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「足をガクガク」させながら貫いた不起立〜高校生の話に感動ひろがる

               佐々木有美

 東京の教育現場で「日の丸・君が代」強制が始まって12年がたつ。大阪でも3年前に「職員基本条例」が作られ、3回不起立をした教員は免職になる。こうした中で昨年(2014年)の春、卒業式の当日に学校の門前で自分の思いを書いたチラシを配り、不起立をした大阪府立高校の卒業生がいた。2月21日東京・スペースたんぽぽで、その高校生・木村ひびきさん(現在大学1年)のお話を聞く会が開かれた。70名の参加者で会場はあふれた。

 木村さんは、父親から「君が代」が「天皇の世が続くように」という歌だと聞いていた。中学校の卒業式が近づき、不起立をするかどうか迷っていた。まわりの反応がこわかったからだ。卒業式の直前に音楽の先生が「君が代」の練習をさせ、「君が代は恋の歌で、君はあなた」という意味だと言った。木村さんは「君は天皇のことではないか」と聞いたが、先生は受けつけなかった。一方的な押しつけにショックを受けた彼女は、そのことを父親に話し、父親は学校に手紙を書いた。手紙を受けた学校は、先生たちが一人ひとり「君が代」強制について自分の意見を言ってくれた。校長はみんなの前で「立つのも立たないのも自由。立たないからといってせめたらあかん」と言った。木村さんは「うれしかった。すわる、すわらない、どっちにして大切にされている、守られている気がした。この校長先生のことばが後の人生に大きな影響を与えた」と話す。そして卒業式、足をガクガクいわせて木村さんは不起立をした。

 高校では、不起立をした梅原聡先生がいた。「先生は私をわかってくれる」と木村さんは思った。先生の支援もはじめた。卒業式の答辞の役に立候補したが落ちた。答辞をすると言ったのに黙って不起立をしてはいけないと思い、彼女は体育会系の学年主任に「足をガクガクさせながら」不起立を宣言した。父親からビラを作ったらいいといわれた。「実名入りで胃が痛かった。ものすごくこわかった」。それを卒業式の日、門前で配ると200枚がすぐにはけた。生徒たちがすすんで受け取ってくれたのだ。

 大学生になって、後輩に不起立のことを話したら、真剣に聞いてくれた。「もしかしたら自分みたいな子もいるかもしれない。その子のためにも不起立して良かった」という木村さん。「最近は、日本に非のある歴史を否定し、日本の批判を否定するような風潮がある。このままだとどんどん偏った教育が定着していく。先生には助けてほしいし、信頼したい。信頼できる先生がいなくなる強制には反対」と話した。

 大阪ではいま、教員が卒業式に参加するには、事前に「不起立をしない」と約束させられる。木村さんの学年のある担任は、回答を拒否していた。結果的には、式に出られたが、彼女は、そのことにとてもショックを受けた。「不起立をすると言えば、卒業生との別れの時間を奪われ、しなければ自分を裏切る。どちらにしても苦しかない。この情況はまちがっている」と木村さんは強く訴えた。

 集会には、木村さんの高校で不起立をした教員・梅原聡さん(写真)も参加した。梅原さんは、「なかなか不起立を理解してくれない環境で、木村さんとの出会いを心強く思った。木村さんのお父さんも応援してくれている。不起立は教員だけの問題でないことが広がればいい」と語った。

 木村さんのチラシを読み、支援のメールを送ったピアニストの崔善愛(チェ・ソンエ)さん(写真下)もかけつけた。「卒業式にも出席させてもらえない不起立教員の人たちは、裁判に勝っても負けても行き場がなくなっている。木村さんのことばで彼らは報われた。これは裁判で勝つよりある意味で大きい。あの戦争が何だったのか、本気で話せる場がない。何か言うと空気が凍る。それを打ち破れるのは私たちしかいない」。東京で連続して「君が代」不起立を続ける田中聡史さんは、「こどもたちの世代に強制の社会を残すことはできないと不起立を始めた。木村さんのような勇気ある学生に驚きとともに敬意をもった」と語った。

 会場から木村さんに、若者の無関心についての質問が出た。木村さんは「無関心の根底には“知らない”がある。もっと教育の現場で知る機会がほしい」と話した。現に「君が代」についてもほとんどの学校では教えられていない。「教えないが強制だけはする」教育とは何だろう。道徳が教科化され、昔の修身が甦る。時代は加速度的に戦争国家へと突き進む。木村さんは「足がガクガク、胃が痛い」思いをして、不起立を貫いた。その勇気を自分のものとしたい。


Created by staff01. Last modified on 2015-02-23 08:53:21 Copyright: Default

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