「わだつみ会」声明：「日本学術会議特殊法人化法」強行成立に抗議する

投稿者: 小野政美

【「わだつみ会」声明】「学問の自由」を圧殺し学問を軍学共同の道具にする「日本学術
会議特殊法人化法」強行成立に抗議する

２０２５年6月12日
日本戦没学生記念会（わだつみ会）

（１）2025年6月11日の参議院本会議で石破自公政権と日本維新の会により、「日本学術
会議特殊法人化法」が、日本学術会議・多くの研究者・全国の市民の反対にも拘らず成立
した。日本戦没学生記念会（わだつみ会）は、２０２５年5月１３日、学問を軍学共同の
道具にするために、日本国憲法で保障された「学問の自由」を蹂躙する「日本学術会議特
殊法人化法案」を衆議院本会議において強行採決に抗議するとともに廃案を求める声明を
発表した。私たち「日本戦没学生記念会」（わだつみ会）は、絶対不戦の立場から、「学
問の自由」を圧殺し、学問・科学を軍学共同の道具にし、戦争への道を開く「日本学術会
議特殊法人化法案」強行成立に強く抗議するものである。

（２）「日本学術会議特殊法人化法案」は、「日本学術会議法」の前文を削除し、「科学
者の総意の下に」「わが国の平和的復興に貢献する」という日本学術会議設立の原点を消
し去り、「科学者の総意の下に」「独立して職務を行う」という日本学術会議を解体する
ものである。外部者からなる選定助言委員会は、学術会議の会員選定方針に意見を言うほ
か、候補者選定にも介入できる。時の政権にとって都合の悪い学者を排除する制度を法律
に組み込み、会員の任命拒否をしなくても人事介入ができる。日本学術会議の独立性を奪
い、首相が議長を務めるトップダウン型の「総合科学技術・イノベーション会議」がボト
ムアップ型の日本学術会議を政権や財界の意に沿う組織に変質させる。
「学問の自由」を圧殺し、学問を軍学共同の道具にし、戦争への道を開き、「軍産学共同
」で、学問・科学を軍事的済的利益に貢献させるための法案に他ならない「日本学術会議
特殊法人化法案」は、日本学術会議の独立性を奪い、学問・科学を軍学共同の道具にし、
軍事研究をはじめ政府や財界の意に沿う方向に学術界を動員するために、日本学術会議へ
の政府・権力の全面的管理統制するために準備された法案である。そして、この法案は、
首相が議長を務めるトップダウン型の「総合科学技術・イノベーション会議」が、ボトム
アップ型の日本学術会議を政権や財界の意に沿う組織に変質させる「法案」であり「学問
の自由」を圧殺し、学問・科学を軍学共同の道具にし、軍事研究をはじめ政府や財界の意
に沿う方向に学術界を動員するために準備された法案である。
「法案」は、日本学術会議が内閣府に対して確保を求めていたナショナル・アカデミーの
５要件（①国家財政支出による安定した財政基盤、�ﾍ②活動面での政府からの独立、お
よび�ﾍ③会員選考における自主性・独立性の各要件）を充足せず、日本学術会議会長声
明で示した５つの懸念（①大臣任命の監事の設置を法定すること、�ﾍ②大臣任命の評価
委員会の設置を法定すること、�ﾍ③「中期目標・中期計画」を法定すること、�ﾍ④コ・
オプテーションの考え方の逸脱になる次期以降の会員の選考に特別な方法を導入すること
、�ﾍ⑤選考助言委員会の設置を法定することに対する懸念）は、衆参両院内閣委員会・
本会議でも払拭されていない。「法案」は、「国から独立した法人になるから必要ない」
として、憲法２３条が保障する「学問の自由」にもとづいた「独立して職務を行う」とい
う現行法の規定を削除し、政府が学術会議の人事、活動、財政にわたって介入する仕組み
を幾重にも設けたことは、日本学術会議の「独立性」を侵害するものである。

