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ちょっとお金を貸してください

ワーカーズ7号 ウィークリー・マッドコリア

ソン・ジフン記者 2016.05.03 17:37

家に帰ると郵便受けに黒枠の封筒が入っていた。 赤い文字で「本人以外開封禁止」のハンコに見覚えがある。 初めて訃告状のように陰気な色感を見た時はずいぶん驚いたが、今では何でもない。 ただ、金を返せという脅迫だ。 封筒を開けることもせず机の上に投げ出して、通帳の残高を思い出す。 次の月給が出るまでの生活費もギリギリだ。 当分はタバコもちょっと減らさなければならない。 金を払えという訃告状は別として、直ちに来週必要な100万ウォンが問題だ。 「お母さんはなぜいつも金がない時だけ病気になったのか」といった分別のないことを考えてみたが意味はない。 まずお金を手に入れなければならない。 友人に電話をかけようとしたが、ある程度ふところ事情に余裕がある友人には、みんな二十〜三十万ウォンぐらいはすでに借金がある。 ずいぶん前に貸したので忘れているのか、有難く事情を理解してくれているのかは知らないが、 とにかく、またお金を借してくれなどとは言えない。 忘れていた過去を思い出したらどうしよう。 結局、融資を受けなければならない。ところでどこで?

「韓国社会では借金がなければ金持ちだ」という言葉はすでに常識になった冗談だ。 しかしまさに融資を受けるのは容易ではない。 どれほど簡単に金を借りられるかは、貧困の尺度ではなく、裕福さの尺度だ。 銀行で融資を受ける条件を調べると 「こうした条件を備えていれば、なぜ借金をするのか」という言葉まで出てくる。 結局、第二、第三金融圏、後ではサラ金にまで目がいく。 喉が捕盗庁(訳注:「食うためには悪いことでもする」という意味の韓国のことわざ)なのに、急いで必要な人に高い利子だの取り立ての危険だのを気にしていられるだろうか。

銀行? いったい君はここがどこだと思っているのか

融資を受けるために真っ先に行ったのは、やはり銀行だ。 大学生の時から主に取り引きをしている銀行2か所に行った。 番号札を引いて順序を待っている間、理由もなくどきどきする。 チェックカードを日常的に使い始めてから、銀行の窓口に座るのは久しぶりだ。 記憶を探ってみると10数年前に学資ローンを受けた記憶を思い出す。 「ああ、あれをまだみんな返していなかった」。

「融資相談を受けにきました」。 (そんなはずはないが)窓口に座った職員が私を下から上まで目を通しているようだった。 「お前に融資が受けられるのかい?」というような目つきで。 名前と住民登録番号を知らせるとすぐ、ソウル信用保証基金に延滞中の金額があるので、融資は難しいという返事があった。 1分もかからなかった。 それに加えて、私も忘れていた過去の通信費の延滞内訳までぞろぞろと読み上げる。 これを早く返さなければ、すべての金融取り引きに悪影響があるという忠告まで加える。 ここまで3分もかからなかった。

「なんとか銀行から融資を受けるわけにはいきませんか?」 「ない」という返事は質問が終わる前に出てきた。 メンタルまでくたくたに奪われる「狂奪」は、就職市場だけに存在しているのではなかった。 住民登録番号を入力しただけなのに、私はこの社会の経済主体としての資格がないという自己恥辱感が押し寄せた。 主に取り引きする銀行2か所とも、番号札を引いて20分以上待ったが、融資相談も受けられない「信用超過」の印鑑を貰うまで5分もかからなかった。 あるいはと思って行った銀行まで3か所の銀行、合計5つの視点で融資の「相談」を申請するのに一日かかった。 しかしまさに窓口に座って相談をした時間はすべて合計しても30分ほど。 そのすべての所から戻ってきた返事は「融資できない」だった。 延滞中の前の融資をまず解決しろという話は、まるでここがどこだと思ってあえてお前のような「信用超過」がくるのかと尋ねているようだった。

サラ金? 私たちにも今は手続きというものがあります

銀行で拒絶された人が次に視線を向けるのはサラ金だ。 最近、TVをつければ一番多い広告はサラ金の広告だ。 女なら融資を受けろ、会社員なら無利子無担保ですぐに融資可能だ、計画的に利用すれば安全だ、緊急な時はバスの代わりにタクシーに乗るのと同じだと。 銀行はわずらわしくて難しいから、こちらに来れば何も聞かずに貸すというそのサラ金の広告。 チャンネルをあちこち回しながら、30分でサラ金の電話番号6つをメモした。 これほどまでサラ金の広告が多いとは思わなかったのに。 そういえば、今ではサラ金はスポーツ球団の運営もする程に普遍化した。

