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映画『新聞記者』をめぐってディスカッション〜レイバーシネクラブ報告

 7月27日、郵政共同センターで行われた『新聞記者』の討論会は熱かった。6月下旬に公開され、あっという間に話題となった問題作。木下昌明さんが「日本にもついに生まれた反権力の映画」と評し、Facebookでは熱烈な感想が投稿されていた。折しも参院選が終わったばかりのこの日。初参加者が多く、現役、OBの新聞記者も交え、討論は2時間半に及んだ。

 「シム・ウンギョ演じる新聞記者には、とてもリアリティーを感じた」という感想がある一方で、元読売新聞記者の山口正紀さんは、もっと新聞社の実態に迫ってほしかったという。概して新聞社が巨大な権力機構になっていて、ジャーナリズムとはいえないものに成り下がっていると。また、地方新聞社に勤務する20代の女性記者は「ウラをとること、いい質問が出来るようになりたいと日々努力しているが、現場の人の声を拾うより、官邸からの情報をとればいいと言われてしまう。それじゃ単なる広報だなと思うが、他社を抜くことがどうしても最優先されてしまう」と実感を語った。映画のモデルになった望月記者は「質問することが記者の仕事」と言うが、山口さんは「質問するなという教育を受けた」そうだ。記者クラブ制度が記者たちの質問力を低下させていると指摘し、「特報部」がある東京新聞だけが部数を伸ばしていることにも触れた。

 「新聞記者」より「内調」というタイトルがふさわしいのでは?という感想もあるくらい、内閣調査室の描写はリアリティがあった。一般人には遠い存在だが、こういう情報操作は実際に行われているのだろう。「何といってもこの映画の素晴らしさは、今を描いていること」という指摘があり、なるほどと思わされた。韓国では政治をテーマにした数々の優れた映画が作られてきたが、そこで扱っているのは過去のこと。『新聞記者』が、セクハラを告発した伊藤詩織さん、森友学園事件で改ざんを強いられた財務局職員の自殺、権力にとって都合の悪い事務次官をスキャンダルで追いやる・・・人々の記憶にとどまっているうちにそのことに触れた意義は計り知れない。

 「なぜこのような映画が、今、日本で作られたのだろうか」と山口さんが問いかけた。保身、出世、立場主義。「何もしないのが一番」という公務員社会。面従腹背。家族でありながら何も聞けない・・・。同調圧力は新聞記者や官僚だけでなく、すべての人が直面するもので、日本社会は言いたいことが言えない社会になってしまった。しかし、それでは生きていけないほどに、日本社会の矛盾があちこちで噴出している。一人でも声をあげる人が出てきたし、それを支えようとするつながりもある。山口さんは記者時代、社内で孤立しても闘おうと思えたのは「読者からの投書のおかげ」だったという。ひとりひとりの声は決して小さなものではないことを感じさせてくれるエピソードだ。松坂桃李扮する若き官僚もまた、生まれてきた我が子に対して恥ずかしくない生き方をしようと決意する。映画のラストシーンは明るいものではないが「これで終わりなのではない」。これからも、このような映画がどんどん出てくるのではないか。そんな期待を感じた討論会だった。〔堀切さとみ〕


Created by staff01. Last modified on 2019-08-01 11:23:09 Copyright: Default

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