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LNJ Logo 〔週刊 本の発見〕写真集『Underrated vol.2』
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毎木曜掲載・第381回(2025/3/20)

息苦しい時代への共感―それでも生きていこう

写真集『Underrated vol.2』(TOMOKO BABA、本のまち双葉町BOOKSHOP、2500円) 評者:志真秀弘

 本書のタイトルUnderratedは「過小評価」の意味。誰が誰をそうしているのか? 写真集はその問いを問うている。

 これはTOMOKO BABAの二冊目の写真集。昨年12月に刊行された。第一作『Underrated2022-2023』(A4)と異なり、今回はA4の2分の1サイズになっている。判型はコンパクトになった。内容は、しかしいっそう緊迫感がましている。人物に接近したクローズアップ写真が前作よりも多く、撮影者は大丈夫だったのだろうかと心配になるくらいだ。望遠レンズを使ったのではなさそうで、被写体の眼が撮影者に向かっているものがいくつもあることでそれとわかる。作者の視点は鋭い感じであるより、柔らかで対象を包みこむような感じさえある。この時代に働いて生きることはけしてたやすくはない。人びとのその息苦しさへの共感が表現されていることがこの写真集の特徴になっている。電車の車内でうつむいた姿勢でスマホをいじっている人、路上でしゃがみ込んでスマホを見ている若い女性などの写真をみると、立っていても座っていても首うなだれる姿勢はこの社会に共通のものだということに気づかされる。

 スマホを持っても持たなくても、まっすぐ前を見て生きることの難しい時代なのだ。

 〈もし、私が死ななければならないなら、あなたは生きなければならない。私の物語を語るために〉 本書冒頭のエピグラフはパレスチナの詩人Refaat Alareerリファアト・アルアリイール(2023年空爆により死亡)の詩。作者はこの詩にふれて巻末にこう記している。「生きることはとてつもなくシンドイけれど、この詩は確かに日本の路上に光を届けた。『あなたは生きなければならない』」。

 TOMOKO BABAのどれほど息苦しくても生きようとのこのメッセージに私も強く共感する。路上の人びとに寄せる作者の眼差しは、自分もそのひとりに他ならないとの共感から出発している。Underrated(過小評価)、つまり見下げられた人々こそ生きなければならないのだ。なんとか前をまっすぐ見る姿勢で。

 本の中ほどには〈あなたが作る私の凧が/舞い上がるのを子供が見て/ほんのひととき天使がそこにいて/愛をまた届けに来てくれたと思えるように〉の詩が置かれている。

 作者は「白い凧を揚げたくなった」と書く。「遠いパレスチナと日本に生きる自分。隠された尊厳に日が当たる時が来るのか? 探り続けるような感覚だった」。「隠された尊厳」そして「探り続けるような感覚」は、ともにこの写真集をしっかりと貫いている。

 この詩を中仕切りとして始まるのはパレスチナ支援のデモの写真である。怒りと愛とそして悲しみが満ちている。第一写真集にも使われたデモに参加したパレスチナの少女の写真も改めて収められている。その表情は「こどもをころすのやめて」のプラカードと共に強く印象に残る。

 ナイーブな感性と合わせて理知的な写真構成が柔らかな視線を活かしている。モノクロで粒子の粗い表現と合わせてこれはTOMOKO BABAの世界だ。

 前作にあったカラスなどの暗喩的な表現は極力抑制され、あくまで対象被写体の表情の変化や細かい動作の一瞬を切り取ることにカメラは集中している。そのぶん作者のメッセージはよりはっきりと伝わってくる。

 前作から1年とおかずに今回の写真集『Underrated vol.2』は刊行された。次の作を期待せずにおかない。

▶︎写真集はレイバーネットで取り扱い中。問い合わせは レイバー事務局
▶︎第1集の紹介 http://www.labornetjp.org/news/2024/hon346


Created by staff01. Last modified on 2025-03-19 21:55:38 Copyright: Default

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