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因果関係がないとは言わせない〜第7回「311子ども甲状腺がん裁判」を傍聴して

堀切さとみ

 9月13日、第7回「311子ども甲状腺がん裁判」が東京地裁であった。7人の若き原告を支えようと、いつものように東京地裁前には多くの人たちが集まった。

 たとえ発症していなくても、いつ被ばくの影響が出るかわからない。その不安を口にするだけで「復興の妨げになる」と言われるのが、フクシマの実情だ。

 そんな中、福島市から避難した大学生、阿部ゆりかさん(下写真)は「この裁判は私のことだと思っている」と元気に発言した。

 郡山市から二人の子どもと母子避難している森松明希子さん(下写真)も、大阪から駆けつけた。「『子どもを守れ』とか奇麗な言葉が飛び交っているが、この12年間子どもたちは一度も守られてこなかった。300人を超える子どもたちが甲状腺がんで苦しんでいるということが、大阪ではまだまだ知られていない。マスコミは両論併記が好きなのに、健康問題に関しては『因果関係はありません』という偏ったことしか言わないからだ」「勇気をもって声をあげた原告たちを『応援する』というのではなく、共に歩みたい」とスピーチし、参加者の思いをひとつにした。

動画(森松明希子さんスピーチ・5分)

 この日の期日では、甲状腺がんと原発事故との因果関係を立証する弁論が行われた。弁護団の中で一番若い31歳の鈴木裕也弁護士が、パワポを使って力強く展開した。
 原発事故後に行われた甲状腺検査は、福島県内の18歳以下の子ども38万人を対象に行われ、(現在5巡目まで完了)二巡目までで187人が「悪性疑い」と診断された。事故前には100万人中二件だったことと比べれば「数十倍上昇した」というのは一目瞭然だ。一般的にはがんの原因を特定することは難しいといわれるが、七人の原告の原因確率は99.3%〜94.9%と、他の公害事例に比して圧倒的に高い。放射性ヨウ素による暴露が、甲状腺がんの危険因子だということは、すでにチェルノブイリで国際的常識となっているのだ。

 甲状腺がんが事故後に多発したことを、被告側は認めない。反論の主たるものは「スクリーニング効果説」であり、事故前にスクリーニング検査をしていれば、事故後と同じくらい潜在がんは多発していたというものだ。もし東電が主張するとおりであるなら、事故後に生まれた子どもにも、同じようにスクリーニング検査をするべきだろう。ちなみにチェルノブイリでもスクリーニング効果説が指摘されたため、事故後に生まれた(直接放射性ヨウ素に暴露していない)子どもの調査もしたところ、甲状腺がんはゼロだったのだ。
 もうひとつ、被告側は「100m㏜以下の被ばくでは、健康影響は観察されない」と主張しているが、100m㏜以下で健康に影響が出たという研究発表はいくつも存在している。
 東電はこれ以上、どう反論するつもりだろうか。

 日比谷コンベンションホールで行われた報告集会は、高校生や大学生の姿もあり、あらゆる世代の人たちで埋め尽くされた。福島原発の裁判は多いが、これほど原告が若い裁判は他にない。原告たちはあの日、自分の生き方を決めることが出来ない6歳から16歳の子どもだったのだから。大人たちの責任ということを、皆が考えた集会となった。
 副弁護団長も海渡雄二さんと河合弘之さんから、若い斎藤悠貴さんと杉浦ひとみさんにバトンタッチ。若い原告の気持ちを汲み取るために、そして7人の原告のうち5名が女性であることから、そうしたのだという。

 これまでの期日で、七人の原告すべてが意見陳述を行なった。それは、裁判官の心さえも揺さぶるものだったが、突然今回から裁判長が変わった。弁護団は「原告がどういう思いで裁判に臨んでいるのか、新しい裁判長にも聞いてほしい」と要求したが、「遮蔽を準備する人員を確保できない」という理由で断ってきたという。あらゆる差別や暴言から身を守るため、名前を公表せず衝立越しに証言するしかなかった原告たちは、裁判所の言い分を聞いて「遮蔽なしで証言する」と決意したそうだ。
 意見陳述は次回の期日に見送られたが、原告たちが言葉を紡ぎ出すために、どれほどの痛みと向き合って来たか。それを再度繰り返さなければならないことに、申し訳なさを感じつつも、それを聞かなければ原発事故の被害を理解することができない。そんな大人げない司法であり、社会であることを再認識した。

 再稼働を止めようとしない。老朽化原発も動かす。その政策を変えられないなら、せめて放射能による被ばくから身を守る権利を確立しよう。それは罪なのではなく、必ずやらなければならないことなのだ。
 次回期日は、12月6日14時から、東京地裁301号法廷にて。


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