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〈映画紹介〉ドキュメンタリー映画『“敵”の子どもたち』

娘を助けられなかったのだからその子どもは助ける

笠原眞弓

イラク戦争は2003年にアメリカはじめ、イギリスなどの国々が、イラクが大量破壊兵器を持っているという誤った情報をもとに始まり、65万人のイラク市民の命が奪われたのちに、その情報は間違っていたと終わった。といってもアメリカは居残り、いまだに宗教がらみの内戦が続いている。

大きな戦争の流れの中には、心を破壊するような行為を引き出し、日常化していく。そんな中でも、小さな日常があり、心温まることがあるはずだ。それがこの映画『”敵”の子どもたち』である。嘘偽りのない、ドキュメンタリーである。事が起きたのは、2019年のことである。

実のところ、映画の中に次々現れる単語ISIS、イスラム教過激派などを深く理解できず、ただオロオロしているのである。でも、それを全部理解していなくても、ピースをつないでいけば、「愛」の力がわかって来る。この映画は、究極の事態の中での、ひたすらの「家族愛」なのだ。実際にあった話だ。チリ系スウェーデン人の音楽家パトリシオ・ガルヴェスの娘夫妻が父親の説得も虚しくISISの闘士となり、殺害された。娘を説得できず激しく悔いるパトリシオは、シリアの難民キャンプに残された8歳を頭に1歳までの7人の孫を取り戻すため、シリアとの国境近くのイラクの街へ向う。

その荷物には玩具や小さな衣服や靴と、祖父の愛情で溢れているし、ホテルの部屋には子どもたちのためのベッドが複数並んでいて、救出の成功は当然のこととするパトリシオの気持ちが、痛いほど伝わってくる。

彼は積極的に動き、マスコミの取材を受け、国境が開けば、難民キャンプに孫等に会いに行き、大きな手で幼い子等を抱きしめる。その手は「連れ出せる」と確信させ、出国許可を待つためにいったんキャンプを離れるのだが、そこからが事態は遅々として進まない。

随時画面に現れる〇日目という数字が、彼の苛立ちと共に困難を象徴する。公的機関は及び腰だし、SNSでは、敵の子どもを連れて来るなと激しい非難が渦巻いている。とはいえ、彼には微塵も不成功の影はなく、「祖父」なんだから「連れて帰る」は確信になっている。

さすがに40日を過ぎるころから焦りだし、実力行使をしようとキャンプに向かう彼。その時、携帯が鳴り、子等がキャンプを出たという知らせが。慌てて引き返す彼の弾む心が、その言葉のひとつひとつにコーティングされて転がり出てくる。

無事帰ってきた彼ら。たった一人の祖父が7人の幼い子どもの世話ができるのか? 不穏分子に狙われないのか? 気になるところだが、受け入れたスウェーデン政府のあっぱれな対応に脱帽したのだった。

監督:ゴルキ・グラセル・ミューラー 2021年製作/97分/スウェーデン・デンマーク・カタール合作 シアター・イメージフォーラム他上映中
(消費者レポートより加筆訂正)


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