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LNJ Logo 大阪・関西万博 不払い問題:アメリカ館の三次下請、倒産の危機
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アメリカ館 社会保険料払えず差し押さえ
子どもは大学を辞めざるを得ない状況

かわすみかずみ

 2025年4月13日から開幕した大阪·関西万博。行列ができるほど人気のパビリオンの一つがアメリカ館だ(写真)。テレビでは連日万博の特集が組まれ、アナウンサーが魅力を紹介している。

 アメリカ館建設の際、三次下請けとして参加したAさんは、約2800万の不払いを抱え、倒産の危機を迎えつつある。社用の車をすべて売り払って関係業者への支払いに充てた。それでも払いきれずに待ってもらっている業者や個人は8ヵ所にのぼる。社会保険料の会社負担分が払えず、何度か事情を話したが銀行口座を凍結された。従業員には「違うところに移ってもいいよ」と声をかけている。最後は自分1人で責任を負う覚悟だと言った。

 Aさんが万博工事に関わるきっかけとなったのは二次下請けの(有)ネオ·スペースを材料屋から紹介されたことだった。ネオ·スペースとは初めて会ったが、材料屋から「心配ない会社だ」と言われた。材料屋は決算書などのチェックを行って債務状況を確認することが通例だ。材料屋が勧めてくるということは債務状況に問題ないと思い、万博工事の話を聞いてネオ·スペースとの仕事を決めた。材料屋との付き合いもあり、万博の工事業者を探しているということだったので協力しようと思った。

日本では考えられない現場

 2024年11月から2025年3月まで、アメリカ館の内装工事を行なった。壁の骨組みや石膏ボードを塗る下地作業を請け負った。作業に入る条件として最低でも70%の工事が終わっていることを要求したが、実際に作業に入ると5%しか終わっていなかった。作業中は、自分たちの請け負う場所に他の業者が作業に来て、作業が進まないことが多かった。作業手順や配置が全く管理されていなかった。

 一次下請け業者のビスコムは、「人が足りないからどんどん入れろ」と言ってくる。しかしAさんは、「作業の計画に沿って入れないと人件費がかさむ」と拒否し続けた。ビズコムは「それでもいいから入れろ。何とかする」というので仕方なく人工を増やした。予想したように費用がかさみ、人工が余ったりした。ESグローバルは建設業者ではない。イベント会社が元請けになったことで、建設現場の段取りや図面が現場に即していない状況が起きた。現場の職人らは、「アメリカ館の工事費は相当膨らむな」と分かっていたという。施工体制台帳(元請けから下請けまでの業者名が明記されたもの)などの書類を提出していたが、Aさんは「提出しても意味はなかったと思う」と憤る。

 万博協会や大阪府市が現場を見に来たと職人から聞いたことはない。協会や大阪府市が現場を把握していなかった可能性は高い。

 ネオ·スペースに支払いを求めたが、「金額が高すぎる」と言われた。職人に払う原価だけでも払ってほしいと要望したが、だらだら引き延ばされた。やっと話し合いの場を持てたのは今年4月11日。4月末に銀行決済があるのでそれまで待ってほしいと言われ、待っていたら5月12日に倒産した。

 弁護士に相談すると、計画倒産の可能性もあるといわれ、ショックをうけた。4月の時点で大阪府に不払いの相談をしていた。しかし府は「万博協会に相談してください」と受け流した。万博協会は「お話は受け付けました。しかし対応しかねます」と拒否した。名前も、どこのパビリオンかも聞かれていないと、Aさんはいう。結局あてにならないんだなと思った。

自分のせいで子どもをこんな風にした

 Aさんには3人の子どもがいる。上の子は大学1年生で、万博工事が終わるこころには2年に上がる予定だった。不払いによって資金繰りが悪化したため、上の子に「ごめんな」と謝って大学を辞めてもらった。上の子は「いいよ。俺働くよ」と言ってくれたと、Aさんは静かに語って、その後しばらく言葉を発することはなかった。「この話は、ほんと、(自分の感情が)駄目なんです」と言葉を詰まらせた。自分のせいで子どもをこんな目に合わせた自分を、Aさんは悔やんでいる。

 下の子2人はまだ小さいため、不払いのことは話していない。テレビで万博会場様子を見て「月の石を見たい」という2人の姿に、Aさんは複雑な思いになった。月の石が置かれていたのはアメリカ館だったからだ。でも、自分はきちんとした仕事をした自負がある。だから、子どもたちが見たいと言うならアメリカ館を見せたいとも思うと言った。

 間に合わないと言われた万博工事を、職人の意地とプライドでやり抜いた人々が、なぜこのような目に遭わねばならないのか? 国や万博協会、大阪府市は、なぜ早期救済を行わないのか?

 万博の本当の成功は、こうやって陰で働いた人が救われ、感謝されてこそ言えることではないかと思う。


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