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アリの一言〜党首討論会で露呈した「徴用工問題」の本質
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党首討論会で露呈した「徴用工問題」の本質

2019年07月06日 | 安倍政権と歴史認識

     

 参院選公示前日の3日に日本記者クラブで行われた党首討論会。司会陣(記者クラブ代表各社)の突っ込み不足もあり、興味の薄いものとなりましたが、その中で、最も注目されたのは、朝鮮半島の強制徴用(元徴用工)損害賠償をめぐる安倍首相の発言でした。

 司会者の1人が、「政府は韓国の元徴用工らへの損害賠償判決問題で、事実上の対抗措置を取った。歴史認識問題を通商政策と絡めるのは両国にとって良くない」と質したのに対し、安倍首相はこう答えたのです。

 「その認識ははっきり申し上げて間違いだ。歴史問題を通商問題に絡めたのではない。徴用工問題は歴史問題ではなく、国と国の約束を守るかどうかということだ。約束を守らない中で、今までの優遇措置はとれない」

 今回の韓国に対する輸出規制強化が「元徴用工」問題での対抗措置であることは衆目の一致するところで、安倍氏の発言は言い訳にもなっていませんが、聞き捨てならないのはそこではなく、「徴用工問題は歴史問題ではない」と言い切ったことです。

 安倍氏は続けて、戦時性奴隷(「日本軍慰安婦」)問題についても、「慰安婦合意は首脳間、外相間の合意だ。その合意が守られていない。国際約束が守られていない問題だ」と言いました。

 いずれも「歴史問題」ではなく「国と国の約束の問題」だというのです。これこそ安倍首相(日本政府)の根本的誤謬であり、「元徴用工」「元慰安婦」問題の本質もここにあると言わねばなりません。

  強制徴用、戦時性奴隷の根源は、言うまでもなく日本の朝鮮半島植民地支配です。それはまぎれもない歴史問題、日本の歴史的犯罪の問題です。
 その被害者は「元徴用工」「元慰安婦」一人ひとりです。加害者である日本が賠償責任を負わねばならないのは「国」ではなく被害者個人です。それが日本の歴史的責任です。

 それを日本政府は、「日韓請求権協定」(1965年)、「日韓慰安婦合意」(2015年)という「国と国の約束の問題」にすり替え、「解決済み」としているのです。両協定・合意とも、肝心の被害者個人(支援団体)の頭越しに行われたことがそれを証明しています。
 「請求権協定」については日本政府自身、当初は「被害者個人の賠償請求権は消滅していない」と言明していましたが、安倍政権はそれをなし崩しにしてきました。

 問題は、この根本的すり替え(歴史問題を「国家間合意」問題へ)が、安倍氏だけの問題ではないことです(歴史修正主義者の安倍氏がこうしたすり替えをするのはいわば自明)。
 日本のメディアは、基本的にすべて安倍氏と同じ立場に立ち、いずれも「請求権協定」「慰安婦合意」という「国家間合意」の枠から出ていません。両問題を日本の植民地支配責任の問題ととらえきれていないのです。それが結局、安倍政権を擁護する論調につながっています。

 メディアだけではありません。日本の政党も自民党だけでなく、基本的にすべて「国家間合意」に縛られています。両協定・合意に対する批判が皆無なことがそれを示しています(1965年の日韓条約・請求権協定にも2015年の「外相合意」にも日本の植民地支配の反省はありません)。

 さらに問題なのは、そうしたメディアや政党の影響で、「日本国民」全体が結局安倍氏のすり替えにからめとられていることです。それが両問題の根源を見失い、安倍政権支持、対韓嫌悪の「世論」につながっていると言わねばなりません。

 問題の核心は、主権者である「日本国民」が、強制徴用(元徴用工)、戦時性奴隷(元慰安婦)問題を、歴史問題、すなわち日本の植民地支配責任の問題ととらえ、心からの謝罪と被害者個人への損害賠償責任を果たす立場に立つかどうかです。

 



Created by sasaki. Last modified on 2019-07-08 13:41:26 Copyright: Default

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