本文の先頭へ
LNJ Logo 〔週刊 本の発見〕「ヒロポン」と「特攻」ー女学生が包んだ「覚醒剤入りチョコレート」
Home 検索
 




User Guest
ログイン
情報提供
News Item hon210
Status: published
View


毎木曜掲載・第210回(2021/6/24)

菊の紋章が刻印されたヒロポン入りのチョコレート

『「ヒロポン」と「特攻」ー女学生が包んだ「覚醒剤入りチョコレート」 梅田和子さんの戦争体験からの考察』(相可文代著、自費出版、500円)評者:志水博子

 今回紹介する本は、市販されていない。限定500冊で自費出版されたものだが残部僅少と聞いていたので、ここで取り上げても読みたい人に届かないのは隔靴掻痒、焦ったいと迷った。ところがうれしいことに著者から増刷の知らせがあり、それなら大丈夫と思った次第だ。入手方法は最後に記す。

 タイトルの「女学生が包んだ『覚醒剤入りチョコレート』」に、私は意表を突かれた。何のことか意味がわからなかった。「ヒロポン」と「特攻」はまだしもわかる。戦後の混乱期の現象として、特攻崩れだの、ヒロポン中毒だの、聞き覚えがある。タイトルの最後に、「梅田和子さんの戦争体験からの考察」とある。女学生というのは、梅田和子さんのことだろう。なぜ、覚醒剤入りのチョコレートを包んだのだろうか。

 今年91歳になる梅田和子さんから、軍需工場となった女学校で「覚醒剤入りチョコレート」を包装していたと聞いて驚き、なぜ、そのようなことが行われていたのか調べてみようと著者は思い立つ。これだけでも生半可なことではない。偶然ながら梅田さんと私の母は1930年生まれの同じ歳である。典型的軍国少女だったいう母とはまったく異なる、ある意味正反対の価値観を梅田さんがあの時代に持たれていたことは驚きだった。

 著者の相可文代(おおかふみよ)さんは、中学社会科の元教員。大阪で「教科書運動」を牽引されてきた方だ。私もお話を伺ったのは1度や2度ではない。歴史教科書や道徳教科書について豊富な資料をもとに歯に衣着せぬお話は、いつ聞いても小気味いいが、戦争を賛美する教科書や、個人より国家を優先する教科書に対する怒りは強い。

 その忙しい合間を縫って本書を書かれたのは、“危機感”からだという。今の日本社会に対する危機感―私も全面的に同意する。まさかこんな酷い時代になるとは思ってもみなかった。が、それで終わってしまわないところが彼女の凄さであり、それが本書である。

 日本を再び「戦争をできる国・する国」にするために、「改憲」が目論まれ、教科書が変えられようとしてきた。そうさせないために必要なことは何か、と問う。そしてその答えは、美化したくてもできないくらいの悲惨な加害と被害の絡み合った戦争の実相をリアルに伝えることだと。しかし、それだけでは不十分だともいう。「そのような悲惨な戦争を、なぜ、止められなかったのか、なぜ、多くの人々が積極的にしろ、消極的にしろ、受け入れ・加担していったのか、当時の政治や経済、社会の状況にまで踏み込んで、原因を突き止めなければ、戦争反対の意志は情緒のレベルでとどまってしまう」、そして結局は再び“戦争”を選択してしまうことにもなりかねない、と。

 前半の、著者がたどっていった、梅田さんの戦争体験から「覚醒剤入りチョコレート」がなぜ作られたのか、日本軍による「ヒロポン」の活用、そして知覧を訪れてまで調べあげた「特攻」にまつわる人々の話。その足跡を筆者の思いとともに辿るだけでも十分に興味深かったが、しかし、本書の凄みは後半にある。

 「明治維新以来77年間、日本は断続的に侵略戦争を続け、最後には大敗して自国民にも他国民にも甚大な被害をもたらした。戦後76年というほぼ同じ期間が過ぎたにもかかわらず、いまだにけじめをつけることができていないことを、私たちは痛切に反省しなければならない」という。そして、天皇の戦争責任、指導者たちの戦争責任、さらには民衆の戦争責任、どれ一つ取っても私たちは果たせていないのではないかと。

 社会科の教員として得た知識と教科書運動で培ってこられた問題意識が一体となり読み手に迫ってくる後半こそが本書の醍醐味だ。伊丹万作の言葉を引用し、民衆自身が「だまされるような脆弱な自分というものを解剖し、分析し、徹底的に自分を改造する努力を始める」主体的な態度を取らない限り二度と戦争をしない社会をつくることはできないという。そして最後に、中国の朝鮮族の作家金学鉄(キムハクチョル)の体験からナショナリズムを超えた民衆の連帯について記し、「民衆が本当にたたかわなければならない相手は誰だろうか。それぞれの国で、民衆を利用する人たちと闘い、戦争をさせないようにすれば、戦争などそもそも起こらないのではないか。…国境を越えて民衆が連帯しなければならない」と結ぶ。

 あとがきで著者の覚悟のほどが伝わってくる、「私に残された時間はそんなに多くはないが、二度と戦争をさせないために、与えられた場で最後まで力をつくすつもりである」と。若い人にぜひ読んでほしい。

【本の入手方法】
『「ヒロポン」と「特攻」』は、次のアドレスにメールでお申し込みください。 o-fumiyo@kdt.biglobe.ne.jp
1冊 500円 (10冊以上は送料無料) お申込みいただいた方には郵送します。 金額を記入した振込用紙を同封しますので、振込をお願いいたします。


Created by staff01. Last modified on 2021-06-23 22:51:12 Copyright: Default

このページの先頭に戻る

レイバーネット日本 / このサイトに関する連絡は <staff@labornetjp.org> 宛にお願いします。 サイトの記事利用について