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〔週刊 本の発見〕写真集『Underrated 2022-2023』 | ||||||
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通勤途上で切り取った光景―現代に生きる人々の肖像写真集『Underrated 2022-2023』(TOMOKO BABA、自主出版、2024年1月刊、2500円)評者:志真秀弘
74ページ79枚の写真で構成されていて、撮影場所は明かされず、キャプションもない。ほとんどモノクロームで、3枚だけがカラーで撮られている。そう書くとそっけない写真集と受け取られそうだが、決してそうではない。 写真の配置・構成にリズムがある。例えば見開きに1枚の写真、次に横位置に2枚ずつ、それが6ページ続く。構成には緻密な計算がなされている。大小の組み合わせでもそうだし、それぞれの写真の主題も関連している。 立ち枯れた植物の写真がまずあって、ページを繰ると、路地わきの壁の前に顔を伏せて座り込む若い女性の写真がある。駅構内の通路に倒れ込んでいる人。そして路上のガード脇に腰掛けてイヤホンで何か聞いている作業着の初老の男性。路上で羽ばたく鳩のショットが続く。さらに、バス停近くのに群れる20羽近いカラス。 この写真群は、みな粒子が荒く、あえてピントも鋭くしていない。それがみるものの気持ちを不安にする。鳩もカラスもその不安をかき立てる暗喩と言える。 人物スナップでも顔を歪めて、不味そうにタバコを吸う青年が印象に残る。さらに歩道上に仰向けに横たわる人がいるのに、すぐそばで、ソンナノ関係ナイとばかりに、道の脇に腰掛けて携帯で電話する人がいる。いかにも今の街で見かけそうな人たちだが、それを撮影するには一種の気合いが必要だろう。カメラを持つTOMOKO BABAには一瞬を切り取る気合いがあり、勇気がある。それだけではない。路上の光景から現実の問題へと導く。その方法をこれらの写真から伺うことができる。作者は、自分の内面に問いかけながら写真を撮っている。私は内省的視線と名付けたい。俊敏な気合いと自らも突き刺すような視線。その緊張関係が、決まりきったありきたりな言葉を崩す衝撃力のある写真を生んだ。 写真集の最後に「イスラエルは虐殺を止(ヤ)めろ」のプラカートあるいは「Free Pal stine」と書かれた旗を持った人たちのデモ行進に始まる写真が5枚ある。辛そうな表情の少女が持つ紙にはこう書かれている。「なんでこどもをころす。???わたしはこどもがすきです。いいぱい(原文のママ)なこどもがしんだ。こどもをころすのやめて」。デモの高揚感ではなく、むしろ悲しみが伝わる。そして一日も早く戦争を止めたいという切迫感も。カメラをにぎったものの感情が画面に溢れている。 現代都市の貧困と孤独感を画像にくっきりと定着させた上で、それを潜り抜ける方向を静かに示唆する。これを写真表現として成し遂げるのは、並々ならない力だ。評者は一人のドキュメンタリストの誕生を、この写真集に見ることができた。 最後のページに作者の文章が載っている。「写真を撮り始めたのは、ちょうど5年前のこと」とある。「通勤3時間以上」の道のりの中で、ある日突然見えていなかったものに気づく。見ようとしなければ何も見えない。タイトルのUnderrated(過小評価)は、現実と自分への一つの見方と断っている。そこから出発した写真表現は、これだけ豊かに実を結んだ。ここから、正当な評価を目指した作者の努力がさらに始まるのだろう。その支援のためにも、一人でも多くの人がこの写真集を購入してほしい。 *写真集はレイバーネットで取り扱い中。問い合わせは labornetjp@nifty.com Created by staff01. Last modified on 2024-05-16 09:20:25 Copyright: Default | ||||||