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〔週刊 本の発見〕『新しい階級社会―最新データが明かす<格差拡大の果て>』 | ||||||
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アンダークラスというブラックホール『新しい階級社会―最新データが明かす<格差拡大の果て>』 (橋本健二 著、講談社現代新書、2025年6月、本体1200円)評者:大場ひろみ
東京の地域格差は今更始まったことではないが、そのぼんやりとした身体感覚を、統計を活用して目で見えるように突き付けた恐ろしい書であった。もっと早く『跳んで埼玉』という映画が大ヒットしたが、あれはみんなの共通認識としてある地域格差=差別を、実際に自虐と闘争のパロディとして描いたから、何だか胸がスカッとしたのだ。 その橋本の最新作が今回取り上げる本だ。統計から情報を引き出す手法をますますグレードアップさせて、「新しい階級社会」の形成と現状の分析、そしてその成り行きを予測する。 「新しい階級社会」とは、1980年代までの、労働者は下層でもそれなりに安定した収入を得、新中間階級(専門職・管理職・正規の事務職)が増大し、旧中間階級(自営業者やその家族従業者)は縮小してそこそこに、みんな暮らしを守り世代をつなげる状態であったのが、新自由主義(橋本はこれをフレクシ=グローバル資本主義と呼ぶ)への経済構造の変化が起こり、アンダークラス(パート主婦以外の非正規雇用労働者)が登場したことによって、労働者階級が分裂して別の階級になった社会である。資本家は自分が儲かりさえすればよく、労働者を使い捨て、或いは調整弁とする。アンダークラスの労働者は子育ても、満足な暮らしも補償されない。この辺りのことはもう十分知っていると思うかも知れないが、橋本はしつこく統計を分析し、数字を突き付けることによって、私たちが置かれている見事に階級化され、様々な格差で心さえも分断された状態を示す。 橋本は、アンダークラスの働かされ方は再生産不可能(低賃金で労働が厳しいから余暇や消費物で金を還元できず、結婚や子育ても出来ず次世代につなげられないなど)であり、使い捨てであるから他の階級からどんどんアンダークラスへ人々が供給されて行くブラックホールのようなものであるという。そしてこのような社会は持続不可能であると、少子化を例にあげて断定する。 このような変化を推し進める政治状況にも、橋本の分析は及ぶ。貧困や格差への認識や自己責任か福祉政策か、或いは憲法改正、沖縄の基地問題、原発などにたいする意見や支持政党を問うアンケートによって、リベラル(26.4%)、伝統保守(21.0%)、平和主義者(20.9%)、無関心層(18.5%)、新自由主義右翼(13.2%)という5つの集合(橋本はこれをクラスターと呼ぶ)を抽出した(この各クラスターの名称は解説がいる。詳しくは本書参照のこと)。この中で第二次安倍政権が取り込んだ「新自由主義右翼」とは、「高学歴かつ高収入で、多くの資産を所有する、主に男性たちである。自分たちの経済的利害に忠実に、自己責任論を支持して所得再分配に反対する人々である」。この人たちは先の参議院選挙においては参政党や日本保守党の支持に回った。しかしこの人たちの割合は5つのクラスターの中で一番少ない、という点だけは押さえておいていいだろう。数では少数派なのだ。 他にも興味深い数字が目白押しだ。例えば女性のおかれた地位に関する分析も秀逸である。女性は資本家階級から無職まで満遍なく同階級の男性の所得より低く、さらに配偶者の男性がいればその男性に搾取される構図になっているという。企業も家父長制をモデルに労働者を支配していると指摘する学者もいる。そして悲しいことにどの階級においても、暮らしに満足かと聞かれれば満足と答える女性が、男性より多いという数字。搾取されても現状に甘んじようとする女性の、社会への従属性が浮き彫りになる。 図表やグラフが並ぶ、決して読みやすい本ではないが、様々な示唆に富むのでお手元にいかがか。橋本健二の本では他に祥伝社社会文庫の『居酒屋ほろ酔い考現学』が、おいしく楽しくためになる。 Created by staff01. Last modified on 2025-09-18 08:35:09 Copyright: Default |