国内最大のサラ金だというR社に一番先に電話をかけた。 目標は利子なしで200万ウォンを6か月間借りること。 うまくいけば実際に借りて使うことに決心した。 サラ金は必要なお金の規模と性格、償還計画を聞いて商品を薦めてくれた。 年利率34.9%の会社員信用融資。 業者は信用情報照会のために身分証のコピーと月給通帳のコピーを送れといった。 ファックスを送ってから30分後に電話がかかってきた。

「融資は難しいと思います」。 今回もまだ償還していないローンが問題だった。 一部でも償還してある程度、信用を回復しなければ融資はできないという返事は、銀行と全く同じだった。 この業者は先日、貯蓄銀行も一つ買収してサラ金のイメージから抜け出そうとしていると言われていたが、すでに銀行のふりをしているのか。 メモしておいた他のサラ金にも電話をかけた。 すべて似たような商品を薦め、似たような書類を要求した。 女性だけに融資するという所にも電話をかけた。 女性しかだめだと言われると思ったが、男性にも貸せるという。 そこにまで通帳と身分証のコピーを送って電話を待った。 六か所のサラ金に電話して、相談して、ファックスを送るのにまるまる一日かかった。

順序に融資申請の結果を知らせる電話がかかってきて、返事はほとんど同じだった。 私のような信用枠超過は、資本主義社会で生き残るのが難しいのだろうか。 結局、サラ金での融資にも失敗した。 10年前なら何とか金を借そうと努力したサラ金も、今では相当な水準の信用を要求している。 サラ金が社会全般に定着し、サラ金のイメージを落とし始めた時点からだ。 こうした現象はサラ金の就職率指標にも現れている。 国内1位のサラ金であるR社の場合、2010年上半期に5.6対1だった入社競争率は、2014年上半期には24.1対1を記録した。 4年間で競争率が4倍以上上がった。 就職難で、求職者が「泣きながら辛子を食べる(訳注: 無理して嫌なこともするという韓国のことわざ)」を考慮しても、サラ金のイメージは以前と同じではない。

それはそのまま借金が大衆の暮らしにどれほど日常的に定着したのか、 同時に融資の壁がいかに高くなったのかを説明する。 結局、庶民が金を借りるには、さらに高い利子を負担しなければならず、 さらに危険な取り立てに耐えなければならない。 例えば「ヤミ金」だ。

ヤミ金? 信じて借して差し上げているのです

ドラマや映画によく出てくる肩に入れ墨をいれ、レンガのような形のカバンを持っているおじさんが貸す金。 知り合いからヤミ金のおじさんを1人紹介された。 商売をしている友人が時々急な金を借りるというこのおじさんは、別名「オム部長」で通じる。 往年は羽振りのいいごろつきだったという。 初めて電話をかけると警戒する様子が歴然としている。 紹介してくれた友人とはどんな関係なのか、何か紹介を受けたのか、私の仕事は何か、根ほり葉ほり問い質して、しばらく待てという。 「オム部長」は一時間ほど後にまた電話をかけてきて、その時に始めていくら必要なのかと尋ねた。 友人に確認の電話をしたようだ。

200万ウォンが必要だと話すと、彼は最初の取り引きなので100万ウォンまでしか貸せないと言う。 そして口座番号を書き取ると、まず利子を引いた95万ウォンを入金するといった。 それと共に、本来は各種の書類と保証人が必要だが、紹介した友人の信頼があるので、 ただ手続きなしで貸すと話した。 あいつはそれほど信頼できるやつではないんだけど。

償還期限は1か月にしたが、10日で利子5万ウォンを入金すれば、できるだけ期限延長について便宜をはかるといった。 これも紹介してくれた友人のプレミアムなんだそうだ。 100万ウォンを借りて、10日に利子5万ウォンなら、月利率が15%にもなる。 年利率にすれば180%もの超高利だ。 銀行の融資の利子は高くても年利2%ほどだ。

オム部長との通話の後、また友人に電話をかけたところ、なんとしてでも遅れずに返さなければならないと話しながら、 以前にオム部長の「兄弟」と会った話を聞かせてくれた。 すっきり着飾った図体の良い男たちが店にきて、取立ての時に言うような言葉もなく、静かに座っているだだったが、恐ろしくて死にそうだったという。 ウィークリーマッド・コリアは「狂った韓国」を経験してみようという企画だが、いくらそれでもその兄弟たちと会うために延滞したくはない。 期限になればきれいに返すと約束して電話を切った。 電話を切ると同時にオム部長から入金があったという携帯メッセージが入ってきた。 電話番号を渡されてから2時間ほどだ。 利子が高くて取り立てが難しいだけに、手続きは簡単だった。

