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繰り返されるチャーター便での集団強制送還〜人権無視の入管行政、スリランカとベトナムへ32名


 *写真=18日にスリランカ人の夫を強制送還された妻子
                         西中誠一郎

3回目のチャーター機での強制送還

 12月18日、法務省入国管理局がスリランカ国籍とベトナム国籍の非正規滞在外国人、合計32名を両国にチャーター機で集団強制送還したとして、19日に在日外国人支援団体「仮放免者の会」と法務省入国管理局警備課が、それぞれ弁護士会館と法曹記者クラブで記者説明を行った。(会場の都合で写真撮影はいずれもNG)

 日本政府のチャーター機による集団強制送還は昨年7月に執行されたフィリピン(75名)と12月のタイ(46名)に次いで3回目。法務省入国管理局が19日夕方の記者ブリーフィングで発表したプレスリリース「チャーター機を使用した集団送還の実施について」は以下の通り。

 「平成26年12月18日(木曜日)、入国管理局において、既に退去強制が決定しているものの、送還されることを忌避していたスリランカ国籍の者26人及びベトナム国籍の者6人を、東京国際空港(羽田空港)から民間のチャーター機を利用してそれぞれの国に送還した。」

 法務省入国管理局警備課の説明によると、強制送還したのは在留特別許可や難民認定が認められず、退去強制令書が発付された合計32名(男性31名、女性1名。25歳から64歳)。

「自ら帰国するように再三説得したが、頑なに帰国を拒否した者です」と警備課長は主張した。送還忌避者が増加し、長期収容にも問題が多いことから仮放免者が増えていることも、チャーター便送還の背景にあるという。「被送還者が搭乗の際に抵抗すると、定期就航便では一般乗客に多大な迷惑がかかり、機長に搭乗拒否されることもある。安全に身柄を送還するため」に法務省はチャーター機での集団送還を昨年から開始した。「日本の法令上、配偶者や親子などの家族分離や、難民申請手続き中の者、訴訟中の者は含まれていない」と、警備課長は強調した。「詳細な経路等について公表は控えるが、ハノイ経由でコロンボまで護送した。飛行機へ搭乗後は手錠を外した。経費は約4000万円。被送還者ひとりにつき、ひとりの職員を対応させた」。

家族分離、人身取引の被害者、庇護希望者、問題だらけの強制送還

 しかし、19日午後に行われた支援者や弁護士による説明では事情は全く異なった。説明会場には、今回スリランカ人の夫を強制送還された、永住資格をもつフィリピン人女性と11ヶ月になったばかりの夫妻の長女も同席した。女性や支援者の説明によると、前夫と離婚手続き中だが、フィリピンの婚姻法では裁判所で離婚承認のための裁判が必要で時間がかかり、日本国内では事実婚の状態にあった。フィリピン大使館にも子どもの出生届を既に出している。

 女性は涙ながらに訴えた。「18日の夕方にスリランカから電話が2回ありました。入管にも離婚と再婚の事情は説明していたので驚いた。子どもが小さいので本当に困る。何もできない。フィリピンでの離婚の手続きを待ち、正式に結婚したかっただけなのに。パパに会いに行こうね」と言葉を詰まらせ、我が子にキスをした。非正規滞在の状態だった夫も、退去強制令書の無効確認訴訟を準備中だった。

 また外国人研修•技能実習生問題はじめ、同類の悪質な雇用労働条件で搾取される外国人労働者の問題に長年取り組んで来た指宿昭一弁護士は「スリランカのブローカーと日本企業による悪質な人身取引の被害に遭い、裁判で企業側と和解したが、未払い賃金がまだ一ヶ月分しか支払われていないスリランカ人男性2名が強制送還された」と悔しさを滲ませた。「15日(月)に仮放免許可を取り消され、入管に再収容された。退去強制令書の無効確認訴訟と、ブローカーへの刑事告訴を行う予定であることを入管側にも通知したが、その時にはすでに強制送還されていた」。

 この他にも、難民不認定となり異議申立ても却下、16日(火)に入管に収容され、不認定の取り消し訴訟の提訴を準備したが、すでに本人は入管におらず、電話連絡もとれない状態で強制送還されてしまった大阪のケースなど、難民不認定、異議申立て却下直後の強制送還も多数に上った。

「事実上、庇護希望者の強制送還だ。難民を迫害が予想される地域に送還してはならないとする、難民条約のノン•ルフールマン原則や、拷問等禁止条約にも反する。また出訴期間6ヶ月以内の強制送還は、裁判を受ける権利に対する重大な侵害だ。入管は帰国できない個別事情を無視して、チャーター機での強制送還を実施するために、人数の数合わせをしたとしか考えられない」。

