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「クリトリスは人権」、タブーを越える女性PD

[3・8女性デー特別企画インタビュー(3)]ドキュメンタリー〈アイアムビーナス〉を製作したMBC忠北キム・ウリムPD

ユン・ジヨン記者 2021.03.05 08:35

▲〈アイアムビーナス〉スチールカット[出処:MBC忠北UHDドキュメンタリー〈アイアムビーナス〉]

「紹介します。 人体でただ性的快楽だけのために存在する唯一の機関。 まさに女性のクリトリスです。」

聞き慣れないわけではない名前。 だが姿も、目的も、発生の過程もよく知らされない女性の生殖器官。 数百年間かくされ消されて、また不穏視された禁止の領域。 ドキュメンタリー〈アイアムビーナス〉は、禁止の城に閉じ込められた「クリトリス」を探しに出る旅だ。 医学の領域からさえ削除されたクリトリスを復元して、 女性の性的主体性と共に闇に消えたビーナスをよみ返らせる。 そして家父長制の下で性的抑圧を受けてきた女性たちに うれしい慰労と連帯の挨拶をする。 自らの性を抑圧してきたのは決してあなたのせいではないと。 女性の性は受動的ではなく、楽しくてうれしいものだと。

「果たして製作できるだろうか?」という疑問符から始まった企画案は、 2019年に一つのドキュメンタリーとして全て完成した。 その年の11月、MBC忠北で初めて放映され、翌年10月にMBC本社を通じて全国に送信された。 2019年に韓国ディレクター連合会から「今月のPD賞」を受賞して、 2020年には放送通信委員会放送対象創意革新部門優秀賞とMBC全国系列会社作品競演大会大賞、 そして両性平等メディア賞女性家族部長官賞まで受賞した。 無知の領土をさまよった多くの疑問符を「私たち皆がビーナス!」という感歎詞に戻した〈アイアムビーナス〉。 このドキュメンタリーを製作したMBC忠北の唯一の女性PD、 82年生まれキム・ウリムPDと会った。

「クリトリス、いったいそれは何か」

「私自身が私のからだについて何も知らなかった。 それでも教育のある女で、フェミニストだと考えていたのに、何も知らなかったのです。 34で子ども二人を生んで、クリトリスの本当の存在を知りました。 それも偶然な契機で。 とても衝撃を受けました。 私だけが知らなかったのかが気になって、周辺に聞いてみると皆知らなかったというのです。 これはおかしいと考えました。 極めて韓国的な現象でしょうか? 海外はどうか? 色々と悩みながら、2017年にドキュメンタリーを企画しました。 その頃、海外で3Dクリトリスが製作されて、 翌年にフランスでクリトリスについて教育する所ができ始めました。 とても意外でした。 西欧は性に開放的で女性の人権に関しても半歩ぐらいは先んじていると考えていたのに。 いったいクリトリス、それは何か。」

▲MBC忠北キム・ウリムPD[出処:ユン・ジヨン記者]

クリトリスの「本当」の存在。 ドキュメンタリーの中で女性たちは小さい鳥のようなクリトリスの3D模型を手の平にもって感心する。 「本当にこうなってるのですか?」、「とても可愛い」。 外陰部の上側、鳥のくちばしのような頭の下から両足がのびていて、 その間に前庭区と呼ばれる二つの塊りにつながる完全なクリトリスの姿。 快楽以外には何の目的もない唯一の器官。 男性のペニスと発生学的には同じ相同器官だが、 それより50倍程度さらに敏感なクリトリス。 それが勃起すると普段の二倍の20センチの手の平ほどの大きさに膨らむという事実を知る女性はどれくらいいるだろうか。

クリトリスの歴史は女性に対する性的抑圧の歴史だ。 キム・ウリムPDは根深い家父長制社会がどのようにしてクリトリスを傷つけて消したかを追跡する。 クリトリスは1800年代の解剖学でその存在があらわれ、 1901年のグレー解剖学でもクリトリスの小さな一部を表記しておいた。 だがいつのまにかそれは医学からも、解剖学からも消えた。 まるで当初から存在しなかったかのように。 20世紀の精神分析学の創始者、ジグムント・フロイトは「使い道のない器官」とクリトリス弾圧の先頭に立ち、 魔女狩りの指針書〈魔女に与える鉄槌〉を書いたハインリヒ・クラーマーは、 クリトリスを「悪魔の乳首」と呼んだ。 女性のからだは全て記録されなかった。 なければならないことと、なくならなければならないことと選別され毀損された。 クリトリスの完全な姿が明らかになったのは、 世界最大のポータル社Googleが創立された年の1998年だとは。 最近は違うだろうか。 韓国社会において女性のからだはひたすら子宮だけを持つかのように存在して、 地球の反対側では相変らず女性たちが割礼で命を失う。

「出産は神聖で美しい行為と美化されます。 だがそれが女性のからだに持たらす変化についてはほとんど情報がありません。 出産後に歯ぐきが弱り、痔にかかって、難産でからだが壊れて、 母乳の授乳で乳口炎や乳腺炎を病むこともあるという事実は知りません。 その上、からだの変化に対処する時間なく、完璧なお母さんになるために突入しなければなりません。 不安を刺激する育児情報は溺れるほどあふれ出ています。 しかし女性のからだについての話はありません。 女性のからだは相変らず道具化されています。 ドキュメンタリーにすべて入れられなかった話も多いです。 ある面談相手は出産以後に自分が無性的な存在になったようだと言って泣きました。 結婚前は控えめな女性にならなければならず、 子供を生んではお母さんにならなければならないので、 自身の性を否定します。 お母さん『性』がどこにありますか? 女性はずっと無性的な存在として暮らさなければなりません。 彼女は一度も自分を女性として自覚したことがないと話しました。」

