安倍政権が「元徴用工訴訟」問題の報復として強行した対韓国輸出規制に対し、日本の学者・弁護士らがネットで呼びかけた「<声明>韓国は「敵」なのか」(世話人・石坂浩一、内海愛子、内田雅敏、岡田充、岡本厚、田中宏、和田春樹の各氏)が、7月28日現在、1627人の賛同署名を得ているといいます(30日付「しんぶん赤旗」)。
「声明」は「はじめに」「おわりに」のほか、「1、韓国は「敵」なのか」「2、日韓は未来志向のパートナー」「3、日韓条約、請求権協定で問題は解決していない」の3項。「輸出規制をただちに撤回」すべきだとの趣旨には賛成です。とくに「元徴用工訴訟」について、「日韓基本条約・日韓請求権協定は…一貫して個人による補償請求の権利を否定していません」という指摘は重要です。
しかし、「声明」には黙過することができないいくつかの疑問・問題点があります。
第1に、全体を通じて、“喧嘩両成敗”的記述が基調になっていることです。
たとえば、「国と国のあいだには衝突もおこるし、不利益措置がとられることがあります。しかし、相手国のとった措置が気に入らないからと言って、対抗措置をとれば、相手を刺激して、逆効果になる場合があります」「日本の圧力に『屈した』と見られれば、いかなる政権も、国民から見放されます」「両国のナショナリズムは、しばらくの間、収拾がつかなくなる可能性があります」
今回の問題の根源は言うまでもなく日本の植民地支配による朝鮮人強制動員であり、本質は被害(韓国)と加害(日本)の関係です。決して、どっちもどっちの喧嘩両成敗でないことは、「声明」の世話人・呼びかけ人・賛同者らにとっては自明ではないでしょうか。
第2に、輸出規制を「自由貿易の原則」「日本経済にマイナス」という視点から批判し問題の本質があいまいになっていることです。
「このたびの措置自身、日本が多大な恩恵を受けてきた自由貿易の原則に反するものですし、日本経済にも大きなマイナスになるものです。…日本にとって得るものはまったくないという結果に終わるでしょう」
この視点は、G20を肯定する立場から輸出規制を批判している日本の大手紙と同じ論調です。「声明」がこの視点を「元徴用工」問題より前(第1項)に記述していることで問題の本質があいまいになっていると言わざるをえません。そればかりか、日本の識者・市民もこの問題を「日本経済の利益」の視点から考えているという重大な“誤解”を与えかねません。
第3に、「東京オリンピック」を無条件に肯定し、それを「成功」させる立場から撤回を求めていることです。
「しかも来年は『東京オリンピック・パラリンピック』の年です。普通なら、周辺でごたごたが起きてほしくないと考えるのが主催国でしょう。それが、主催国自身が周辺と摩擦を引き起こしてどうするのでしょうか」
重要な「東京五輪」を前にごたごたを起こすな、というわけです。唖然としました。
「2020東京五輪」が、福島原発事故の影響・政府の無策を隠ぺいし、植民地支配・侵略戦争責任に背を向けたまま(「元徴用工」「元慰安婦」問題、朝鮮学校差別など)、「世界の中心で輝く」日本を誇示し、新天皇徳仁を国際デビューさせる安倍戦略に基づくものであることは、これも世話人・呼びかけ人らには言わずもがなではないでしょうか。
「声明」がその「東京五輪」を肯定し成功を願ってさえいることの影響は決して小さくないでしょう。
そのほか、「村山談話」(1995年)や「日韓パートナーシップ宣言」(1998年)の賛美、「日韓慰安婦合意」(2015年)のあいまいな評価など、問題はほかにもありますが別の機会にします。
賛同者の中には、問題はあるにしても全体的な意義を重視して賛同したという人もいるかもしれません。しかし、声明文を起草し賛同を呼びかけた世話人・呼びかけ人には責任があります。
世話人・呼びかけ人に名を連ねている人びとはまさに朝鮮・韓国問題の専門家であり、私もその著書や論文などから多くを学ばせていただきました。それだけに、そうした人々が、この重要な局面で上記のような疑問・問題を含む「声明」を発表したことは、驚きであり残念でなりません。
あらためて、問題の本質を明確にした「声明」を期待したいものです。