本文の先頭へ
LNJ Logo フランス発・グローバルニュース : パレスチナ紛争で加速する米外交政策の蟻地獄
Home 検索
 




User Guest
ログイン
情報提供
News Item 1020tutida
Status: published
View


2023年9月からの新連載「フランス発・グローバルニュース」では、パリの月刊国際評論紙「ル・モンド・ディプロマティーク」の記事をもとに、ジャーナリストの土田修さんが執筆します。毎月20日掲載予定です。同誌はヨーロッパ・アフリカ問題など日本で触れることが少ない重要な情報を発信しています。お楽しみに。今回はパレスチナをめぐる問題です。(レイバーネット編集部)

●フランス発・グローバルニュースNO.2(2023.10.20)

パレスチナ紛争で加速する米外交政策の蟻地獄

 パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム抵抗組織ハマースが10月7日、イスラエルに対して数千発のロケット弾を発射するとともに、戦闘員がガザ地区を取り囲む壁を乗り越えて越境攻撃し、イスラエル兵や市民1400人以上を殺害、約200人を人質にした。これに対し、イスラエル側はハマースに対し宣戦布告し、一晩で1000回を超える空爆を実施してパレスチナ人数百人を殺害した。その後も攻撃の応酬は続いておりガザ地区の死者は19日現在3478人に達している。イスラエルのガラント国防相はガザ地区を完全に包囲し、電気や食料、燃料の供給を遮断し、「われわれは人間の顔をした野獣と戦っている」と宣言。ネタニヤフ首相は野党を合流させた「戦時内閣」を結成し、過去最大の30数万人の予備役兵を動員、ガザ周辺に戦車や軍用車両、兵員を集結させ、地上侵攻の準備を完了している。

 こうした状況に対し、欧米諸国はイスラエル支援で一致しているが、それ以外の国からはイスラエルの対応を非難する声が上がっている。「ホロコーストを再現するつもりか。ガザが強制収容所と化すのを容認する民主主義者は、世界に一人もいない」(コロンビアのペトロ大統領)、「イスラエルによるパレスチナ人の権利や富の剥奪と残虐行為を非難することなしには和平は達成できない」(パキスタンのアルヴィ大統領)、「パレスチナ人に対する絶え間ない嫌がらせ、彼らの生命と財産と安全の無視、彼らの家と土地の押収を含むイスラエルの政策は、紛争と不安を引き起こすだけであり、最終的にはパレスチナ人とイスラエル人双方の安全を脅かすものだ」(トルコのエルドアン大統領)などだ(10月11日長周新聞)。

■足元から揺らぐアメリカの外交政策

 10月17日夜、ガザ北部の「アル・アハリ・アラブ病院」で大きな「爆発」があり、471人が死亡した。ハマースはイスラエル軍の空爆によるものと発表。イスラエル軍はガザの武装組織イスラム聖戦のロケット弾の誤射だと主張し、関与を否定している。中東専門家の宮田律・現代イスラム研究センター理事長は「あれほどの破壊力を持った爆弾やロケット弾をハマースやイスラム聖戦は有していない。恐らくイスラエルの空爆だろう」と指摘する(10月18日スプートニク日本)。紛争地域の武装解除に詳しい伊勢崎賢治氏(東京外語大大学院教授)は「(病院「爆発」は)ガザというあんなに狭い場所に大量の爆弾を落とすという異常な事態の中で起きた。知り合いの米軍退役将校が『考えられないことだ』と驚いていたが、イスラエルがどれだけ言い訳しようとも、最初から多くの民間人を巻き添えにする『戦争犯罪』が起きることを前提としていたとしか言いようがない」と話す。

 第3次中東戦争で勝利したイスラエルは1967年からヨルダン川西岸地区、ガザ地区、東エルサレムを占領してきた。ヨルダン川西岸地区には70万人を超すイスラエル人を入植させ、銃とブルドーザーで土地を没収し、家を破壊してきた。ガザ地区を分離壁で囲んで監視所と検問所を設置し、無差別銃撃や逮捕・拷問を繰り返してきた。中東専門家のアラン・グレシュ記者は「現代で最も長期にわたるパレスチナ紛争では、争点は単なる領土問題の域を超えている。…不断に繰り返される不正義の問題なのだ」(2017年6月号ル・モンド・ディプロマティーク紙、嶋谷園加、生野雄一翻訳)と述べている。

