「君が代不起立」、一部教員への減給処分を取り消し
〜東京地裁判決、戒告処分の違法性は認めず
竪場勝司
学校の卒業式や入学式で君が代を起立斉唱しなかったことを理由に、懲戒処分を受けた都立学校の教員ら15人が都に対して処分の取り消しを求めた裁判で、東京地裁は7月31日、2人の教員に対する計6件の減給処分を「処分が重く、裁量権を逸脱し、違法」と判断して取り消す判決を言い渡した。一方、15人に対する計20件の戒告処分については、違法性を認めず、請求を棄却した。
起立斉唱を強制した都教委の2003年通達、484人が処分受ける
君が代の起立斉唱をめぐっては、東京都教育委員会(都教委)が2003年10月、すべての都立学校に「教職員は国旗に向かって起立し、国歌を斉唱する」ことを命じる通達を出した。この通達に沿って、命令に違反した教職員に対し、都教委の懲戒処分が実施され、原告側によると、これまでに延べ484人が処分を受けたという。
処分された教員らは処分取り消しを求めて、2007年から複数回にわたって提訴。今回の訴訟は「第5次訴訟」にあたり、21年2月に15人が訴えを起こした。
裁判で原告らは「日の丸・君が代は過去の日本の侵略戦争と深く結びつき、軍国主義教育や民族差別に利用された。このような歴史的経緯を有する旗・歌の強制には従えない」、「強制は生徒の自主性や多様性を大切にする教育観に反する」などと主張。通達や処分は憲法19条が保障する「思想・良心の自由」などに反する、と訴えていた。
争われた処分のうち12人に対する計16件の処分は、当初受けた減給処分を違法とする判決が確定して処分が取り消された後、より軽い戒告で「再処分」されたもので、「再処分」に対する判断が注目された。
起立斉唱の職務命令に「必要性、合理性があり合憲」と判決が判断
判決は、起立斉唱に関する職務命令が憲法19条に違反するかについて、「起立斉唱行為は、式典における慣例上の所作としての性質を有するものであり、特定の歴史観ないし世界観を前提とするものではなく、各職務命令は個人の思想及び良心の自由を直ちに制約するものと認めることはできない」と指摘。自身の歴史観や世界観と異なる行為が求められる点については「思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面がある」としたうえで、教育上の行事にふさわしい式典の秩序を確保し、円滑な進行を図るといった職務命令の目的などには「間接的制約を許容し得る程度の、必要性と合理性が認められる」として、「憲法19条に違反するとはいえない」と結論付けた。この判断は過去の最高裁判決の内容に沿ったものだった。
戒告処分について、判決は「教職員の規律違反の責任を確認して、その将来を戒める処分で、法律上、処分それ自体によって教職員の法的地位に直接の不利益を及ぼすものではない。本件職務命令の違反に対し、戒告処分をすることは、懲戒権者の裁量権の範囲内に属する」として、違法性を認めなかった。注目されていた「再処分」についても同様の理由で適法とした。
一方、減給処分については、「処分の選択が重きに失し、社会観念上著しく妥当を欠き、懲戒権者の裁量の範囲を超え、違法」とする判断を示した。
これまで1次訴訟、2次訴訟の最高裁判決では「戒告を超えてより重い減給以上の処分を選択することについては、本件事案の性質等を踏まえた慎重な考慮が必要となる」と基準を示し、減給処分が「違法」との判断を下していた。
最高裁の判例の枠内にとどまる「つまらない判決」
*記者会見する原告団、弁護団
判決後に東京・霞が関の司法記者クラブで会見した、原告代理人の澤藤統一郎弁護士は「面白くもおかしくもない判決。ワクワクするところがない。これまで最高裁が言ってきた枠を絶対に外さない。『当時と事情が変わっている』といろいろ(裁判で)言ったが、全部無視。いままでの最高裁の判例の枠の中で、かたくなに判例を守ろうという判決だ。つまらない判決の典型と言っていい」と厳しく批判した。
会見で原告団・弁護団の声明が公表された。声明は概ね判決には批判的だったが、6回目以上の不起立に際して減給処分を受けた原告について、判決が「減給処分は都教委の懲戒権の逸脱・濫用にあたり違法」との判断を示した点については、「最高裁に引き続き。都教委による不起立の回数のみを理由とする加重処分を断罪するものだ」として、評価する内容だった。
原告団・弁護団は会見で、判決を不服として、控訴する方針を明らかにした。
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Last modified on 2025-08-01 17:54:14
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