（３）日本学術会議総会では、会長声明とともに、法案の抜本的修正を求める決議を採択
した。日本学術会議が４月１５日の総会で採択した「声明」では、「政府からの独立、会
員選考における自主性・独立性が充足されておらず、むしろ独立性の阻害が意図されてい
る」と深刻な懸念を表明している。さらに、５月７日の衆院内閣員会の参考人質疑で梶田
隆章日本学術会議前会長が述べたように、学術会議の同意のないまま組織や会員選考の変
更を法定化すること自体が、日本学術会議の独立性・自律性を侵害するものである。「日
本学術会議特殊法人化法案」は、日本の国際的科学アカデミーである日本学術会議から独
立性・自主性・自立性を奪うものであり、日本学術会議の歴代会長６氏の声明が「日本の
学術の終わりの始まり」と言う通り、日本学術会議を政府・権力が全面的に管理統制でき
る組織に代えるものである。学術会議をめぐって今起きていることは、学問研究の世界に
限らず、市民一人ひとりの自由や民主主義に深く関わる問題である。
そもそも、この法案は、2020年に当時の菅義偉首相が、日本学術会議会員候補学術会議か
ら推薦された会員候補105名中の６名を理由を示さずに任命拒否を行ったことにある。6名
は、安保法など政府が推進する政策に否定的な言動をしていた。2000余の学協会・研究者
・市民は、菅・岸田・石破政権に対し一刻も早い６名の任命拒否の撤回を求めてきたが現
在も撤回されず、それどころか、日本学術会議の独立性を侵害した６名の会員任命拒否を
逆手に取り、内閣府の「有識者懇談会」が出した報告書に基づき「日本学術会議特殊法人
化法案」を国会に提出した。

（４）２０２５年2月以来、日本戦没学生記念会（わだつみ会）は、石破政権の閣議決定
を経て国会に上程された「日本学術会議特殊法人化法案」の廃案を目指して、＜日本学術
会議特殊法人化法案」の廃案署名呼び掛け16団体＞の一員として、多くの良心的な学者、
全国の市民と共に、法案廃案の署名活動を進め、２万筆以上（その後合計約7万筆）の署
名を内閣府に届けた。その後、さらに多くの団体と共同して、＜日本学術会議の「特殊法
人」化に反対する学者・市民の会＞を結成し、数次の院内集会、日本学術会議応援人間の
鎖、衆院内閣委員会傍聴、数次の国会前ヒューマンチェーンなどのさまざまな活動を続け
てきた。日本戦没学生記念会（わだつみ会）は、院内集会やヒューマンチェーンなどでは
、『わだつみのこえ』（岩波文庫）や『学徒出陣』を持ち、「わだつみ会」の名前も書い
た「学徒出陣」の写真や学徒兵の手紙を入れた手づくりの大きなアピー板を掲げて、何度
もアピールをおこなった。今回の運動では、「わだつみ会」の名前と歴史が予想を超えて
大きな反響を呼んだ。
「日本戦没学生記念会」（わだつみ会）は、戦後の再軍備に反対する運動の中、１９５０
年に戦没学徒の遺族や当時の知識人、学生たちによって結成された非戦・不戦・反戦・平
和団体である。「学徒出陣」８０年の２０２３年１０月、「わだつみ会」は、「学徒出陣
」80周年にあたり、いかなることがあろうと「絶対不戦」の立場に立ち、「不戦の意思」
を守り抜くことを訴えます」という「学徒出陣」８０年声明＜（中略）「わだつみ会」は
、戦没学徒の自由と平和への遺念を受け継ぎ、今また「新しい戦前」といわれる軍備強化
に反対します。そして、沖縄では学徒より若い14歳から18歳の少年少女が学園から戦争に
動員され無念にも若い命を亡くしました。私たちは、この「元全学徒の会」と連携して、
沖縄を戦場にすることに強く反対します。何よりも憲法の改悪に断固として反対します＞
を発表した。
１９４３年（昭和１８年）１０月２１日、２７０００人の学徒が雨の中、７万人を超える
女学生たちが参加する中、東京の明治神宮外苑競技場で、文部省主催、陸海軍省等の後援
で実施された。全国７７大学などでも「出陣学徒壮行会」「出陣学徒壮行会」が行われた
。その後、全国で、「徴兵検査」が行われ、１９４３年（昭和１８年）１２月１日、陸軍
へ入営し、１２月９・１０日に海軍へ入営した。私たち「わだつみ会」が、「日本学術会
議法案」廃案の運動に取り組んだ理由は「学徒出陣」と「わだつみ会」の歴史の中にこそ
ある。