 国際刑事裁判所は、長年にわたってパレスチナ人民を抑圧し自決権を奪ってきたイスラエルの植民地政策を「戦争犯罪」と断じている。国際人権団体はイスラエルを「アパルトヘイト国家」と呼んでいる。イスラエルが進めてきたガザ地区の封鎖と分離政策は、19世紀にシオニズム運動を起こしたテオドール・ヘルツルが提唱した「植民地計画」にまでさかのぼる。グレシュ記者は「パレスチナ、植民地主義からアパルトヘイトまで」(2022年9月号ル・モンド・ディプロマティーク紙、未邦訳)という記事で、「シオニズム運動の植民地的性格は、最初から入植者と先住民との分離政策、すなわちアパルトヘイトを意味していた。北米、オーストラリア、アフリカ南部、アルジェリアと同様、入植者の植民地主義は常に先住民を不法占拠者とみなし、神や文明の名のもとに追放し、虐殺する可能性があった」と指摘する。

 イスラエルは、世界ランキング9位の空軍を含め世界有数の軍事力を保有している。一方のハマースはカラシニコフなど小火器と手作りのロケット弾ぐらいしか持っていない。そのハマースに対し、2006年から昨年まで10数回も「戦争」を仕掛け、多数のパレスチナ人を巻き添えにして殺害してきた。「戦争」を口実にしたジェノサイド(民族浄化)とも言える。現在、イスラエルが準備している「地上侵攻」もそうだが、イスラエルがいうところの「戦争」とは、戦闘機や爆撃機、戦車など強力な兵器と武器で行う虐殺行為を正当化するレトリックでしかない。

 イスラエルが、仮に今回の病院「爆発」への関与を否定したとしても、親パレスチナのアラブ諸国がそう簡単に信用するとは思えない。エジプト外務省は17日の声明で「イスラエルが故意に民間施設を標的にしたと考えている」と非難しているし、サウジアラビア、ヨルダン、トルコ、アラブ首長国連盟(UAE)、バーレーンも相次いでイスラエルを強く非難する声明を出している。アラブ諸国の怒りはイスラエルを支持するアメリカにも向かい、イスラエルの次にバイデン氏が訪問する予定だったヨルダンのアンマンで大規模な抗議行動が起きている(公共放送FranceInfo)。

 このためバイデン氏はヨルダン訪問を急きょ取りやめ、ヨルダンのアブドラ国王、エジプトのシーシ大統領、パレスチナ自治政府のアッバス議長との4者会談は中止になった。元々、ネタニヤフ氏と不仲といわれるバイデン氏は来年の大統領選挙に向けて国内の親イスラエル派の機嫌を取るため、「戦時下のイスラエルを訪問した初めてのアメリカ大統領」の栄誉を手にしたが、病院「爆発」で多数の民間人が犠牲になった結果、アメリカの中東政策は足元から大きく揺らいでいる。米国内でも反イスラエル抗議運動が盛り上がり、18日にはパレスチナに同情的で「停戦」を訴えるユダヤ系市民が連邦議会に乱入し、300人以上が逮捕される騒ぎとなった。

 こうした中、18日テルアビブで行った単独演説で、バイデン氏はそれまでのイスラエルに対する全面支援の姿勢を大きくトーンダウンさせ、「戦時中の決断は容易ではない」「それで目標を達成できるのか、素直に評価しなくてはならない」(10月20日毎日新聞)とイスラエルに自制を求める言葉を並べた。ところが、同じ18日にアメリカは国連安保理で、ブラジルが提案した「戦闘の中断を求める決議案」に拒否権を行使した。「イスラエルの自衛権について言及がない」というのがその理由だが、イスラエルに冷静さを求める一方、「停戦」には反対するという外交姿勢の矛盾が露わになった。ウクライナとパレスチナを前に米外交政策は出口のない「蟻地獄」に陥っている。

