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LNJ Logo JR根室本線の早期災害復旧と路線維持を求める十勝集会〜「廃線になると町は死ぬ」
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News Item 180621tokachi
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「JR根室本線の早期災害復旧と路線維持を求める十勝集会」が6月21日、新得町公民館で開催され、150人が集まった。JR根室本線は現在、東鹿越〜新得間が2016年夏の台風で被災したまま、不通になって間もなく2年になる。

この間、JR北海道はこの区間を復旧させるどころか、「自社単独では維持困難」だとして廃線を提起。6月17日に行われた関係6者(国、道、市長会、町村会、JR北海道、JR貨物)協議でも、JR北海道は「国に支援を求めず廃線を目指す」5線区にこの区間を位置づけた。

根室本線は、1981年に新夕張〜新得間が開業して石勝線となるまで、食堂車を連結した特急列車や貨物列車が札幌と釧路を結んで走った大動脈だ。今でも、石勝線が災害で不通になれば代替輸送の可能性のある線区である。そんな区間でさえ廃線を目指すJR北海道は、もはや公共交通事業者としての責任を完全に放棄したと言わざるを得ない。

午後6時30分から始まった集会では、まず主催者を代表して佐野周二さん(鉄道退職者の会新得支部)があいさつ。「鉄道の災害復旧は国の責任だ。現在、署名簿集めをしており、国土交通大臣に届ける予定にしている。(JR北海道が自社単独で維持困難とした10路線13線区のうち、根室本線を含む5線区には国の支援を求めないとする、6月17日の)6者協議の結果は認められない。激甚災害による被災なのだから激甚災害法によって復旧するのが当然だ。今では、採算が合わない鉄道は廃線になるのが当然のように報道されているが、昔は全部国有鉄道だった。分割民営化が国策なら、日本中に道路網を張り巡らせた道路優先政策も国策だ。国策によってこのような状況が生まれたのだから、解決も政治によるのが当然。政治決着に向け希望を持って取り組む」と、国による復旧を求める決意を示した。

続いて、新得町連合町内会の青柳茂行会長が、「署名簿を2163筆集めた。全町民に回覧板の形で回し、署名簿を集めたのは町の歴史上初めてのことではないか」と、この間の取り組みを報告。「根室本線は、道北と道東という、2つの巨大地域を結んで走る大動脈であり、北海道全体のものだ。そんな大動脈の存廃が沿線一自治体に委ねられていることが理解できない。私たちの町がいいと言えばなくしていいのか? その点を問わざるを得ない」との発言が、高橋秀樹・南富良野町副町長からあった。

この日の集会のメインは、十勝町村会会長であると同時に本別町長でもある高橋正夫さんの講演だ。

「国鉄が分割民営化されて以降、JR北海道は地元に対し、(経営状況などの)情報開示も一切せず、ある日突然「廃線」を切り出してきた。2006年、(旧国鉄池北線を転換した第三セクター)ふるさと銀河線が廃止されたときと同じ状況だ。あのときも銀河線の赤字補てんが「金利低下」でできなくなった、と突然言ってきた。

JR北海道は、災害で不通となった東鹿越〜新得間の復旧に10億5千万円かかると言っているが、地元にはそんなに高いわけがない、もっと安く復旧できるという人が大勢いる。線路はJRだけのものでも南富良野町だけのものでもない。北海道全体の財産だ。廃線が既成事実のような報道が行われているが、「そうはさせるか」との思いだ。

北海道はもともと林業が盛んだった。その林業が国策のためにつぶされていった。次に石炭がつぶされたのも、エネルギー政策の転換という国策だった。林業も石炭も、全部国策でつぶしておいて、今ごろになって地方創生で頑張れと掛け声だけかけられる。その一方で、地元にとって頑張る基盤のはずの線路まで剥がそうというのか。線路は地方にとって頑張る基盤であり、赤字黒字で判断するものではない。

