本文の先頭へ
LNJ Logo 〔週刊 本の発見〕『日本軍兵士−アジア・太平洋戦争の現実』
Home 検索
 




User Guest
ログイン
情報提供
News Item 0816hon
Status: published
View


毎木曜掲載・第70回(2018/8/16)

野垂れ死にさせられた兵士たち

●『日本軍兵士−アジア・太平洋戦争の現実』(吉田 裕、中公新書、820円)/評者:志真秀弘

 敗戦後73年目の夏を迎えた。いったいどこの国と戦っての敗戦なのか、知らないと答える若い人も多いと言われる。たしかに73年とは、そうした現象が起きても不思議ではない年月かもしれない。そのうえ、好戦的安倍政権の統治は5年を超え、日本軍によるアジア侵略の歴史を肯定する声は、大きくなる一方である。

 いったいこの15年戦争でどれほどの犠牲があったのか。まずそれをみよう。日本の戦没者は軍人・軍属が230万人(この中には朝鮮人と台湾人の軍人・軍属5万人を含む)、民間人が80万人、合計310万人に達する(日本政府の統計)。

 本書はこの230万人の軍人・軍属の死の実相に迫ろうとする。著者は生き延びた人々の回想録(ほとんどが非売品)、防衛庁防衛研修所戦史室編纂の『戦史叢書』全102巻(1966年〜80年)などの膨大な一次資料を読み解き、日本軍兵士一人ひとりの死に向き合おうとした。

 日本の戦没者(軍人・軍属・民間人含め)は、その9割を越える210万人が1944年以降のいわば敗北必至の時期に集中している。政府は戦時の各年次の死亡者統計を持っていないが、岩手県のみが明らかにしていて、この数はそこから著者が割り出したものである。(ちなみにアメリカは年次別、月別の戦死者数を明らかにし、陸海軍省の医務・統計部局が公開している。)*写真=2018/8/11ヤスクニキャンドル集会で講演する吉田裕氏

 さらに、死者のうち戦闘で亡くなった者より病死(自決を含む)、餓死などの戦病死が異常に多く、1944年以後は「実に73.5%にもなる」。「自決」と言っても、なかには動けなくなった兵に「昇汞錠」を渡して自殺させたり、「処置」と称して殺害することさえあった。補給、兵士の健康、衛生の軽視は戦争栄養失調症を招き、私的制裁の蔓延などが精神神経症にも拍車をかけていった。

 本書はこうした事実一つひとつを歴史的・系統的に探り、兵士の「死の現場」(金子兜太)に迫っていく。著者は兵隊の無残な死の背後に、|惨決戦主義、∪鐺をすべてに優先し補給、衛生、情報、海上護衛などを軽視する考え、6肪爾弊鎖声腟舛覆匹瞭丹曚雰鎧思想のあったことを明らかにする(第3章、無残な死—その歴史的背景)。

 この軍事思想を産んだ精神風土はいまも生きている。衣装を変えて、そこかしこに出没している。読み終えてそう思った。

 一方、この戦争でのアジアの犠牲者は1900万人にのぼる(正確な統計は残されていないため推定と著者は断っている)。中国軍と中国民衆の死者は1000万人以上、朝鮮の死者が約20万人、フィリピンが約111万人、台湾が約3万人、マレーシア・シンガポールが約10万人、その他、ベトナム、インドネシアなどである。日本軍の侵略による最大の犠牲者はアジアの民衆であり、その償いはいまも終わっていない。この自覚こそが、いまの異常な「精神風土」を変えることにつながるはずだ。

 最後に本書と密接する主題を追求し、すでに古典とも言われる『餓死(うえじに)した英霊たち』(藤原 彰)がちくま学芸文庫から、今月刊行された。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美・佐藤灯・金塚荒夫ほかです。


Created by staff01. Last modified on 2018-08-15 14:00:10 Copyright: Default

このページの先頭に戻る

レイバーネット日本 / このサイトに関する連絡は <staff@labornetjp.org> 宛にお願いします。 サイトの記事利用について