（５）衆議院内閣委員会本会議の審議では、坂井担当大臣（国家公安委員長）と笹川内閣
府室長のこの間の詭弁答弁の内容と答弁の仕方は、日本学術会議や科学者、市民の疑問答
えるどころか、衆院・参院内閣委員会・本会議採決ともに、坂井大臣と内閣府室長は、原
稿と官僚たちが後ろから渡す資料を読むだけで、日本学術会議と相談しながら法案準備を
してきた、学術会議光石会長も参加した（オブザーバーでの参加のみ！）有識者懇談会に
沿って法案を準備した、日本学術会議が世界のナショナルアカデミーと同じように、「政
府から独立して、独立性を確保する」ためにこそ今回の法案があるなどと全くの虚偽の答
弁を繰り返すばかりでした。勿論のことながら、６名の任命拒否はもう終わったこととし
て、黒塗り部分の公開も必要ないとの答弁を繰り返すのみだった。
５月９日の衆院内閣委員会で、坂井学・内閣府特命担当相は、解任に関する新設の規定を
巡り、「特定のイデオロギーや党派的な主張を繰り返す会員は解任ができる」と答弁し、
政治的な立場によって干渉できる見解を示した。学者の政治的主張や活動は学者としての
学識に基くものであり政府に都合の悪い言動を「党派的」と認定して排除することは、憲
法が定める「学問の自由」や「言論・表現の自由」の明白な侵害である。学術会議をめぐ
る問題は、学問研究の世界に限らず市民一人ひとりの自由や民主主義に深く関わる問題で
ある。

（６）法案審議では、「日本維新の会」が法案成立を牽引し、同党の三木圭恵議員は衆院
本会議などで、事実をねじ曲げた反共攻撃と、学術会議が果たしてきた役割をおとしめる
中傷を繰り返した。「学術会議はかたくなに国防技術の研究協力を拒み続け、それが科学
技術一般の進歩を妨げてきた」、「今後は防衛技術の研究に貢献してもらいたい」と要求
し学術会議の廃止をも求めた。自民党に代わって科学者に軍事研究を要求し、そのために
学術会議を解体する「法案」の狙いを明瞭にするものであり、三木圭恵議員の発言は自民
党席から喝采を浴びた。軍事研究によってこそ科学技術が発展するという考えは、核兵器
や細菌兵器など非人道兵器の開発に科学者が協力した戦前の歴史や、軍需産業を発展させ
「死の商人」国家化を肯定するものであり、科学技術を軍事動員する先兵の役割を明白に
示した。

（７）「学問の自由」への攻撃は、戦時日本でも行われ、現在、トランプのハーバード大
学などへの攻撃も続いている。「学問の自由」の侵害が、言論や思想の苛烈な弾圧・統制
につながったことを戦時下の歴史は教えている。「滝川事件」は、１９３３年、京都帝国
大学法学部の瀧川幸辰教授がおこなった講演やその著書が自由主義的であるなどとして、
当時の鳩山一郎文部大臣が滝川教授の休職を決定したことから始まった思想弾圧である。
また、１９３５年の「天皇機関説事件」では、憲法学者の美濃部達吉の著書が発禁処分と
され公職も追放された。「滝川事件」後、政府は学問への抑圧を強め、学問を軍事に従属
させる事態が続いた。戦後、大日本帝国憲法（明治憲法）時代に起きた「滝川事件」や「
天皇機関説事件」への反省から、憲法２３条で、大日本帝国憲法にない「学問の自由」が
定められた。憲法２３条「学問の自由」は、滝川事件や天皇機関説事件など、学問の自由
ないしは学説の内容が、国家権力によって侵害された歴史を踏まえて特に規定されたもの
である。
アメリカ・トランプ政権によるハーバード大学等への「学問の自由」への攻撃は、日本に
おける「学問の自由」を蹂躙する「日本学術会議特殊法人化法案」と同様のことでる。ア
メリカ・トランプ政権は、ハーバード大学に対して、ガザジェノサイド抗議の学生の処分
、カリキュラム改訂、入学制度改革、多様性・公平性・包摂性（ＤＥＩ）慣行の撤廃など
の要求を続けている。トランプ政権は、ハーバード大に対する２２億ドル超の補助金を凍
結に続き、さらに４億５０００万ドル（６６５億円）削減すると発表した。トランプ政権
は、エリート校に対する締め付けを一層強め、８つの連邦機関がハーバード大学へ支給す
る補助金削減を発表している。コロンビア大学、プリンストン大学、コーネル大学、ノー
スウェスタン大学などにも批判の矛先を向けており、対象はダイバーシティ施策にまで及
び、トランプ米大統領は6月4日、ハーバード大学への入学を予定している外国人学生への
ビザ発給を禁止すると発表した。

