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半世紀前の東京五輪は、どう記録されたのか〜『東京オリンピック』を観る

堀切さとみ(レイバーシネクラブ)

 2月6日、シネクラブ定例会で、市川崑監督の『東京オリンピック』を取り上げた。1964年に開催された東京五輪の公式記録映画だ。

 集まった大半が、半世紀前の東京五輪を体験したという世代。2時間半の映画を観た後、自身のオリンピック体験を生き生きと語る人が何人もいた。そんな時代を知る由もない20歳の女子学生の参加もあって、世代を超えたとても楽しい討論会となった。

 オリンピックは、その是非をめぐって論議が続いているが、1964年といえば戦後の記憶が残り、高度経済成長の真っ只中。その中で開催された東京五輪は今よりずっと、人々の期待を集めた歴史的イベントだったことがわかる。製作費三億円、750万人が観たというこの映画。黒澤明や今井正に断られ、市川崑に総監督が託されたのはオリンピックが開催されるその年になってからだとか。選手たちだけでなく、映画監督にとっても、五輪という現場は半端じゃないプレッシャーだったのだろう。

 2020東京五輪は安倍首相の「アンダーコントロール」という嘘から始まり、開催前にはコロナが押し寄せ、国内でも8割の人が反対した。そんな中、今回の公式記録映画を担当する河瀬直美監督は「オリンピックを招致したのは私たち」と語っている。彼女がつくる映画がどのようなものになるのか。注目したい。

 定例会のあと、参加者の笠原真弓さんが感想を寄せてくれたので、紹介します。

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生身の人間の姿をとらえた市川崑のカメラ

 笠原真弓

 

 シネクラブの仲間と、56年前の映画『東京オリンピック』を見た。市川崑監督だ。完成した時も観たけど、内容は全く忘れていた。オリンピックの政府側の人(河野一郎と今日調べたらわかった)が、いちゃもんを付けたことから、当時は大きな話題になっていた。今回見直して、素晴らしい芸術映画だと思った。だから「おじさん頭」には嫌われたのだ。

   日本がメダルを取った表彰式や君が代、日章旗があまり登場しない。体操の場面の肉体の美しさとか、100m走のスタート前、選手がスタートに使う足を置く金具(ああいうものを使うとは知らなかった)を自分で調整しているその顔の真剣さと、修行僧のようなたたずまい。1000m走を走り終えた人の靴を脱いだ足の裏など、驚くような画面にあふれていた。1000m走では、トラックを何周もするのだが、割と早く周回遅れになった人をとらえ、最後にゴールしたその人が結構しっかりとした足取りでゴールしたところまで追っているのには笑ったし、マラソンの給水スタンドでの各選手の個性的な表情をとらえるカメラに、アスリートに対する市川監督の愛を感じた。

 時を経て、今のオリンピックそのものの変化や、それに対するこちらの拒否的な気持ちのふくらみなどを持ちながらこの映画を観ると、当時とは違った思いになるのは当然だと思った。例えばトップシーン。鉄球がオリンピックの競技場建設のためにアパートを壊していくところから始まるのも、五輪が今ある平和を壊しているようで、ちょっと怖かったり(そのアパートに住んでいた人は立ち退き、新しいアパートに入ったが、結局そこも今度の五輪で立ち退かされたということだ)、さまざま考えさせられた。

 感動したのは、閉会式でのハプニングだ。先頭に入った国の選手の中に、赤い服の日本選手が数人担がれたりしていると思ったら、各国ごちゃごちゃに競技場に入ってきて、友好的に楽し気にふるまっていたのだ。今あらためて観て、これこそ真の平和の祭典のフィナーレにふさわしいと思った。

 映画 は「オリンピックは、人類の持っている夢のあらわれである」というメッセージで始まり、「聖火は太陽に帰った。人類は4年ごとに夢を見る。この創られた平和を夢で終わらせていいのか」で終わる。「創られた平和」にやっぱり引っかかる。国民の声を踏みにじってゴリ押し開催した東京五輪の直後であり、北京冬期五輪の最中に、そして札幌冬季五輪に立候補しようと惚けた人たちのいる今だからこそ、いっそう考えさせられた。

市川崑監督


Created by staff01. Last modified on 2022-02-08 21:44:00 Copyright: Default

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