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LNJ Logo 木下昌明の映画批評 : 韓国映画『フィッシュマンの涙』ほか
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●クォン・オグァン監督『フィッシュマンの涙』ほか

韓国映画から見えてくる100万人デモの現実

 いま韓国では朴槿恵(パク・クネ)政権が100万を超えるデモによって即刻退陣を迫られている。韓国社会でデモが大規模化する背景に、何があるのか。それはファン・ジョンミン主演の『ベテラン』やイ・ビョンホン主演の『インサイダーズ』といった昨今の娯楽アクション映画にさえ政財界の癒着と驕(おご)りが、これでもか、と描かれていることからも想像がつく。

 また、公開中のソン・ガンホ主演の『弁護人』も、全斗煥(チョン・ドゥファン)、政権下と時代はちょっと古いが、自殺した盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の若き日をモデルに、いまに通じる問題を訴えている。

 主人公は高卒で税金問題専門の弁護士。貧しかったころ食堂で食い逃げしたことがあり、その食堂の息子が読書会を開いただけで国家保安法違反で逮捕されたと知って弁護を引き受ける。徹夜で勉強し、法廷で憲法をタテに「国家の主権は国民にあり、すべての権利は国民に由来する」と奮闘する。この訴えは、今日の韓国の国家権力に向かって言い放ったものと誰もが理解しよう。この映画も見ごたえがある。

 公開されたばかりの新人監督のクォン・オグァンの『フィッシュマンの涙』は、就職もままならない若者の悲哀を描いているが、その発想が独創的。

 物語は、一人のフリーターが大手製薬会社から高額なバイト料が出るというので新薬の実験台になる。が、薬の副作用で上半身が魚化して「魚人間」になってしまう。カフカの『変身』の甲虫のように。彼は研究室から逃げ出すが、街の人々の空騒ぎに絶望し、再び研究室に舞い戻る。

 一方、地方大学出身で求職中の青年が、魚人間の独占取材を条件に見習記者の仕事にありつく。そこで青年は、魚人間の父親や女友達、人権派弁護士、さらには製薬会社の博士らとすったもんだの末、魚人間を誕生させた救いがたい欲望社会を暴いていく。

 ラスト、「普通の人間になりたかった」フリーターが、「もう魚のままでいい」と海に入っていくシーンがいい。そこからいまの社会への異議申し立てをうかがい知ることができる。(木下昌明・『サンデー毎日』2017年1月1日号)

*『フィッシュマンの涙』は12月17日より、シネマート新宿、HTC渋谷ほかで公開中

〔追記〕1月7日公開のキム・ギドクの『網に囚われた男』も傑作です。韓国でスパイ扱いにされて拷問を受けた北朝鮮の漁師が、今度は北でも同じ目に遭う分断国家の非道を描いた映画です。また南の経済繁栄の悲惨な裏側にも光をあてています。ひるがえって日本の映画はどうか? ふしぎと権力への批判の目など少しもみられない。日本はそんなにいい国なのか? こちらの方がこわい。


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