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LNJ Logo 太田昌国のコラム : 熱波・大洪水・山火事が北半球で続くなか、アマゾンからは……
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 ●第81回 2023年8月10日(毎月10日)

熱波・大洪水・山火事が北半球で続くなか、アマゾンからは……

 欧米諸地域と日本、すなわち北半球の「先進諸国」が夏を迎える7月・8月に、各地から、熱波・大洪水・山火事……などのニュースが溢れ出るのは、恒例のこととなった。今年は、例年に比しても、その程度が酷いので、大げさではなく「この世の終わり」を予感させるような映像が次々と押し寄せてくる。被災された人びとにとっては、すでにしてカタストロフィー(大災厄)であるが、いずれヨリ大規模なそれに襲われるかも知れないことを、地球上のどこに住んでいようと覚悟せざるを得ない、と思えてくる。

 加えて、7月末にはこんなニュースもあった。シベリアの永久凍土から掘り出された細長い生き物「線虫」を凍った状態から溶かして観察したところ、再び動き出したというのだ。研究チームはロシア、ドイツなどの研究者によって構成されているが、この生物はおよそ4万6000年ものあいだ休眠状態にあったと結論づけている。すでに繁殖を繰り返し、今では数千匹に増えているという。蠢く線虫の様子はテレビ・ニュースでも報道されたので、そのくねくねとした動きを見た。専門家は、研究の深化次第ではヒトの細胞の長期保存のヒントになり得るというが、素人見ではこうだ――宿主がコウモリとされる新型コロナウイルスの世界的な流行を経験しつつある私たちの思いは、ツンドラがさらに融けて、万余の年数を眠っていた生き物が何らかの形で「露出」し「復活」した場合に、未知だった新型ウイルスがそこからどう登場して、人間社会をいかに席捲するものであるかわかったものではない、というところへ。

 こうして、気候変動・環境異変が容易ならざる段階に来ていることが、改めてひしひしと実感される夏だ。

 これと同時に、次のニュースに注目した。それは、アマゾン熱帯雨林を共有する南米8カ国がブラジル北部ベレンで首脳会議を開き、森林破壊に対処する連携の枠組みを創設するなどの包括的な保護対策を盛り込んだ「ベレン宣言」を8月8日に採択したというものである(写真)。参加国は、ブラジル、スリナム、ガイアナ、ベネズエラ、コロンビア、エクアドル、ペルー、ボリビアの8カ国である。新たな石油探査を禁止するかどうかをめぐっては合意に至らなかったなどの問題点は残った。だが、ブラジル大統領が、経済的な利益を優先させてアマゾン森林の徹底的な破壊を押し進めたボルソナロに代わって、「森は我々をひとつにする」と考えるルーラが再登場してこそ、この会議は実現した。翌日には、インドネシア、コンゴ民主共和国、コンゴ共和国などの、熱帯雨林を有する他地域の諸国も加わる拡大会議が開かれたことにも注目しておきたい。

 もともと、個別国家の利害は異なり、時の各国政権の路線の違いも顕著にあらわれる国家間会議で、全面的に理想的な結果が生まれることは期待できない。未来への見通しを持たないままに、国家利害を賭けて衝突しがちな現役政治家の会議において、辛うじて〈類的な〉目標達成に向けての国際的な共同規範が〈徐々に〉ではあっても作られるに当たっては、人権NGOや環境NGOによる、長年にわたる地道な働きかけが不可欠だ。ベレン会議がその入り口となることを期待したい。

 これに因んで、もうひとつ思い起こしておきたいことがある。アマゾン熱帯森林の破壊に関しては、米国のトランプと同じように「奇矯」とすら言えるブラジル前大統領ボルソナロの言動が目立ち、人びとの耳目はそれに吸い寄せられるがちだった。だが、ボルソナロ政権が成立していた2019年から2022年にかけての遥か以前、半世紀以上も前の1964年クーデタによって成立した軍事政権の開発至上主義政策と、それを礎として、ブラジル支配層が「奇跡の経済発展」を謳歌した1970年代にこそ、アマゾン森林破壊と、先住民族インディオに対する虐待・殺戮・追い出しの「事業」は始まっていた。その背景には、キューバ革命から5年目の1964年に、「第2のキューバ」の登場を防ぐためにブラジル民族主義左派政権の打倒を画策して軍事クーデタを演出した米国と、その後ブラジルに殺到した米国系多国籍企業(鉱業、アグリビジネスなど)の動きがあることを見ておく必要がある。

 ところで、作家・船戸与一には、ラテンアメリカを背景にした興味深い作品がいくつかある。そのひとつ、『山猫の夏』(講談社、1984年)は、左翼の都市ゲリラ活動が盛んだった1960〜70年代ブラジルを物語前半の舞台とする、読み応えのあるエンターテインメント作品だ。都市ゲリラは敗北し、その活動の中軸にいた日系人の行方は、長いこと、杳として知れない。「山猫」と呼ばれたその男は、いつしか、ブラジル東北部、アマゾン河流域地域にいた。それは、開発で追われゆく/同時に抵抗する先住民族のたたかいに加担するためだった……。

 今ある現実の次には、どんな時代が来るのか――それを予見し得る作家の作品は、いつだって、面白い。


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