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LNJ Logo 太田昌国のコラム : パレスチナとブラック・ライヴズ・マター
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 ●第54回 2021年4月13日(毎月10日)

 パレスチナとブラック・ライヴズ・マター

 先日、関西でパレスチナ連帯の活動を長年続けてきているグループに招かれて、「コロナ禍で世界はどう変わるのか」というテーマで話をした。コロナについてはこの一年間有余考え続けてきたことをまとめて話したのだが、昨年度統計によると、いまや世界中で7500万人に及んでいる難民・避難民が、劣悪な住環境で「密に」暮らしていることに触れた時に、パレスチナの人びとが置かれている状況にも言及した。国連パレスチナ難民救済事業機関が発表している2020年度の数字に基づけば、パレスチナ難民の数は以下のようになる。ヨルダン川西岸106万人(総人口298万人)、ガザ162万人(総人口199万人)、そして近隣諸国に居住する難民は、ヨルダン242万人、シリア65万人、レバノン54万人となる。合計629万人に上るパレスチナ難民があの地域一帯には存在している。シリア、レバノンの国内情勢からすれば、その数は日々流動化していよう。

 もちろん、1962年に書かれたパレスチナの作家、ガッサン・カナファーニーの『太陽の男たち』(河出書房新社)は、イラク南部の都市バスラからクェートへの密入国を図って悲劇的な結果に見舞われるパレスチナ難民の姿を描いていることからわかるように、同難民はより広範な地域に分散して居住していようから、実数はさらに増えよう。上記の総数629万人という数に基づいても、世界の難民総数7500万人の8.4%を占めることになる。

 ガザ地区では、人口の45%が14歳以下の子どもで、難民が人口の80%を超えるが、イスラエル軍による完全包囲で、人と物の出入りが極端に制限され、燃料、食品、日用品、医療品が慢性的な欠乏状況にある。ヨルダン川西岸では、2002年以来イスラエルが「安全確保のために」建設している隔離壁で、パレスチナ自治区は飛び石状態にされている。学校、職場、病院、畑に行くにも、イスラエルの検問所を通らなければならない。これらに不服や抵抗の意志表示をすれば、イスラエル兵にいつ逮捕されたり銃撃されたりするかわからない。これがコロナ禍のパレスチナ自治区で日々起きている事態である。

 今回この問題を調べていて興味深かったのは、米国の黒人解放運動の中で、とりわけBLM(ブラック・ライヴズ・マター)運動の展開の中で、パレスチナとの連帯が模索されているという事実だった。それは、黒人活動家で研究者のアンジェラ・デイヴィスの、以下の諸論文から学んだことだった。

(1)「ブラック・ラディカリズムのいくつもの未来」(『ブラック・ライヴズ・マター:黒人たちの叛乱は何を問うのか』所収、河出書房新社、2020年/写真)
(2)「産獄複合体について」(『福音と世界』誌2021年4月号、新教出版社)

 かの女によれば、米国とイスラエルは「建国以来の入植者植民地主義、先住の人々に対する民族浄化のプロセス、(人種)隔離システム、構造的抑圧を実行に移す法制度の行使など」で著しい共通点を持つ。ブラック・ライヴズ・マター運動においては、「より批判的で集合的な正義をめざす我々の活動の中心には、警察の脱軍事化という要求が位置づけられるべき」だが、それと「パレスチナの占領と軍事化された取締りは連繋している」事実を強調している。米国の警察が「9・11」以降、イスラエルの警察から「対テロ作戦」の訓練を受けているとする指摘も重要である。

 コロナウイルスの蔓延状況については、個人の力では追い切れない大量の情報が溢れている。そのなかから、人権状況に関わる本質的な情報にたどり着くのは容易ではないことを改めて痛感した。ブラック・ライヴズ・マター運動が持ち得る世界的な可能性に注目し続けたい。


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