 指宿弁護士や、難民支援に取り組む高橋ひろみ弁護士、大川秀史弁護士は、法務省入管局の人権無視の集団強制送還を厳しく批判した。

国連•人権勧告を無視する日本政府

 一方、法務省入管局警備課は「個別案件には答えられないが、一般論として、退去強制令書が発付されている以上、いつでも強制送還できる。裁判の権利に関しても、裁判所の執行停止決定が出ていない限り妨げにはならない。賃金未払いのケースでも日本に代理人がいるのだから対応可能でしょう。難民認定手続き中や訴訟中のケースに関しては、十分に配慮している」と完全に開き直った。

 しかし、2013年5月の国連•拷問禁止委員会や2014年7月の国連•自由権規約委員会などでの日本政府報告書審査においても、「ノン•ルフールマン原則が実務上効果的に実施されていない」「難民不認定処分に対する停止的効果を持つ独立した不服申し立て制度が欠如していること、及び十分な理由が与えられず、また収容の是非を判断する独立した審査もないまま、長期的な行政収容が行われていることを引き続き懸念する」とし、日本政府に対して是正勧告を再三出してきた。外国人技能実習制度においても「人身取引による労働搾取で奴隷労働。制度を廃止すべき」という厳しい勧告が国連•自由権規約委員会やアメリカ国務省報告書などで相次いで出され、労働者や移民としての権利を認めようとしない、日本政府の不作為を厳しく批判している。

 法務省も形の上では「適正•迅速な難民認定のための取り組み」として「難民認定制度に関する専門部会」を設置し会合を重ねてきたり、外国人技能実習制度の見直しを進めている。

 しかし、安倍自公政権になり難民認定数は減る一方だ。異議申立て手続きにおいても、入管行政から独立すべき難民参与員の判断を法務大臣が覆したり、難民参与員のインタビューが省略されるなど、形骸化が指摘されている。

 また安倍政権は、急速に進む少子高齢化と2020年の東京オリンピック開催を控えての建設業の労働力不足に伴い、外国人技能実習生の受け入れ拡充の検討を財界と一体となって急ピッチで進めているが、基本的に期間限定の雇用の調整弁としてしか考えていない。定住や移動の自由、家族形成、企業選択の権利、労使対等原則など、労働者の基本的な権利保障のあり方や、移民政策に関する議論は意図的に回避している。

 観光立国を唄いながら、難民保護政策や200万人を越えている定住外国人の権利保障政策は一向に進まず、移住労働者の人権侵害がまかり通っている実態を軽視し、長年に渡り地域経済の底辺を支えてきた定住化した非正規滞在者の退去強制手続きの迅速化に重点を置き、予算消化のためのチャーター便強制送還を繰り返し行っている。

日本政府は強制送還した被害者を呼び戻せ!

 今回のチャーター便での集団強制送還に対して、長年難民支援に取り組んで来た大阪の支援者の一人は「難民認定制度や外国人労働者の受け入れの抜本的な改善が最優先課題なのに、帰国できない個別事情を無視した非人道的な強制送還は直ぐに止めるべき。庇護希望者は本国に送還されたら、訴えの利益を完全に失い、迫害される恐れもある。中には一回目の難民認定申請手続き中で、異議審査での難民参与員のインタビューもない状態で不認定にされ、今回チャーター機で強制送還された人もいた。日本政府はスリランカ政府に働きかけて、被害者を呼び戻すべきだ」と強く憤っている。

 大阪からもスリランカ人3人とベトナム人2人が、16日に入管施設から手錠をされて車に乗せられ、名古屋でさらに同乗し、17日の晩に東京入管で一泊した翌朝に羽田空港から強制送還された。飛行機の中で手錠は外されたが、護送にあたった入管職員から「来年始めには、あと60人集団で強制送還するから」と耳打ちされた人もいたという。

 19日午前中には、11月17日に羽田空港で上陸拒否され、5日後の22日に東京入管内で死亡したスリランカ人男性の追悼会が都内の教会で行われ、遺族や支援者、スリランカ大使館員、入管職員などが参列した。東京入管が葬儀や遺族の呼び寄せを手配した。しかし参列した入管職員は、前日に行われたスリランカへの集団強制送還のことを全く知らなかった。遺体は追悼会の後、荼毘に付された。繰り返される入管行政の深刻な人権侵害と命の差別。現行の退去強制手続きのあり方や、出入国管理行政の死角を厳しくチェックする方策を確立する必要に迫られている。

【参考記事】
http://www.labornetjp.org/news/2014/1201nisi


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