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LNJ Logo 木下昌明の映画批評「いま ここにある風景」〜現代中国が見えてくる
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●映画「いま ここにある風景」

「世界経済」の正体を鳥瞰する
ドキュメンタリー新時代の波

 グローバル経済の時代になって映画も様変わりしつつある。いまでも恋愛もの、家族 愛ものは多いが、そんなドラマでは世界の流れに対応しきれなくなっている。そこに登 場してきたのが「ダーウィンの悪夢」や「不都合な真実」などのドキュメンタリーもの だ。これらには、変動する世界を巨視的にとらえようとする姿勢がみられる。

 カナダの写真家エドワード・バーティンスキーの写真をもとに作った同じカナダのジ ェニファー・バイチウォル監督の「いま ここにある風景」は、その種の映画の傑作だ 。バーティンスキーは「人間は自然の一部」という考えに立って、世界の「産業」が作 り変える危機的な自然を撮り続けている。が、それらの写真は妖しくも美しい。

 この映画で、監督は彼と共同で、中国の産業の現状に焦点を当てている。といっても 産業の歴史や仕組みを深く追求したものではなく、その表層の一面を切り取ったにすぎ ない。それでいて、グローバリゼーションの赤裸々な姿が見えてくるからふしぎだ。

 観客は、広大な工場内部をとらえた横移動の長いトップシーンに圧倒されよう。そこ にあるのは「世界の工場」そのものだからだ。ところが画面が転換すると、今度はリサ イクル処理場に広がる「電子機器のゴミ」の山だ。中国には、世界の50%のゴミが集め られ、有害物質が大地を汚染しているという。大量に生産される製品とその廃棄物が背 中合わせになっている。

 また、建設中の世界最大の三峡ダムの偉容と川沿いの破壊された街々の対比、さらに 強権的な都市計画によって急激に変貌する上海市など、建設と破壊を同時に浮かび上が らせている。そのスケールの大きさに誰もが息をのむだろう。それらを撮ったバーティ ンスキーの写真は、時にSF映画で描かれる奇怪な惑星でも見ている気分にさせられる 。

 中国で今、何が起きているかが見えてくる。(木下昌明)

映画「いま ここにある風景」は7月12日、東京・恵比寿の都写真美術館ホール、同・渋谷のシアター・イメージフォーラムで公開 写真=COPYRIGHT EDWARD BURTYNSKY

*「サンデー毎日」2008年6月29日所収


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