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LNJ Logo 飛幡祐規 パリの窓から〜フランスの市町村選挙から民主主義について考える
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第27回・2014年4月20日掲載

フランスの市町村選挙から民主主義について考える

 フランスでは3月の第3、第4日曜に行われた市町村選挙で、与党の社会党が大敗した。社会党にかぎらず、2008年以降1万人以上の市のうち509が左翼(緑の党を含む)の市長、433が保守の市長だったが、今回の選挙後は左翼349、保守572、極右11という記録的な左翼の敗北である。パリとリヨンは左にとどまったが、10万人以上の都市のうちわけも左翼19に対して保守23(これまでは29、13)になった。1912年以来ずっと左翼の市長を選んできたリモージュ(島崎藤村が滞在したときも!)やパリ郊外のボビニーなど、いくつもの歴史的な左翼の市で保守が勝利したほど、地方政治の地図が書き換えられた。

 この結果には明らかに、世論調査の支持率が18%しかないオランド大統領と、現政権への不満が表れている。社会党と連合せずに緑の党や左の党が独立のリストを掲げたところでは、かなり得票できた例もあった(グルノーブルでは、緑の党と左の戦線の統一候補が社会党の前市長を破った)。しかし、国民戦線など極右の候補が第一次投票で17の市でトップになり、最終的に11の市長に当選するほど躍進し、保守・反動勢力は予想を上回る勝利をおさめた。地方選挙ではローカルな争点が重要で、必ずしも国政の影響を受けないが、政権にある党が制裁されることも多い(1983年と2001年、そして今回は左翼政府のもとで保守が勝利、1977年と2008年は保守政府のもとで左翼の勝利)。棄権率は1995年から毎回上昇しているが、今回は第五共和政で最高の35〜36%に達した。「右も左も同じ、誰がなっても生活はよくならない」という既成政党に対する不信感が高まっているのだ。

 これまでそうした不満票を集めてきた国民戦線は、南東部や北東部で地盤を固め、国土全域に支持層を広げたように見える。この傾向はすでに2012年、大統領選挙における党首マリンヌ・ル・ペン(創設者の娘)が第一次投票で17,9%も得票したことにあらわれていた(2012年5月のコラム参照)。サルコジ大統領時代(2007〜12年)、大統領と保守の一部の政治家が国民戦線の反移民・反イスラム主義と同様の言説を頻繁に使ったため、国民戦線と国民運動連合(UMP)の境界線は曖昧になり、反イスラム感情や排外主義が高まる結果をよんだ。

 マリンヌ・ル・ペンは「共和国」を強調して二大政党と官僚などエリートの腐敗を摘発するだけでなく、父親とちがって社会政策を強調する左翼的な論調も取り入れたため、庶民層で人気が上がった。モダンなナショナリズムへの変身によって、「ふつうの」政党として国政参加を狙う国民戦線の新しい幹部は、極右のイメージを消し、差別的なポピュリズムをモダンな衣で覆うことに成功している(メディアもマリンヌ・ル・ペンを頻繁にとりあげ、国民戦線の言葉づかいをそのまま用いるなどして、イメージチェンジに加担した)。今のところまだ人材不足で候補者を立てられない地域もあるが、今回当選した市長の平均年齢は40歳と若い。若い層をひきつけて、国政選挙に向けてますます地盤を固めていく危険性は強く、5月に行われる欧州議会選挙でも高い得票率が予測されている。

 しかし、政権に対して不満が高まるのも無理はない。経済不振がつづく中、オランド大統領は公約をつぎつぎと放棄あるいは骨抜きにし、付加価値税(消費税)の増加をはじめ、低所得者や中産階級に負担がかかる緊縮政策を強めている。また、移民に市町村選挙権を与える法案が断念され、警察が身分証チェックを行った場合に証書を発行する(差別的な乱用を防ぐため)という公約も却下されたことは、高い比率でオランドに投票した移民二世・三世たちの幻滅を招いた。

