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駒込病院PFI化反対 公共サービスのありかたを問う集会

地域医療を担う病院の民営化に反対する集会が4月16日、都内で開かれた。真冬に逆戻りしたような冷たい雨の夜。東京・春日の文京区民センターに105人が集まった。

都立駒込病院(文京区)にPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ=民間活用の公共サービス)事業が導入されて1年。この日の「駒込病院PFIと公共サービス民営化に反撃する4・16集会」では、委託、指定管理者制度の導入による低賃金・無権利労働と住民サービス低下の実態が次々と明らかになった。主催は「都立駒込病院を存続・充実させ、地域医療を守る会」。

■看護士が足りない

同会会長の高橋勲さんが「4月半ばだというのにこんなに寒い。政治もおかしい、陽気もおかしい。政治が良くなればきっと陽気も良くなる」と話し始めた。体調を崩していたという高橋さんだが、入院したのは奇しくも駒込病院。そこで看護士が圧倒的に足りない現実を目の当たりにした。ベッドは空いているが、患者を預かれない状態にあるのだという。

現在同病院は「がん・感染症センター都立駒込病院」と名乗っている。街頭署名の際に通院患者に聞くと、駒込病院の運営主体が東京都ではないことを知っている利用者は、ほとんどいなかったという。「今日は各地のみなさんからの報告を拝聴し、よりよい地域医療をめざす運動のために尽くしていきたい」とあいさつした。

同会事務局長の大利英昭さん(写真・看護士)が演壇に立った。「PFI」とは「民間資金活用による社会資本整備」の方式。こう書くと聞こえはいいが、公共施設等の維持管理、運営を民間企業に任せること。都は2001年、16の都立病院を8病院にする「都立病院改革マスタープラン」を策定。駒込病院もその対象になった。

■はじまりは「小泉改革」

「小泉改革」以降、公共サービス民営化に向けた法的整備が矢継ぎ早に進んだ。同病院の「PFI」を受注するために、「駒込SPC」という特別目的会社が設立された。三菱商事を筆頭に、東京電力、戸田建設など名だたる巨大企業が出資した。競争入札で受注価格が下がるのかと思いきや、入札は1社、落札価格は1862億円だった。これは予定価格の99.9%にあたる。さらに都は年間1億円のアドバイザリー費用なるものまで支払う。

SPCは、診療を続けながら老朽化した病院を改修すると謳う。その実態は、請け負った業務をさらに下請けの協力会社に発注する完全なトンネル会社である。病院業務は、さらに孫請け、ひ孫請けへと下降していく。「もうけ優先」の企業群は、「時給850円」で従業員を募集する。

現場で都職員が下請けスタッフへ指示命令を下せば、それは「偽装請負」となり、複雑な縦の雇用関係を確認しながらの仕事となる。大利さんは、スライドを上映しながら、次々と問題点を告発した。 病棟の天上が低いため、身長190センチ以上の患者は入院できないという冗談のような現実がある。点滴スタンドが天井にぶつかってしまうからだ。「患部を切開しようとしたらメスがなかったため、看護師が急いで別の病棟に借りにいった」という報道もある。改装のための工事が、入院病棟の窓のすぐ下で、重機を使って行なわれている。騒音で安らぐ暇もないだろう。

■「駒込病院が好きだから」

近江八幡市立総合医療センター、高知医療センターと、PFI方式を導入した公立病院の運営が相次いで破綻している。だから駒込病院の新パンフには、「PFI」という文字が入っていないのだという。さらに駒込病院のケースが他院と違うところは、民間の資金がいっさい使われず、全額都が出資していることだ。都民の血税をビッグビジネスのチャンスとして気前よく資本に差し出し、事業予算の内訳すら示させないまま放置しているのだ。民主党のいう「新しい公共」とは、自治体の責任を放棄し、その仕事をNPOやボランティアに任せようとする危険な流れだ、とも大利さんは力を込める。

「自分は駒込病院が好きだから、ここで働きたいから他の病院から戻ってきた」とうち明ける。だが、患者の生命を守るはずの病院で、医学医療の知識や経験がなく、まともな教育も受けていない労働者が、指揮命令の壁に囲まれてこなす「仕事」とはいったい何か。それは信頼関係の上に培われていた機敏なチームワークや、熟練の技術を否定する、バラバラに分断された安価なだけの労働ではないのか。「医師や病床の数も足りない。このままでは地域医療が崩壊してしまう」と「守る会」は指摘する。 地域の人々や、遠方から大変な思いをして通い続ける利用者を切り捨て、特定の医療分野=がん・感染症=の急性期治療にだけ対応する。そんな偏った運営は、すぐに見直されるべきだ。

■幅広い連携を求めて

荒川区職員労働組合・書記長の白石孝さん(写真)は、「公共サービスを考える際には何が大切か」と切り出した。一つは、サービスを受ける住民だ。もう一つは働いている者、委託や指定管理の中小、地場業者の問題だ。委託や民営化に反対するだけでなく、その反対運動が仮に負けた場合でも、その後で委託先の労働者とどういう運動を作っていくのか、という視点が重要だと訴える。

一例として、荒川区での清掃・警備業務の競争入札を取りあげ、極端な価格競争によって委託先の労働者の賃下げを招いたケースを紹介。委託先の当事者と区議、そして区職労が労基署に告発した。当該を守るために職場にも新労組を作った。新組合は会社側との交渉で契約額の適正な従業員への配分を実施した。さらに新組合と区職労が連携して、区との委託契約の継続を勝ち取ったという。

「住民と労働者、そして事業者が共存共栄していけるような運動をめざしている」と語る白石さん。「どこにあっても、働いている当事者の声を集める。そして組合を作ることだ」と強調する。最後に「官製ワーキングプア」の問題に言及。5月30日に総評会館で予定されている「反貧困大集会」への参加を呼びかけた。

■近隣各区から詳細な報告

工務公共一般文京支部・図書館分会の男性は、文京区における図書館民営化、指定管理者制度導入の経過と分会の取り組みを詳細に検証した。闘いの柱は、「雇用破壊を許さず、官製ワーキングプアの拡大を阻止すること」。「労働条件を向上させ、人権費を上げていけば安易な民営化にはブレーキがかかる。ヨーロッパではそうだ。まだまだ厳しい状況が続くが、みなさんと一緒にがんばっていきたい」と結んだ。

北区から参加した女性は、保育園の指定管理者制度導入、図書館での業務委託など、身近な民営化事例の数々を紹介した。放置自転車の移送業務を請け負う会社が倒産し、駅前に自転車があふれかえる事態になったことも。 「民営化は利用者の声を区の方針として反映できない。見えにくい変化を、区民の声を集めていくこと。私にもできることがあったらと思い、今日は参加した」と、区民の視点から問題の可視化を求めた。

足立区の花畑図書館で起きた指定管理者制度導入に伴う「館長雇い止め事件」。当事者が参加し発言する予定だったが、急用で来られず、本人からのメッセージが代読された。 最後に質疑応答が行なわれた。中身の濃い集会だったが、粛々とプログラムが進行し、ほぼ予定時間で閉会した。(Y)


Created by staff01. Last modified on 2010-04-18 20:38:41 Copyright: Default

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