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LNJ Logo 〔週刊 本の発見〕『大量廃棄社会 アパレルとコンビニの不都合な真実』
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毎木曜掲載・第113回(2019/6/13)

解決の糸口が見えてくる

『大量廃棄社会—アパレルとコンビニの不都合な真実』(仲村和代・藤田さつき、光文社新書)/評者:渡辺照子
 自宅の近所に高級なパン屋がある。バターたっぷりのクロワッサンのおいしさはパン通だけでなく広く知られている。夜、その店舗の前を通り、ショッキングな光景を見てしまった。大きなビニール袋にあこがれのクロワッサンはじめ、パンが詰め込まれていたのだ。ブランド力を保持したいのか、売れ残りを値下げして売る、などということもしないのだろう。間違いなく廃棄処分だ。実にもったいない。

 そもそも、あらゆる店舗において、いつも食品を売る棚にはぎっしり商品が並んでいることが当たり前だと思っていることがおかしいのかもしれない。それらをいつも売り切るとは限らないのだから。では、売れ残りはどこに行くのか。そんなことをうすぼんやりと考えるのは私だけではあるまい。

 本書の著者は社会部等の新聞記者。「はじめに」で述べている「注目を集めやすい事象だけではなく、表に見えづらい部分も掘り下げ、そこから見えたものを伝える努力が求められる」との使命感が全頁に反映されている。

 副題にもあるようにアパレル、コンビニ産業での廃棄問題に迫った内容だ。日本では年間8億枚もの洋服が新品のままに廃棄されている。毎日、日本人はお茶碗一杯のご飯を捨てている。これらの事実を突き付けられて愕然とし、罪悪感を持たない人はいないだろう。 だが、「業界の闇の告発」というスタンスだけではない。多種多様な産業、業界の、網の目のように張り巡らされた従来からのシステム、矛盾が積み重なり現在に至ったことを知る。その意味では本質を認識できるバーチャル社会科見学と言って良いだろう。

 丹念な取材によって、業界の変革者たちの活動も取り上げている。彼女、彼らの取り組み・言葉は実に魅力的だ。服のリサイクルに取り組む人は「消費者を巻き込むには『正しい』ことを伝えなければならない。あるべき姿を誰かが提供すれば協力してくれる」と言う。

 「捨てないパン屋」を目指す人は「日本のパン屋は一日15時間以上働き100点満点を目指す」。ところが修行したオーストリアのパン屋は「4、5時間くらいで70,80点を目指し、それでおいしいパンを作る」。それを日本でも実践し、自前の働き方改革をやってのける。

 人間、生きている以上、誰もが衣食住の問題の当事者だ。生産者、消費者という立場、役割で。だから決して他人事にはできない。特に衣食関連商品の価格は、急速にダンピング化が進んだ。著者はこの点についてこう述べる。「賃金が伸び悩んでいるにもかかわらず、求められるサービスの質は下がるどころか消費者の要求水準は高まっているようにすら見える。日本のサービスは値段の割に質が高いといわれる。だが、その裏で犠牲になっている人がいるのではないか」と。

 外国人技能実習生問題にも触れる。「悪者は雇い主で良いのか」との問題提起が目を引く。外国人技能実習生が最も多い縫製工場では、メーカーから受け取る工賃単価は店頭価格のわずか5%だという。服の価格がどんどん安くなり最賃割れが常態化する中、日本人労働者を使うことができず、外国人技能実習生で回すしかなかったのだという。

 低価格で、そこそこ流行ラインを満たす衣服を日頃購入する私などは、その構造の中では明らかに加害者となる。「服の値段が安くなる陰で誰かが泣いている」の一節が私の胸に突き刺さる。このように、安易な犯人捜しをしないスタンスこそが事実に肉薄する調査報道の真骨頂だろう。

 コンビニ食品の項では恵方巻を中心に取り上げている。表紙をめくると、滝のように流れる恵方巻の「残骸」のグロテスクなカラー写真が目に入る。どれも十分食べられる状態でも、コンビニ特有のルールで直ちに廃棄対象となる。コンビニ企業本体のみが儲かり、フランチャイズのオーナーに過剰な負担を強いる仕組みが、この痛ましい現象の要因なのだ。

 取材のきっかけはSDGs(持続可能な開発目標)を筆者たちに教えた国谷裕子さんだという。私はそんな横文字、エリートの「いいかっこしい」にしか思えないのだが。その横文字の「遠い世界の正しい話」に終わらせず、私たちの生活と社会問題とが密接不可分であることを実証してくれた。

 本書において「ふだんのくらしの中でもできることはたくさんある」との一節が希望をつなぐ。「技術の革新を人類にとってプラスのものにするか、マイナスのものにするかは、使う側の意識に左右される。そのための一歩が知ることだ。大量廃棄社会の現実を変えられるのは私たち一人一人」との呼びかけが力強い。

 直視したくない現実を目の当たりにし、直視したからこそ、解決の糸口が見いだせることをこの本で学んだ。ジャーナリズムが社会変革を牽引する役割はここにある。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美、ほかです。


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