■「停戦」求める声とウクライナ支援「疲れ」

 バイデン大統領は10月10日、ハマースやレバノンのイスラム民兵組織ヒズボラを支持・支援しているイランを牽制するため、最新鋭の原子力空母ジェラルド・フォードを中心とする空母打撃群をイスラエル沖合の東地中海に配置した。17日には米海兵隊第26海兵遠征部隊を東地中海に移動し、空母打撃群と合流させることを明らかにした。「イスラエル、アンクル・サム(アメリカ合衆国)の幻想なき回帰」(10月17日ル・モンド・ディプロマティーク電子版、未邦訳)という記事を書いたフィリップ・ルメール記者は「(空母打撃群などの配置は)軍事援助、人質の解放、国民や難民を避難させるための作戦に貢献する可能性があるが、復讐に燃えるイスラエルに『ある程度の抑制』を求める目的もある」と分析する。

 「抑制」とは民間人の巻き添えを「できるだけ」減らすことだ。その一方でルメール記者は「ロシアのウクライナ侵攻以来、一番の「敵国」に昇格したロシアに対するアメリカの軍事的関心は、(トルコとロシアが支配しNATOと対峙する)東地中海での戦略的利益を高めることにある」と分析する。軍事力をイスラエル沖合に集めることで、アメリカはNATOの守備範囲である地中海でのリーダーシップを掌握しようとしている。20日、バイデン氏は唐突に「ハマースとプーチンは民主主義の敵だ」という声明を発表したが、アメリカは軍事力を誇示することで、「民主主義VS先制主義及びテロリズム」という単純な図式をもとに「世界の分断」をさらに加速させようとしているかのようだ。

 ガザ地区の病院「爆発」によってパレスチナを支持するアラブ諸国では市民の怒りが頂点に達している。「これ以上のジェノサイドを許さない」として、「停戦」を求める声は欧米にも広がり、世界各地で反イスラエルの抗議運動が起きている。イスラエル軍がガザ地区への地上侵攻を開始し、さらに多数の民間人が巻き添えになる事態に発展した場合、欧米各国は中東情勢と国内情勢にエネルギーの多くを使うことになる。その場合、さらなる援助を求めるゼレンスキー大統領の願いはかえりみられなくなるかもしれない。パレスチナ紛争が続く限り、ウクライナの憂鬱は晴れそうにない。

 共和党が多数を占める米下院は数十億ドルのウクライナ支援策を盛り込んだ議案を拒否した。ウクライナの穀物輸入禁止措置をEUの指令に反して延長したポーランドとスロバキアはウクライナへの武器供与を停止すると発表した。エネルギー高騰とインフレ加速で苦しむEU諸国ではウクライナ支援「疲れ」が目立ってきている。中東情勢の悪化によって、ウクライナ戦争の「停戦」を求める声が、グローバルサウス諸国だけでなく、世界中に広がる可能性もある。もちろん、ロシアの弱体化と戦争継続を望むネオコン集団に支えられたバイデン政権の意向に反してのことだが…。

*「ル・モンド・ディプロマティーク」は1954年にパリで創刊された月刊国際評論紙。欧米だけでなく、アフリカ、アラビア、中南米など世界各地の問題に関して地政学的・歴史的分析に基づく論説記事やルポルタージュを掲載。現在、23言語に翻訳され、34カ国で国際版が出版されている。日本語版(jp.mondediplo.com)は月500円から購読可能。

*著者・土田修
ル・モンド・ディプロマティーク日本語版の会理事兼編集員
ジャーナリスト(元東京新聞記者)


Created by staff01. Last modified on 2023-10-20 19:37:48 Copyright: Default

このページの先頭に戻る

レイバーネット日本 / このサイトに関する連絡は <staff@labornetjp.org> 宛にお願いします。 サイトの記事利用について