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名古屋哲一のコラム

 

郵政首切り20年・名古屋哲一の月刊コラム

 スリが勝手に捕まった

 スリを捕まえた。というよりも、スリが勝手に捕まった。ボクは表彰ものだと思う。スリを捕まえた事に対してでなく、その後の、警察署での事情聴取・3回もの検察庁での検事との話・そして二月二〇日裁判所での証言と、自慢にもならない事をやりぬいた「寛容と忍耐」に対してだ。もっとも「二度とはできない体験」と、野次馬根性を発揮したから可能となった「寛容と忍耐」ではあった。

 昨年一〇月二八日土曜の深夜、正確には翌日午前〇時過ぎの、終電一つ前ガラガラの電車内。酒と風邪薬と睡眠不足で、シートの上に仰向けで熟睡していたのはボク。シャツの胸ポケットが、ツンツンと引っ張られたので目を覚ました。見知らぬ男の顔が覗き込んでいて「西八の駅ですよ」と教えてくれた。「ありがとうございます」とボク。あわてて起上がりプラットホームへ下りる。かの男は、わざわざ遠回りの階段から改札口へ向う。ボクは後を着けた。彼は階段途中でポイと何かを投捨てた。小走りに駆上がり拾って見ると、それは胸ポケットに入れてあったボクの手帳。

 「ちょっとちょっと、何故あんたがこれを?」に対して、彼は「シートの下に落ちていた」云々。誰もいない深夜にスリと覚しき男と論議するほど話好きでもないので、すぐに「駅員さんの所へ行きましょう」と歩きだすと、「走って逃げ出す」との予想に反して彼は一緒に付いてきた。

 駅員さんは数分間話を聞いただけで、自発的にどこかへ電話をかけ、その後「今すぐ交番から人が来ますから」と言う。ボクは「スリ」などという「失礼」な単語は一切使わず、「彼の言訳は不自然だ不自然だ」と語っただけなのに。

 彼はまたもや逃げる事無くポリさんを待ち、一緒に交番へ。最大の不自然は、ボクの下車する駅を知らないにも拘らず起こしてくれる親切な人が、何故、シート下の手帳を渡してくれなかったのかであり、また逆に、ネコババする気でいた人間が何故落し主をわざわざ起こすのか、なのだ。

 交番では、ただ淡々と事実経過を語ったのだが、それにしても彼の不自然さを多少力説する必要に迫られた。彼が無実と居直るものだから、下手をすると「無実の人を何の根拠もなく疑った悪い人」にされてしまう危険を感じたからだった。それに警察不信のボクとしては、警察がスリと争議団とのどちらをより嫌いなのか心配でもあった。ちなみに、四・二八処分当時の全逓手帳には「逮捕された時の心得」に「完黙」等と印刷されており、警察のデッチアゲは、「機動隊による大会防衛」以前の全逓にとって常識なのだった。

 だが後でおいおい解ってくるのだが、この路線付近ではスリが頻発で警戒中であり、彼もスリの常習犯ということで、警察も検察庁も、純粋にスリ逮捕を喜んでいたようだった。

 「アレアレアレー」とボクは思った。交番で一五分ほど話すうち、警察署からお迎えのパトカーが来てしまったのだ。駅員さんへ事情を話して「ハイ終り」のつもりでいたボクは「忙しい」と若干の抵抗を試みたのだが、「ご協力をよろしくお願いします。お願いします」と滅茶丁寧。こんな風に警察に言われたのは生まれて初めてだった。何よりも手帳が「スリの指紋付着の最重要証拠物件」として、「アレアレ」と思う間にビニールの袋へ入れられ警察の手に渡っていたのだった。プライバシーオンパレードの手帳を、最も見られたくない人へ渡してしまった何たるドジ。これを取返すまでは勝手に帰る訳にはいかない。

 丁寧といえば、検事二人も警察同様に目茶苦茶腰が低くて穏やかで、これはもうカルチャーショックものだった。少なくとも、郵政管理者や全逓本部の百倍は紳士だった。

 上べは丁寧だが実態は芳しくない。午前一時に着いた警察署で調書作成が済んだのは七時前。徹夜だ。わずか一〇分程の体験を調書にするのにこの長時間。しかも、初めから長時間とは言わず、「あと少しですから」の連発で引き伸ばされ続けた、イライラの六時間だった。これは検察庁でも同じだった。

 「断りもなく手帳にはさんである名刺等々を見るとは!」と刑事にクレームを付けたり、あまり抗議しすぎて怪しい奴と手帳の中身をコピーされてはと「善良な市民」を装ったり、また「肩書は郵政共同センター(四・二八ネット事務所)の事務局」と答えると「それは郵便局の上部組織ですか?」などと聞いていた刑事が一時間後には「肩書は元郵政職員でいいですね」と身元バレバレになった事が解ったり、とにかく神経を使った六時間だった。

 しかし調書作成中に最も神経を集中していたのは、「本当に彼はスリなのか?警察の回し者の可能性もあるのでは?」だった。

 第一に手帳など盗むのが怪しい。これは手帳の表紙の上部だけを見ると、財布にも見えるので一応説明が着く。何故財布を盗まなかったのかは、ボクが財布を持っていないという事実で完全に説明がつく。

 第二に、どうみてもリッチには見えない服装のボクなんぞから盗んだのが怪しい。しかし彼は傘を二本持っていて、警官が来る前に急にボクへ「一本あげる」と言った所をみると置忘れ傘のネコババと推察できるし、リッチでないスリが少しの銭でも良いからと考えた可能性はある。

 第三に、いくらでもチャンスがあったのに逃げなかったのが怪しい。ボクが足に自身が無いことや追いかける気が無いことを彼は知りえなかったし、また彼がボク以上に逃げ足に自信が無かったとしたらこれも了解できることだ。または、逮捕時の乱闘などで怪我でもして傷害罪が加算される等を恐れたのかもしれないし、言逃れができる自信があったのかもしれない。

 警察や検察庁はプロだから、ちょっと事実経過を話せば一を聞いて一〇を知るものと思っていたが、そうではない。「わざわざ遠い階段へ行ったのはこんな意味があるんですかねえ?」などと聞くと「あっ、そうか、そうとも考えられるねえ」などと言ったりする。ボクは「名探偵コナン」を時々見るが、たぶん彼らは見ていないのだ。

 スリも、警察も、検察庁も、そしてスラれたボクも、皆みんな本来の職務を全うできていない。モラルハザード充満だ(他にも報告したい事が色々あるがページがつきた)。

名古屋哲一(四・二八免職者)


Created byStaff. Created on 2005-09-04 20:41:18 / Last modified on 2005-09-29 06:44:54 Copyright: Default

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