どこまでも粘り強く「ほうせん花」の花は咲く
〜「ほうせん花�検ゝ�憶と継承」公演
大場ひろみ（作・演出：なか としお 出演：愛知・県民の手による平和を願う演劇の会 ８・９日暮里サニーホール）
１９４４年、長年の戦争継続で慢性的労働力不足に陥った日本の悪辣な計画により、「朝鮮女子勤労挺身隊」として、名古屋の三菱重工業道徳工場に連れてこられた１３，４歳の少女たち。彼女らが受けた差別と重労働、戦後の韓国におけるさらなる差別、調査し彼女たちを支援する日本の有志、共に起ち上がって闘う裁判闘争の過程まで、映像も採用して丁寧に描いた、愛知・県民の手による演劇である。
まず呆れるのが少女たちが学校で「狩り込まれた」ことだ。日本人教師や憲兵に「日本へ行けば働きながら女学校で勉強できる」と騙され、親や兄弟の反対があればハンコを持って来させて書類を勝手に作成し、承認を得たことにして少女たちを日本へ連行する。幼い少女たちが教育機関で「挺身隊」という名の実質「徴用工」にされた。既にこの時点で国ぐるみの企みであることは明白である。
連行された名古屋の三菱重工での労働は、飛行機の塗装や金属板の型取り、切断などである。いずれも力の弱い少女たちにとっては危険で過酷な重労働を、１日９時間ほども強いられ、学校も行かせてもらえず、満足な食事も与えられず、監視の目の中、日本人の工員には差別され、指を切断してもろくな治療もしてもらえなかった。１９４４年１２月７日の東南海地震では、崩壊した壁の下敷きになり、少女６名が亡くなった。
地震の後、富山の工場に移り、終戦後の秋に着のみ着のまま帰される。「後から荷物と給料は送る」と言ったが、何十年経っても返ってこなかった。帰国後の彼女たちに待っていたのは「挺身隊」をイコール「慰安婦」と捉えられ、「汚れている」と烙印を押されるさらなる差別だった。だから口を閉ざした者が少なくない。戦後も終わらない苦難は全て日本と三菱重工に負わされたものである。
日本で調査と支援が始まり、韓国の当事者、遺族と出会うシーンが印象的である。日本人には心を開かなかった遺族が、追悼したいという申し出に喜んでくれる。名古屋の有志市民の調査や行動の綿密さ、粘り強さは本当に尊敬に値する。昨今レイシストが築かれた関係を簡単に破壊しようとし、それが易々と通っているようにみえるが、事実を調べて積み上げ、隣国の人々と手を結ぶ、長い道のりを考えれば、そのように構築された歴史的事実の壁は堅固で、やわなフェイクに打ち負かされるようなものでは決してない。
１９９９年、謝罪と補償を求めて、5人の原告により国と三菱重工を相手取り裁判が起こされるが、説明の難しい裁判の過程で問われる内容について、弁護士さん役による丁寧な解説が施されながら芝居は進む。毎月第2金曜日に三菱のオエライさんがお食事をする「金曜会」が開かれることから、２００７年から三菱重工本社前で抗議活動を展開する「金曜行動」が２０２０年には５００回を超えた。どこまでも粘り強いのだ。
裁判は全て敗訴。最高裁上告棄却後、２００９年、日本政府は何故か原告に対し、「厚生年金保険脱退手当金」として９９円（！）を支給した。年金の記録があるなら給与の記録もあるだろうから三菱が支払うべき金額の証拠でもあるとも思うが、「９９円」に怒った原告は光州で起ち上がった市民の支援も受け、２０１２年韓国で三菱重工を相手に損賠請求の訴えを起こし、こちらは２０１８年までにすべて勝訴した。この時点で最初の原告5人のうち3人が既に亡くなっているが、その後も三菱は「補償」にも「謝罪」にも一切応じていない。
＊写真＝高麗博物館HPより
観客でホールは満員だった。オープニングは金曜行動で配られるビラが通行人にほとんど受け取られない身につまされるシーンで始まるが、ほんの１枚でも受け取られたビラも積み上がっていく、そして記憶と継承の大事さを訴えて芝居は終わる。劇中で歌われる『ほうせん花』の歌がとても美しく心に響く。名古屋の「訴訟を支援する会」、光州の「日帝強制動員市民の会」は、まだ粘り強く日本と三菱重工に対して「補償」と「謝罪」を求めて運動している。
→朝鮮女子勤労挺身隊に関する情報
https://sensoten.net/about/tenji/2020/2020_2_05
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