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太田昌国のコラム : アフガニスタン、中村哲、マフマルバフ、前皇后美智子 | ||||||
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アフガニスタン、中村哲、マフマルバフ、前皇后美智子そのとき、中村は書いた。「我々は(タリバーン)非難の合唱に加わらない。餓死者100万人という中で、今議論する暇はない。人類の文化、文明とは何か。考える機会を与えてくれた神に感謝する。真の『人類共通の文化遺産』とは、平和・相互扶助の精神である。それは我々の心の中に築かれるべきものだ」(朝日新聞2001年4月3日付け夕刊)。当時、日本でもタリバーンによるおびただしい人権侵害、とりわけ女性に対する徹底した差別と暴行のニュースは広く伝わっていた。私もその報道が正しいとの前提の上で、タリバーンの政治・宗教思想にはかけらの共感も持ってはいなかった。それでも、現地に住み、働き、実情をよく知っている人物がこう言うからには、その真意を汲み取らなければならないとは思った。
問題は、人びとが生きる現実には無関心なまま、遺跡・文化遺産の喪失には涙する者が世の中には多いということだろう。事実、ユネスコは大仏の修理のために資金提供を申し出たが、「仏像に資金を費やす代わりに、食糧がなく死んでいくアフガニスタンの子どもたちをなぜ救わないのか」という声がすぐにあがった。当時、アフガニスタンの現状をテーマにした映画『カンダハール』(2001年)を撮ったばかりであったイランの映画監督、モフセン・マフマルバフは『アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない、恥辱のあまり崩れ落ちたのだ』(現代企画室、2001年)と題する印象深い文章を書いた。「神にさえ見放された国」アフガニスタンについて、彼はこう言う。「アメリカでの9月11日の事件が起こるまで、アフガニスタンは忘れられた国でした。今でさえも、アフガニスタンに向けられる関心は、そのほとんどが人道的なものではないのです。もしも過去の25年間、権力が人びとの頭上に降らせていたのがミサイルではなく書物であったなら、無知や部族主義やテロリズムがこの地にはびこる余地はなかったでしょう。もしも人びとの足もとに埋められたのが地雷ではなく小麦の種であったなら、数百万のアフガン人が死と難民への道を辿らずに済んだでしょう」。 中村とマフマルバフの視線は、より深い地点に据えられていることがわかる。大仏破壊という、確かに衝撃的ではある事件に際して、ひたすら扇情的に走ることなく現地の現実に即した視点をどのように獲得するのか。常に問われる課題であり、その範例的な回答がここにある。 知らずしてわれも撃ちしや春闌くるバーミヤンの野にみ仏在さず これは、引退した皇后美智子がバーミヤンの大仏の破壊の報に接して詠んだ歌である。私は天皇制を廃止すべきとの立場に立つ者であり、去っていった天皇・皇后の「反安倍的な」姿勢に幻惑されて、期待したり共感したりする者でもない。だが、こういう秀歌に接すると、侮ることのできない存在だ、との思いが強く残る。中村哲は今春帰国すると、前天皇・皇后に会ってアフガニスタンの状況報告を行なったという報道を読みながら、一筋縄ではいかぬ人間存在の複雑さをあらためて思い、「自分ならどうするか」と自問した。 Created by staff01. Last modified on 2019-12-10 23:46:34 Copyright: Default |