「オルガスムスは人権です」

ポータルサイトで「クリトリス」を検索すると、 「青少年に適合しない内容を含んでいる」という警告文句が出る。 すべての女性が持つ身体の一部なのに、何が適合しないというのだろうか。 ドキュメンタリーは、女性に羞恥心と罪の意識を教える韓国の性教育現場を批判する。 英国のガーディアン紙が「厚かましい性差別主義」という題名で 韓国の性教育標準案を批判したのはわずか3年前のことだ。 「男性は女性の性的魅力だけで強い性的衝動を持つ」、 「女性は容貌を磨くのに精魂を込め、 男性は経済的能力を伸ばすために努力しなければならない」といった内容が 高校生の性教育標準案に堂々と記載されているからだ。 韓国の教師と学生は現在の教育が自らのからだと性を差別なく知る権利を奪うと指摘する。 自分のからだを正確に知らず、互いに関係を結ぶ方法も学んだことがない学生たちは、 学校の外で歪んで差別的な性知識に接することになる。

▲〈アイアムビーナス〉スチールカット[出処:MBC忠北UHDドキュメンタリー〈アイアムビーナス〉]

「良い教育は世の中を変える始まりだと考えます。 教育があたえる希望と期待があるからです。 そのため、教育こそ最も介入が難しく、各種の反対にぶつかる議題でしょう。 高等学校で微積分を教えることには誰も文句をつけないでしょう。 しかし労働法、統一教育、フェミニズムのような教育をするといえば、 政治的に鋭く対立します。 まさに至急なことは、あまりに悲壮にならず、 科学的根拠を基礎として淡々と話せる性教育だと考えます。 エレン・ストッケン・ダールが書いた少女のための性教育本「質疑応答」には、 とても詳しい内容が出てきます。 政治的な論争や宗教的価値観が介入する余地がありません。 女性の性は人権の問題だと考えます。
私は『オルガスムスは人権だ』というスローガンが好きです。 しかし社会は性の問題を人権や平等の問題とは考えません。 個人的で副次的な問題として片付けてしまいます。 私もやはり会社員として享受する生理休暇や労働権についてはある程度認識をしていて、 戦う準備もできています。 反性暴力の問題も直間接的に経験があります。 しかし性的欲望やよろこびといったことは政治的な議題と考えることもありませんでした。 性をダブー視したからでしょう。 しかし自分のからだについて知る権利、健康についての権利、 性的自己決定権などを享受するためにも、 何よりも正確な情報と教育が先行しなければなりません。」

1人いた女性の後輩PDが退社して、彼女はMBC忠北の唯一の女性PDになった。 そのため女性と人権、労働権に関してさらに多様な悩みと話が必要だということを知る。 彼女は姑嫁の対立や女性の消費のような典型的な情報だけを羅列する朝番組コーナーを引き受けて、 職場内性暴力や労災、女性の性、幼児自慰のような現実的な悩みについての話を解説した。 最近では〈アイアムビーナス〉の問題意識を拡張するために、 青少年を対象として12部作の性教育番組を企画している。 会社の中で番組企画に関して悩みを分けあう女性の同僚は多くなく、 少し孤独だが多様な現場と日常で激しく戦う女性がいるから、 相変らず悩みと話はあふれ出る。 〈アイアムビーナス〉のような番組を通じて国内外の女性活動家と会い、 彼らの話を表わすのは彼女の仕事と生活の大きな活力だ。

キム・ウリムPDが会社に入社した2008年。 最終面接で二人の面接官が彼女に尋ねた。 もし内部で性暴力問題が発生したら公論化するのかと。 入社直後に労組の委員長が彼女に話した。 社内恋愛と性暴力問題の公論化、この2種類だけはするなと。 だが彼女は結局その2種類をすべてやり遂げた。 会食の席で某機関の担当者から性暴力を受けた後、 すぐ隣にいた上官にこれを知らせたが、返ってきたのは 『PDがそんなことで問題を提起するのか』という面駁だけだった。 その上官は会食中、ずっとキム・ウリムPDを「ひよこディレクター」と呼んだ。 性暴力行為だけでなく、会社の中での黙認と幇助、 そして位階的な文化ももうひとつの加害だった。 翌日3人の作家が同じ被害を受けたという事実を聞いて、すぐに対応を始めた。 「内部射撃をするな」といった2次加害をはるかに超える闘いをした。 彼女はMBC忠北で初めて育児休職を使ったPDでもあった。

女性として、そして労働者として、いつも不当なことと向き合うが、 彼女は絶対に悲観しない。 フェミニズムリブートの前と後が違うように、 さらに多くの声と戦いが起きるほど、世の中が変わるということを信じているからだ。

「それでも労働組合に希望がないとは考えません。 それならさらに希望を持たなければいけません。 私たちの世代が作る労働組合は違うだろうし、必ず変わらなければならないという希望。 私の周辺で、私と一緒に連帯できる人たちと勇気を分けあいながら、 私ができることをすること。 臆することなく、たとえ孤立感を感じても、あまり長く留まることなく良いエネルギーを取り戻すこと。 そしてそのエネルギーを互いに分けあうこと、 それが今、私に与えられた一番重要な課題です。」

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


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