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●映画「アライブ―生還者」

政治が人を殺す時代に顧みる 「生きる」ためには何が必要か

 1972年、世界の人々を驚愕させる出来事があった。ウルグアイのラグビーチーム の若者たちを乗せた飛行機が極寒のアンデス山中に墜落して45人が消息を断った。それ が72日もたって16人の生存者がいたとわかったからだ。なぜ彼らは食料もなく生きのび られたのか―そこに世界中から好奇の目が向けられた。

 本誌では当時、記者が現地に飛んで取材、翌73年2月4日号に「アンデスの聖餐」と 題して大特集を組んだ。その記事は感動を呼び、飛ぶように売れたことを記憶している 。

 あれから35年。この出来事を描いた「アライブ―生還者」という映画が公開される。 これまで「アンデスの聖餐」(75年)、「生きてこそ」(93年)などで映画化されたが 、いずれも他国の監督の手になるもので、多分にセンセーショナルだった。今度の監督 ゴンサロ・アリホンは同じウルグアイ人で生存者の何人かと知り合いということもあっ て、彼らと交流するなかで構想された。今まで沈黙していた生存者も参加して体験を語 るのが特徴だが、そこでうたわれるのは人間の尊厳だ。

 証言と再現映像を重ね、当時の写真やニュースフィルムも挿入しながら時間を追って 事態の推移を伝えていく。証言者たちは墜落現場に赴き、遭難の模様から救助を待つ日 々、捜索が打ち切られたと知ってからの絶望の日々、そして死んだ仲間の肉を食べるに 至ったいきさつなど、平常心を失わず昨日のように語って聞かせる。なかには連れてきた娘と語り合うものも。それらの言葉の一つ一つから生きることの大切さがひしひしと伝わってくる。圧巻は、最後の望みをかけ、2人の若者が5000メートル級の山々を越えて救助を求めにいく苦難の旅のシーンだ。

 日本では、昨年も自殺者が3万3000人(なんと1日100人もだ。これは政府の無策・財界の非道による“経済テロ”である)に上ったという。そんな死に急ぐ人々にも映画は、「生きろ!」と叫んでいるようだ。 (木下昌明/「サンデー毎日」09年3月29日号・一部加筆)

*映画「アライブ―生還者」は4月11日から東京・渋谷のヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開


Created bystaff01. Created on 2009-03-17 17:05:46 / Last modified on 2009-03-17 17:08:53 Copyright: Default

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