 2012年の総選挙、そして今回の市町村選挙でもマグレブ系フランス人がたくさん出馬したが、政党に入らず独自のリストをつくった例も多い。今回の選挙では、移民系の候補者や団体が保守のリストを支持した市もあった。移民二世、三世が政治に積極的に関わり始めたのは、2007年の大統領選と前回2008年の市町村選挙以降だ。背景には、市民団体「アセルフACLEFEU」の働きがある。この団体は2005年の晩秋、パリ郊外から全国に広がった若者たちの「暴動」の後に発足した。「民主主義のしくみの中で郊外の声を届けよう」と全国を回って「陳情書」を集め、選挙人名簿への登録を呼びかけた。失業率の高い恵まれない郊外地区では棄権率が高く、選挙人の登録をしない若者も多い。社会から排除されているという思いから、政治など自分とは関係ないと感じているのだ。

 しかし、かつて「政治好き」と言われていたフランスで棄権率が上がった(大統領選挙は例外)のは、この疎外感と政治不信が社会から最も疎外された人々だけでなく、多くの市民に広がっている状況をあらわしている。大規模な工場閉鎖が騒がれるたびに、政治家は救済を約束するが、結局工場は閉鎖されてしまう(フロランジュの鐵鋼工場、オルネー・ス−・ボワのプジョーの自動車工場など)。一般市民の賃金は上がらないのに、大企業の社長の報酬が大幅に増したというニュースが流れる。さらに、タピ事件やカユザック事件など、政治家や高級官僚、判事など共和国の重要な地位にある人たちの収賄や汚職疑惑がつぎつぎと暴かれた(これを書いている最中にも、大統領の顧問が過去の不正疑惑をインターネット新聞「メディアパルト」に暴かれて、辞職した)。庶民は生活難や増税に苦しんでいるのに、地位のある者たちは特権を悪用して暴利を貪る、と市民が怒るのは当然である。こんな状況で、オランド大統領の掲げた「非の打ちどころのない共和国」を誰が信じられるだろうか? 

 したがって、政治家や指導層、ジャーナリストなども含めた社会のエリートすべてを「システム」として弾劾するポピュリズムが広がる。グローバリゼーションによって貧富の差が増大する中、ヨーロッパ各地で反システムを唱えるポピュリズムが支持を集めている。代表民主制は今、弊害ばかりが目立つ息切れ状態にあるといえるだろう。市民が真に参加できる民主主義をめざす提案が出てきているが、民主主義の活性化は緊急の課題である。

 さて、オランド政権に幻滅した左派の市民は4月12日、左の戦線や労働組合、市民団体の呼びかけのもと、パリでデモを行った。「緊縮財政政策反対」を掲げて数万人(警察発表2万5000、主催者10万人)が参加した(写真)。しかし、選挙後ヴァルス首相(前内務大臣)のもとに組まれた新内閣(緑の党は入閣を拒否した)は、その後さらなる緊縮政策案を発表した。企業の社会保障分担金を減らして競争力を高め、雇用を増やす目的の「責任協定」にかかる費用をひねり出し、国政赤字を減らすために、公務員の給料や生活援助金の据え置き、社会保険部門における節約など、低所得者や中産階級に再び負担がかかる政策である。

 当然、労働組合や左の戦線は激しく反発し、社会党議員からも反対意見が出ている。緊縮を行っても失業率が改善されないスペインの例をあげて、一部の経済学者からも批判がある。EUによる足かせ(財政赤字を国内総生産の3%におさえるなど)や高いユーロを批判すると、これまですぐさま、国民戦線など極右と同じだと切り捨てられてきたが、経済学者、哲学者、社会学者によるEUのネオリベラリズムに対する興味深い批判も存在する(「愕然とした経済学者のグループ」、フレデリック・ロルドン、ピエール・ダルドとクリスチャン・ラヴァルなど)。

 ネオリベラリズムは「競争」を原理とし、個人が制約を受けるのではなく「ひとりでに」、最大限に収益をあげようと振る舞うようにしむける「合理性」である、とダルドとラヴァルは述べる。この原理からは、コミューン(自由都市、自治体)という言葉が生まれたcommun(公共、共同)という概念を築くことはできない。しかし、人間は「共同体」なしに生きることはできないのではないだろうか?

2014年年4月19日  飛幡祐規(たかはたゆうき)


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