十勝には国鉄時代、白糠線があり、士幌線があり、広尾線があり、池北線があった。白糠線、士幌線、広尾線はすべて国鉄末期に廃線になり、池北線もふるさと銀河線に転換後廃止になった。これで根室本線まで廃止になったら、ついに十勝はすべての鉄道を失ってしまう。国は、根室本線のトンネルや鉄橋などの施設が古くて金がかかるから直せないというが、東鹿越〜新得間が不通となった2016年の台風災害では昭和時代に造られた鉄橋が流されたのに明治、大正時代に造られた鉄橋は流されずに残った。先人たちが汗を流して造り、残してくれたのはそれくらい価値ある財産なのだ。

ふるさと銀河線がなくなった後、本別で何が起きているか。地元の中学生が帯広市の高校に合格する。鉄道があったころは、男子も女子もみんな鉄道で通った。鉄道がバス転換になって以降、通学時間が延びた。それでもまだ男子の場合はバスに長時間乗せて地元から通わせる親が多いが、女子の場合、通学時間があまりに長いと親が心配する。その結果、短時間で通学できる場所がいいと、家族が娘に合わせて帯広市の近くに引っ越し、父親だけが逆にそこから本別に通ってくるようになる。お年寄りも、病院が遠くなったからと帯広に引っ越す。鉄道がなくなった町は人の住めない町になる。だから今が頑張りどころだと思う」。

高橋会長の話は、地方各地を転々としてきた私にとって、納得できるものばかり。「鉄道がなくなると、女の子のいる世帯から順に町を出て行く」という話には衝撃を受けた。2040年には、日本の地方自治体の約半数が「消滅可能性都市」に該当するようになる――そんな衝撃的な予測を「日本創成会議」が公表し、騒ぎになったのは2014年のことだ。日本創成会議は、出産可能な年齢である20〜39歳の女性の人口比が5割以下にまで減少することを「消滅可能性都市」選定の根拠としたが、今回、高橋会長の話を聴いたことで、バラバラの「点」として存在しているに過ぎなかった「鉄道廃止による地域衰退」と「出産可能年齢にある女性の減少による地域消滅」の話が「線」としてつながった。『鉄道がなくなった町では、女の子のいる世帯から順に町を出て行く。女の子に出て行かれた町は、子どもが生まれなくなり死んでゆく』――北海道がそんな死の町になる前に抵抗しなければならない。抵抗できるのは今しかない――高橋会長の魂の叫びだと私は受け止めた。

新自由主義に染まりきり、凝り固まった「御用経済学者」たちは、グローバリズムの流れは今さら止められないのだから、英国のEU離脱は誤りだと、なじることを繰り返す。果たして本当にそうだろうか? 今、世界で起きていることはグローバリズムと、それへの反逆としてのローカリズムのせめぎ合いである。英国のEU離脱は確かに劇薬だったが、グローバリズム一辺倒で進んできたここ四半世紀の人類社会にとって重要な示唆でもある。「反グローバリズムの拠点として地方を活かし、強化すること」は今後の重要な課題のように思われる。

2016年の台風で「昭和時代に造られた鉄橋が流されたのに明治、大正時代に造られた鉄橋は流されずに残った」というのも、人によっては耳を疑う話のように聞こえるかもしれないが、長年、鉄道の安全問題に関わってきた私にはいかにもありそうな内容で納得できる。高度成長期も終わりに近づいた1960年代〜70年代に造られた山陽新幹線の高架橋が阪神・淡路大震災で落ち、その後、2000年前後には、山陽新幹線のトンネルで外壁剥離事故が相次いだ。だがこのときも、それ以前――明治・大正時代に造られた構造物はびくともせず、戦前に造られた関門鉄道トンネルでは山陽新幹線のトンネルでのような頻繁な外壁剥離は起きていないからだ。古いものより新しいもののほうがずさんに造られ粗末に扱われているという事実は、戦後の高度経済成長がもたらした歪み、そして国土交通行政の失敗を鮮やかに私たちに告げている。

「古いものだから金を出して直す価値がない」「赤字の鉄道はなくなって当然」「鉄道がなくなったから町が廃れるというのは存続派の勝手な幻想」−−メディアを使って声高に繰り返されてきた主張は、高橋会長によって完全に論破された。これでもなお安倍政権が北海道の鉄道は安楽死でいいと考えているなら、私たちはやはり安倍政権を倒す以外にない。


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