「学資ローンの利子をきちんと返せずに信用度が下がった32歳の大韓民国男性」が融資を受けるために突き当たる現実はこうだ。 金を借りるのが難しく、危険な金を借りるしかなく、この借金を返せなければ、さらに貧しくなって、さらに金を得ることが難くなるという悪循環。

余談? 犯罪のドロ沼

とても急いでお金が必要になれば、どこにも手を出して金品を要求したくなる。 ヤミ金は恐ろしいが、とにかくお金は貸してくれた。 だがヤミ金のように危険でも金を借りられない場合もある。 緊急にお金が必要な人の事情を利用した犯罪の現場。

急なお金が必要な時、最後の砦として思い出すもう一つの方法。 「臓器売買」だ。 肝臓を取って、腎臓を取ってお金を作るるという話は冗談のように聞こえるが、 地下鉄の駅のトイレでは腎臓を買うという広告ステッカーをよく見る。 臓器売買は法律で厳しく禁じられているが、「腎臓一つくらいはなくても生きていられるが、すぐに金がなければ死ぬ直前」という状況に置かれれば、 「できないこともない選択」になる。 ソウルの古い地下鉄の駅を歩き回り、臓器売買の広告ステッカーを探した。 簡単に電話番号を見つけて電話をかけた。

「腎臓の相談で電話をしました」。 受話器向こう側からは年齢と腎臓、体重、兵歴を尋ね、 数日後に直接会って詳しい相談をして、検査を受けようといった。 検査の結果によって違うが、普通、腎臓は8千万ウォン程で取り引きされるとも言う。 そして電話を切る前に、「検査費と手数料として250万ウォンを準備してください」。

250万ウォンとは。何日かでそんなお金を準備できる人が腎臓を売るという電話をするわけがあるものか。 「お金を作れそうもないし、作れても大金を一度にあずける程あなたを信じられない」と言ったところ、 「信じられなければ取り引きは難しい」と言った。 別のところで見つけた番号に電話をかけても同じだった。 ここはそれでも200万ウォンだけ持ってこいと言い、よく考えてまた電話をくれという親切さを見せた程度の差。 臓器売買についての記事を検索した。 臓器売買のブローカーを装った人たちが手数料の名目で金を横取りする詐欺手法がよくあるという記事が多い。 金額も200〜300万ウォン台で、ほとんどが一致していた。 電話をかけた所はすべて詐欺だった可能性が濃厚だ。

時々、担保も信用も無関係に、すぐ1千万ウォン以上を貸すという携帯電話のメッセージ広告も詐欺だ。 誰かはそれを信じるようだが、前にお金が急いで必要だった時に電話をかけた。 精神さえ完全なら問題ないよといった。 彼らは私の足りない信用の代わりに、自分たちが銀行から融資を受け、その手数料を取るシステムだと説明した。 信用を迂回するために新しく口座を作り、その通帳を自分たちに送ってくれといった。 「偽名通帳」を作る手法だったが、緊急な人に「理性的な判断」などは贅沢だ。 通帳を送って1週間、連絡がくることはきた。警察署から。 私が送った通帳には、すでに数十人の金融詐欺被害者が送った400万ウォンのお金が入っていた。 数十件の支払い中止命令がかかったまま。 幸い、被害者に分類され、処罰はされなかったが、処罰されないという安堵よりも心配が先んじた。 「どこでお金を借りればいいのか」。

本当に緊急にお金が必要になる状況、その切迫さを知っている。 合法と不法の境界、自分の健康も道徳の問題も無視させ、理性的な判断などは脇に置かせる切迫さだ。 ヤミ金市場のオム部長から高利の金を借りて足元の火を消した人たちにとって、彼は高利のヤミ金業者ではなく、「緊急な時に私を信じてくれた金融業者」だ。 身ひとつしか持たない状況で、それぐらいは買ってやろうという人を恨むのか、 体も売ることができないようにして金を払えという人を恨むのか。 「喉が捕盗庁」という言葉は、理由のない言葉ではない。 だが韓国社会でその切迫さは配慮されたり、理解されるのではなく、利用される。 ヤミ金業者や犯罪者が利用するにしても、この狂った世の中が利用するにしても。

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2016-05-09 12:14:08 / Last modified on 2016-05-09 12:14:09 Copyright: Default

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