こる、一見矛盾しているその二面性がわかる。平時では思いもしないことが仕組まれる一方で、日常の延長に戦争があることもよくわかった。陸軍内や海軍内、またその両者の派閥争いなどは、今でも政界・財界に絶えないものであろう。人物や事件に即して見るなら、満州事変を仕組み、「満州国」樹立の立役者であったといえる石原莞爾が戦争不拡大を主張した盧溝橋事件や、その反対に予備役になっていた松井石根が登用され南京で大虐殺を起こすまでの経路を辿っても、必然的なことの積み重なりに偶然が作用し戦争が起こる。中でも盧溝橋事件を契機に戦争拡大派であった海軍が仕掛けた「大山事件」には、戦争のためにここまでシナリオを書いたのかと驚いた。ソ連・欧米の存在が日中戦争にどのような影響を及ぼしたか、そして中国における国民党と共産党の対立と合作が抗日戦線をどのようにつくっていったか。「暴支膺懲」を作り出し、広めることでマスメディアがどのように戦争に協力したか。さまざまな側面から戦争の前史と前夜が見えてくる。 それにしても、侵略する側の謀略に次ぐ謀略、陳腐な縄張り争いには呆れるほどであった。徹底的な情報操作、上意下達の官僚組織、成果を狙う野心に満ちた人々、何もかもが今も繰り返されているようで怖い。一方、侵略される側の抗日の思いや運動が正直ここまで強いものだとは知らなかった。一二・九運動は、「抗日救国のための自由を求める宣言」のもと1935年12月9日に立ち上がった学生たちの運動であった。続けて下巻を読もうと思うが、上巻だけでも中国を侵略しようとした日本が中国に敗けたわけがわかったように思った。 *「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・志水博子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美・根岸恵子、黒鉄好、加藤直樹、ほかです。 Created by staff01. Last modified on 2021-08-26 10:53:07 Copyright: Default |