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LNJ Logo 太田昌国のコラム : 「世界の先住民族の国際デー」に考えたこと
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 ●第70回 2022年8月10日(毎月10日)

 「世界の先住民族の国際デー」に考えたこと

 去る8月9日は「世界の先住民族の国際デー」だった。国連(原語を正確に訳すと、第二次世界大戦において勝利した側を意味する「連合国」となることは、何度でも思い起こしておきたい)が、先住民族の権利の推進と保護を支持するという姿勢を示すために1994年12月23日に定めた。8月9日という日付は、1982年に国連人権保護・推進分科会の国連先住民族作業部会が初めて開催された日に因んでいる。社会的「弱者」の権利を確立するための、非政府組織を主軸とした国際的な努力は、こうして、40年から半世紀の積み重ねを経て現在に至っていることも知っておきたい。労働者、女性、老人、子ども、障がい者などの権利を確立するための、また死刑廃止を実現するための国際条約が、国連の場でこの半世紀ほどに及ぶ現代史の中で次々と締結されてきたのは、それらの課題が「人権の確立と尊重」という共通項をもっているからだろう。国民国家の利害の枠内でしか物事を考えない、したがって時に戦争の発動にまで行き着く愚かな各国政府(為政者)の在り方を批判しつつ、民衆レベルでは、国境を超える〈人類〉共通の規範が生まれているのだと言える。

 先住民族の一件に戻るが、ユネスコの直近の発表によると、90ヵ国に4億7600万人の先住民族が住む。世界総人口の5%を占めるが、それは同時に、最貧困層の15%に相当する。彼らが居住あるいは利用する地球の陸地面積は22%に上り、世界の文化多様性の多くの部分を形成し、7000近い言語の大半を生み出し、話している。一方、多くの先住民族は、極度の貧困、疎外、その他の人権侵害に、今なお直面し続けている。

 つい最近も、忘れがたいニュースを見聞きした。フランシスコ・ローマ教皇がカナダを訪問し、カトリック教会が長年関与してきた先住民同化政策における虐待行為に関して、被害者と遺族に謝罪したというものである(7月25日前後の各紙ならびにBS ニュース)。話は1870年代から1990年代にまで及ぶ。白人社会への同化を目的に、先住民の子ども15万人を家族から引き離し寄宿学校に強制的に入れたが、そこでは先住民言語での会話が禁止され、暴力と虐待が横行していた。カナダ政府は2008年になってこの同化政策について先住民族に謝罪したが、第三者機関「真実と和解委員会」による調査の過程で、学校の多くはカトリック教会によって運営されていた事実が明かされ、カトリック教会の責任も問われることになった。これが社会問題化する過程は示唆的だ。政府が設けた独自の調査委員会も2015年には、その政策が「文化的ジェノサイド(民族根絶)」だったと結論づけた。2017年には、カナダの作家・モンゴメリの『赤毛のアン』を題材に取ったテレビドラマ『アンという名の少女』が放映され、アンの友人である先住民が被った過酷な体験が描きこまれ、多くの反響を呼んだという(日本でも放映されたというが、私は未見。観た友人たちは深い感銘を受けている)。そして昨年、2021年5月下旬、ブリティッシュ・コロンビア州にある寄宿学校の跡地から、子ども215人の遺骨が発見され、カナダ社会全体を揺るがす大問題となったのだった。直後の7月1日に予定されていた恒例のカナダデー(建国記念日)の祝賀行事は中止となった。

 今回のローマ教皇の「悔悟の巡礼」(教皇自身の言葉)の背景には、過去の史実を新たな視点で読み解く、このような具体的な動きがある。しかも、この動きはカナダに留まることはない。昨年5月カナダの寄宿学校跡地での子どもの遺骨発見のニュースを知った、バイデン政権下で先住民初の閣僚となったハーランド内務長官は直ちに、米国内での実態調査を指示した。2022年5月に発表された調査報告書によれば、1819年〜1969年の間に政府が運営に関わった寄宿学校は408校だったが、そこで500人以上の子どもが死んでいた。米国だから、学校の運営にはカトリックばかりかプロテスタントの宗教団体も関わっている。ハーランド内務長官は今年7月から米国各地の寄宿学校訪問を開始しているが、それは被害者の声を聞き取るためのツアーだとしている。1940年代の経験者からは「先住民の言葉を話そうとするたびに口の中に洗剤を入れられた」「地獄の日々だった」との証言が得られている(「しんぶん赤旗」7月19日付け)。先住民族に対する同化政策には、どの植民地主義国にも共通する、これほどまでに根深い差別の構造があると言わなければならない。

 今年3月には、デンマークからも同じようなニュースが届いた。デンマーク政府は、1950年代に同国領のグリーンランドの先住民族の子どもに対して、強制的な同化政策を採用していた事実に関して、謝罪したのである。

 日々動く歴史の鼓動を伝えていると言うべきこれらのニュースに接するたびに、海の彼方におけるこの忘れがたい経験から、日本の現実を変えるために、なにを、どう学び取るべきかを考えるのである。 


Created by staff01. Last modified on 2022-08-12 09:14:43 Copyright: Default

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