本文の先頭へ
LNJ Logo 社会の隙間から漏れる子どもたち〜ドキュメンタリー映画『夜間もやってる保育園』
Home 検索
 




User Guest
ログイン
情報提供
News Item 1002eiga
Status: published
View


●長時間保育の是非を問う前に観たい映画

社会の隙間から漏れる子どもたち〜ドキュメンタリー映画『夜間もやってる保育園』

   笠原眞弓

 久しぶりに新宿歌舞伎町を日中に通り抜けた。スッゴク怖かった。縄張りでも見張っているのか、数人が四辻に立って睨みをきかせている。表通りはともかく、ちょっと入ったところに小さい飲み屋街がある。子どものころはもちろん、大人になっても路地は走り抜ける気分だ。新宿は、不思議な街。そんな喧騒から一歩入った2階建ての住宅の並ぶ一角に、「エイビイシイ保育園」がある。あれは何年前だったか、夜間保育もやっていると聞き、子を持つ親としての関心から当時仕事をしていた婦人雑誌で紹介するために訪ねた。

 一般の保育園では園児のお迎えがすみ、保育士さんたちも帰宅を急ぐ時間になってもここの子どもたちの数人は帰らない。朝まで、時には連泊もと園長の片野清美さん。親の愛情は、時間ではなくてどれだけ本気で向き合ったかだと話された。9時過ぎに研究課題に取り組んできた医師のお母さんが、お迎えに来る。飲食店を閉店してからぐっすり眠っている子どもを抱き上げて家路を急ぐお父さん。園長は、この仕事を始めたきっかけは九州に子どもを置いてきたことの申し訳なさだと、語って下さった。

 目の前に映し出される映像は、他の保育園もあるが、主に「エイビイシイ保育園」である。はち切れそうな子どもや保育士たちと、さまざまな子育ての問題解決に真剣に取り組む当時と変わらない園の姿勢だった。

 1日2食を食べる子もいる保育園の食事が、子どもたちの「からだ」と「こころ」、すなわち「いのち」を作っていくからと給食を有機野菜にしている。なんとその有機農家は、私もよく知る、何回も私たちの雑誌に登場した方だった。栄養士も目の前の旬の野菜をどう調理すればいいか熱心に取り組み、子どもたちは時にその畑を訪ね、収穫も手伝う。映像にはなかったが、最近ではこの園を中心に、保育園、幼稚園に有機給食をと呼びかけ、費用や調理法などのノウハウを惜しげもなく伝授している。

 他にこのところよく聞く、落ち着きのない集中力にかける子どもの保育にも、専任者をつけて取り組んでいる。先駆的な他園を保育士たちと訪ね、学んでもいる。さらに保護者の熱意で、学童保育も始めたという。

 遠くに引っ越した家族が、保育園を訪ねてくる。元園児だった子は棚に触り、引き出しを開け閉めして歩く。カメラは彼女を丁寧に追う。それはまるで幼かった自分の記憶を確たるものにするようでもあり、保育園の、母のぬくもり、故郷のぬくもりを確認するようでもあった。

 映画は、他の夜間保育をしている園も訪ね、園長や保育士の想い、問題点も聞いていく。子どもが小さい時に「ただいまといったら、おかえりと言ってくれる普通のママがいい」との言葉を忘れない那覇の保育園の園長、自分の子どもは……と迷いつつも、目の前の子どものためにはここが必要という保育士。

 新宿という場所柄、夜間預けている人はやはり飲食店で働く方も多い。「いいのかな」と思いながら……、「働く」が先で……、「日本で成功する」までは……という親たちの気持ちをしっかりと受け止め、「困ったことがあったらいつでも言ってください」と言い切る園長に親たちは安心して預ける。だから、ここがあったから2人目を産めたという人もいるのだろう。

 実は、この園を訪ねた訪問記は当時評判が悪かった。「新宿でしょう」の裏には、夜働かなければならない親に対する偏見が露骨にあった。では問いたい。「そういう人」の子どもは、夜の時間をどう過ごせばいいのか。確かに、安易な夜間保育の利用は慎みたい。だが、子どもを預けなくてもいい環境の人が、預けなければならない人に対して氷水をかけていいのか。

 それぞれに課題や問題をかかえる家庭、社会の隙間から漏れる子どもたち、親たちはどうしたらいいのか。すべてが親の責任なのだろうか。夜間保育の質が問われるのだと思う。保育園の待機児童問題も解決されていない中で、「女性が輝く社会」をつくりたい行政は、24時間の何時間を保育にかける子どもに対して、どんなビジョンを描いているのだろうか。次期政権党に問いたい。

監督:大宮浩一 2017年 111分
9月30日、ポレポレ東中野で上映後、順次全国展開
写真:(C) 夜間もやってる製作委員会
http://yakanhoiku-movie.com/index.php


Created by staff01. Last modified on 2017-10-03 10:40:10 Copyright: Default

このページの先頭に戻る

レイバーネット日本 / このサイトに関する連絡は <staff@labornetjp.org> 宛にお願いします。 サイトの記事利用について