（８）この間の私たちの運動は、「日本学術会議特殊法人化法案」を成立させない、廃案
にする闘いだったが、いま、戦争する国家、戦時国家に向かう日本社会で、学問を軍事利
用させない闘い、学問の自由・大学の自治・ナショナルアカデミーである日本学術会議を
守る闘い、思想信条の自由を守る闘いなどの歴史的闘いとして、後世に残る闘いだった。
坂口担当大臣による会員の思想選別の危険が出てくるなど法案の違憲性があらわになった
。学術会議法案の修正・廃案要求声明は100学協会を超え、学会以外でも各地域の単位弁
護士会・地域弁護士連合会を含む）が過半数に上り、労働組合、市民運動団体も声明を出
し、大手メディアほか地方紙社説や論評でも批判の声は広がってきたが遅きに失した。メ
ディアがほとんど正面から取り上げないこともあり、それでも、市民社会はやっと動き始
めたばかりだったが、燎原の火のように2月のチェンジオルグ署名運動開始以来、署名は
現在7万筆を超えた。６月11日までの4か月余の学術会議問題を巡る闘いは、静かに市民の
中に広がっていった。3月13日、4月11日、5月20日、6
 月3日には多くの研究者・ジャーナリストなどの参加でで院内集会を行い、国会議員にも
働きかけた。「国会前ヒューマンチェーン・座り込み」は、4月14日、15日の学術会議前
、4月18日衆議院本会議での法案政府提案時、5月7日・8日・9日衆議院内閣委員会、5月13
日衆議院本会議採決時、5月28日参議院本会議、5月29日・6月3日・5日・10日の参議院内
閣委員会審議・採決時、6月4日には、任命拒否当事者らによる座り込み、9日には学者文
化人の座り込み、6月11日の参議院本会議と計15回行われた。

（９）いま、「新しい戦時体制」構築のために、教育・学問・メディアなどへの執拗な攻
撃と国家による管理統制が続いている。岸田政権による「安保３文書」閣議決定による「
大軍拡」・「敵基地攻撃」は、沖縄・琉球弧などの軍事基地増強・日米韓などの共同軍事
訓練を進めている。2025年5月30日には、防衛装備庁は兵器などの開発につながる研究に
資金提供する「安全保障技術研究推進制度」の応募状況を公表し、2025年度に大学などの
応募が前年度の44件から約2.8倍の123件に急増し過去最多となり、企業や公的研究機関を
含めた全体でも前年度比で約1.7倍の340件と過去最多を更新した。日本学術会議は2017年
の声明で「安全保障技術研究推進制度」参加に慎重な姿勢を示した。政府は「日本学術会
議特殊法人化法案」の成立により、この制度を通じて、大軍拡、沖縄先島諸島と全国の軍
事基地化に突き進む軍事研究に科学・大学を従事させることをこれまで以上に加速させる
ことになる。「新しい戦時体制」に向かう教育・学問・メディアへの攻撃と国家による管
理統制が進み、戦時体制を強化するために、学校現場では自民
第１次安倍政権以来の「教育改革」は、子どもたちをアジア・太平洋戦争による侵略戦争
と植民地支配の時代、明治憲法下の天皇制の時代へと誘うものである。国家主義的な教育
は、国家や「公」なるものに対する個人の犠牲を強要し、美化し、個人主義を否定するも
のである。日本の戦前・戦中の教育は、国家が教育を全面支配し、学校は「教育勅語」に
基づく教育により忠君愛国の精神で天皇のために命を捧げる「少国民」を育成する場とし
て、子どもたちと人々を侵略戦争に動員する上で決定的な役割を果たした。私たちは、教
育・学問とメディアが戦争を準備すると考え、学問と教育の自由の保障を求める立場から
何度でも訴える。「学問を戦争に動員するな！」「教え子を戦場に送るな！」「教育・学
問とメディアが戦争を準備する！」