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 第93回・2024年7月5日掲載

フランスの総選挙決選投票前夜:極右/「新人民戦線」/マクロン陣営


*レピュブリック(共和国)広場に集まった若者たち 垂れ幕「ファシズムに対抗する若者」選挙の夜 6月30日

 6月30日のフランス総選挙第1回投票で、国民戦線がトップで29,26%、続いて左派連合「新人民戦線」28,06%、マクロン陣営は20,04%という結果になり(内務省最終発表)、極右が政権につく危険は現実のものとなった。しかし30日夜、テレビなどの投票結果番組では33%という「見込み」の数字が最初からずっと報道され(保守共和党の候補半数強が国民連合と共闘したのでそれを加えたのかもしれないが、数字の根拠は明らかでない)その後もしばらく33,15%という数字を伝えたメディアが多かった。左派連合「新人民戦線」との差が5%に及ぶため、左派の市民は大きく衝撃を受けた。国民連合以外の極右政党の候補者も得票したため、いずれにせよ極右勢力の優位は明らかだ。同様にマクロン陣営の敗退も明確に示され、これは7年間続いたマクロン政権の終焉を表す。しかし、日本の主要メディアの報道で、第1回投票で32人の当選者を出した左派の善戦(国民連合は37人、マクロン陣営は2人)に全く重きが置かれなかったのは理解に苦しむ。国民連合の勝利は7年間のマクロン政治に対する拒絶と制裁を表すが、それは極右陣営にかぎらず、新人民戦線戦に票を投じた左派陣営も同じくノーを突きつけたのだ。解散から3週間後の選挙という超短期間に向けて共闘と共同政策をつくりあげ、新人民戦線が国民連合に1,2%差で迫る得票をした事実(国民連合だけに限れば38万票強の差)をまったく不可視化してしまう。

極右を通すな

 実際、前回2022年6月大統領選後の総選挙時の左派連合NUPESの第1回投票時に比べて、今回は全体の投票率が19,2% も上がったこともあり、新人民戦線は300万票以上票を伸ばした。しかし、欧州議会選挙の大勝利で勢いづいた極右陣営(前回は大統領選でマリーヌ・ルペンが敗退した直後の総選挙だったので、彼らの士気は奪われていた)は、なんと500万票以上伸ばした。もっとも、それでも大統領選の決選投票でルペンが得票した1300万票強という気が遠くなる数字には至らない。しかし、ルペンは2017年の決選投票でも1000万票以上集めたのだから、「極右を通さないために自分に投票してくれ」と呼びかけたマクロン政権が2017年以来、いかに極右に対抗する政治を行わなかったかが示された。マクロンは逆に、極右勢力を助長させる発言を頻繁に行い、ルペンが「私たちのイデオロギーの勝利だ」と評した差別的な移民法まで作ったのだ。


*6月30日 夜20時すぎ 選挙結果発表後スピーチに現れたメランション(右)、左はマニュエル・ボンパール

 さて、極右に国会の過半数を取らせまいと、新人民戦線は直ちに応答した。「極右に一票たりとも入れるな、一人たりとも議員を増やすな」と「服従しないフランスLFI」のメランションが呼びかけ、国民戦線が1位の場合、次点ではなく3位になった新人民戦線の候補は(決選投票を闘う権利はあるが)候補を取り下げると告げた。一方、国民連合と新人民戦線双方を「極端(極右と極左)だからカオスをもたらす」と糾弾し続けてきたマクロン陣営は最初、フィリップ元首相をはじめ、どちらも支持できないから3位の候補を取り下げないと主張した。しかし、「極右を通すな」という世論の要請を受けて、アタル首相なども取り下げを呼びかけ、与党連合でもそれに従う候補が増えた。また、新人民戦線のうち候補者が「服従しないフランスLFI」の場合は取り下げないと言う者もいて、新人民戦線より曖昧さが残る。

 小選挙区2回投票制のフランス総選挙では、第1回投票で有権者(選挙人リストに登録されている人)の12,5%以上得票した候補者は決選投票に進める。今回、前回の2022年より19,2%も投票率が高いため、306の選挙区で三つ巴や4人候補者の可能性があったが、候補の取り下げが増えたので三つ巴選挙区は89に減り、二者の決選投票選挙区数は409となった。新人民戦線は132人の候補者、マクロン陣営は83人を取り下げた。決選投票の結果がどう出るか、第1回投票の結果と選挙区の力関係をもとに予測がなされているが、前代未聞の事態ゆえ、予測は非常に難しい。複数の世論調査会社はそれぞれ異なった予測をしており、国民戦線が過半数を取る危険を見込む調査もあるが、逆に220議席以下(総数577)にとどめる調査もある。どの予測でもマクロン陣営の後退は共通しており(135議席以下、解散前は250)、新人民戦線は解散前の左派NUPES(150議席)を上回るだろう(しかし多くても200議席以下)と予測されている。

市民のアンガージュマン

 前回と前々回のコラムで紹介したように、極右の脅威が現実になるのを恐れた市民とりわけ若い層は、極右に対抗しようと路上に繰り出し、集会やデモを頻繁に行った。第1回投票の晩からレピュブリック広場に集合した若者たちは「Siamo tutti antifascisti(私たちはみんな反ファシストだ)」と叫んだ。7月3日は再びレピュブリック広場で文化人やアーティストがアピールする催し・コンサートが市民団体の呼びかけで行われた。科学者や人道支援団体、スポーツ選手などさまざまな職種・分野で「極右を通すな」という声明が発表され、W杯1998年のフランスチームで活躍したチュラム元サッカー選手やユーチューブの有名なインフルエンサーも、極右の差別主義と憎しみの言説を拒もうと発言した。選挙での勝利以来、図に乗った極右のグループや個人による移民系やLGBTの人などへの攻撃(暴力を含む)が増えたことは前回述べたが、SNS上でもたとえば、極右を通すなという声明を出した弁護士たちの名前が「抹消すべき弁護士リスト」として極右のサイトで発信された。


