〔週刊 本の発見〕『核のない未来を願って 松井英介遺稿・追悼集』 | |
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気骨ある反核医師の生き様から核廃絶の重要性を学ぶ『核のない未来を願って 松井英介遺稿・追悼集』(松井英介遺稿・追悼集編集委員会・編、緑風出版、3,400円+税、2021年11月)評者:黒鉄好
「株式会社はは」は、福島で、子どもの歯の生え替わりで抜けた乳歯を保存、残留する放射性ストロンチウムのデータを記録し被曝の実態を解明するための民間プロジェクト組織である。放射性ストロンチウムはカルシウムに似た性質を持ち、歯や骨に蓄積しやすいことからこのプロジェクトが発足した。「はは」は2018年に開設したばかりで、まさにこれからという時期に英介さんは旅立った。 評者と英介さんとの関わりは米軍によるイラク戦争に遡る。米軍が使用した劣化ウラニウム兵器の危険性を民衆法廷で証言いただいた。天然ウラン鉱石から原爆や原発の燃料となるウラン235を抽出後、残ったウラン238は核分裂を起こさないため燃料にはならないが、放射性物質であるため利用もできず各国は処分に困っていた。だが地上で最も重い物質である点に米軍が着目し砲弾に転用。砲弾が燃える際に飛散したウラン238を吸って多くのイラク市民が被曝した事実は、英介さんとの出会いなくしては知り得なかった。当時は距離感もイメージできないほど遠い国の出来事と思っていた放射能被曝に、その後よもや自分が遭うことになるとは夢にも思っていなかった。*写真=骨髄異形成症候群で亡くなった松井医師
本書には、英介さんとともに直面したその厳しい運命と、それでも格闘しながら生きることを選択した137人もの寄稿者の思いが綴られている。そこには、原子力ムラの地位と利権に溺れた者たちが世迷い言のように繰り返す根拠なき楽観など微塵もない。緊急事態宣言下で強行された東京五輪は、多くの市民に日本の衰退と精神的荒廃を自覚させる契機となったが、本書の137人の寄稿者たちは10年も前から気づいていたのだ。 原子力ムラ関係者を福島、そして世界から追放しようとする137人の闘いとそれにかける思いに本書を通じて接してほしい。その闘いはまだ緒に就いたばかりであり、10年経った今もなお、終わりが見える気配はない。 *「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・志水博子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美・根岸恵子、黒鉄好、加藤直樹、ほかです。 Created by staff01. Last modified on 2022-01-06 10:48:34 Copyright: Default |