*パリ郊外でキャンペーンするラシェル・ケケと応援にかけつけたセバスチャン・ドゥロギュ

 極右に対抗する集会・デモや声明と並行して、主要メディアではまったく取り上げられないが、興味深い現象が起きている。国民戦線の欧州議会選挙勝利のあと直ちに、これまで政治活動に関わったことがない人々(多くは若者だがそれ以外もいる)が大勢、LFIの活動グループにコンタクトしてきた。極右の政権掌握の危険に大きなショックを受け、それを拒むために、選挙キャンペーンを手伝いたいという。また、パリ市内では第1回投票で当選した議員が多かったので、それらの選挙区の活動家と新たな活動家たちは、新人民戦線が苦戦あるいは勝利が定かでない郊外や地方の選挙区へ、毎日支援に行くことになった。学校や朝市、町でのビラ配り、社会住宅などの戸別訪問で、より多くの住民に政策を説明し、新人民戦線への投票を呼びかけようという趣旨だ。

 たとえば、2022年にパリ南郊外で当選したラシェル・ケケは、今回も1位になったが差は大きくない。ホテルの客室係の女性たちによる2年近く続いたストを闘い、勝ち抜いたコートディボワール出身の彼女は、移民系低所得労働者(多くは女性で性差別・セクハラを受ける)の実態を国会で告発した。「あなたがた議員の中に、月800ユーロ(今のレートで約13、6万円)で暮らしたことがある人はいますか?1日ではなくて1ヶ月800ユーロですよ」「ホテルの客室清掃の仕事を64歳まで続けるなんて無理です(退職年齢を延長したマクロン年金改革の際)」。彼女のように弱者の立場を生きてきた、真に市民を代表する議員を大勢国会に送るべきなのだ。

 パリから東/東北のセーヌ・エ・マルヌ県の服従しないフランス前議員エルシリア・スデの選挙キャンペーンに行った者たちは、パリ郊外でも交通の便が悪く(列車が1時間に1本、そこからさらに車が必要)、病院や高校など公共サービスの劣化が著しい場所の困難を知らされた。その町は空港に近いので騒音公害がひどいだけでなく、パリ地域圏の廃棄物を押し付けられている。この選挙区では前回の対抗勢力はマクロン党だったが、今回は国民連合波のせいで、地元に住まず誰も見たことがなかったRNの候補者が1位をとってしまった。政治経験が全くないマクロンが突然大統領に当選した直後の選挙で、誰も知らないマクロン党の候補者が続々と当選した時に似ている。「マクロンは大嫌い、左翼も信用できない、まだ試したことない国民連合に入れちまえ」という反応だろうか。いずれにせよ、これまで10年、20年と続いた政治(つまりネオリベラル政策、頻繁な政治家の汚職、やり放題)が公共サービスをはじめ福祉を劣化させ、人々の暮らしが悪化したために、政治への幻滅感や諦めが強まったのは明らかだ。しかし、実際には庶民の暮らしを向上させる政策などなく、差別思想だけが特徴の国民連合(前回のコラム参照)に、なぜこれほど多くのフランス人が票を投じるのかについては、決戦投票後に改めて分析することにする。


*集まった市民、子どもたちと

 しかし、一つ新たな要素として今年の欧州議会選挙と第1回投票の分析が示す事実は、国民連合支持が主に「労働者階層」(庶民)に多いというイメージはもはやあてはまらないということだ。月収手取り3000ユーロ(約51万円)以上の層でも最も多く(3割)が今年の2度の選挙でRNに投票し、マクロン支持が圧倒的に多かった年金生活者層でも第一党になり、高齢層でも票を伸ばした。

 一方で、極右の危機に面して政治に目覚めた人々がいることも、前述した新たな活動家たちの出現に表されている。これまで目立って棄権が多かった「庶民地区」と呼ばれる低所得者や移民系が多い郊外などでは、政治に目覚めた新たな世代が生まれつつあり、民衆教育が進行中なのだ。

 住民を分裂させる極右の差別思想や、競争と利己主義で人間と環境を壊すネオリベラル思想とは逆に、気候危機と現在の様々な社会の困難に対しては、連帯や相互扶助を軸にした人間的な社会をめざすビジョンがなくては立ち向かっていけない。その具体的な政策(賃金引き上げ、富の分配、温暖化対策、公共サービス強化など)を掲げるのが新人民戦線であり、その政策内容と理念を正確にメディアが伝えないのは本当に悔しい。この3週間、極右の負のビジョンに対抗するこのビジョンを各地で人々に語り続ける市民たちの声が少しでも多く伝わることを、祈らずにはいられない。

 今回の選挙は投票率が伸びたとはいえ66,7%で、1600万人もの人が棄権した。彼らの多くが「真に人々の暮らしをよくする政治は可能だ」という新人民戦線の呼びかけ(直ちに賃金アップ、必需品の価格凍結など)に応えて票を入れれば、新人民戦線が過半数を取ることも不可能ではないのだ。希望を与える政策づくりと人間的な社会のビジョン、これを推し進める政治こそが必要とされている。

★コラム第91回 欧州議会選挙での極右の勝利とフランスの「新人民戦線」
http://www.labornetjp.org/news/2024/0612pari
★コラム第92回 フランスの総選挙前夜:極右による権力掌握の危機に対抗する「新人民戦線」の希望
http://www.labornetjp.org/news/2024/0628pari

2024年7月5日 飛幡祐規(たかはたゆうき)


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