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LNJ Logo 木下昌明の映画の部屋『バンクシーを盗んだ男』
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●木下昌明の映画の部屋 第244回 : マルコ・プロゼルピオ監督『バンクシーを盗んだ男』

パレスチナの今を描く―象徴的な壁の行方


 (C)MARCO PROSERPIO 2017

 バンクシーとは何者か? ロンドンを拠点に世界のあちこちのストリートに壁画などを描いているアーティストのこと。その正体は不明で、誰も本当の姿を見た者はいないという。そのことがイタリアのマルコ・プロゼルピオ監督の『バンクシーを盗んだ男』を観て初めて分かった。

 このドキュメンタリーが面白いのは、バンクシーがパレスチナのベツレヘムに赴き、あのイスラエルとパレスチナを隔離する高さ8メートル、全長450キロの長大な壁に絵を描いたということ。その壁画がカネになると分かって壁を切りとって、どこかに売り、どこかで保存され、米ロサンゼルスでオークションにまでかけられたという話。しかも壁画は4トンもあるシロモノで、盗んだのは、ベツレヘムのタクシー運転手のワリドだという。この張本人の話が面白い。

 映画の中で壁についてこう語られている。「イスラエル人にとっては治安を守る壁、パレスチナ人にとっては分断の壁、アーティストにとっては最高のキャンバス!」と。

 バンクシーは巨大壁画を残している。平和の象徴ともいうべきオリーブの枝をくわえた白い鳩(はと)が防弾チョッキ着用で飛んでいる絵。黒いマスクで顔を隠した黒服の男が石ころではなく花束を投げようとしている絵もある。今のパレスチナを象徴的に表現している。

 中でも物議をかもしたのは「ロバと兵士」。イスラエル兵がロバのパスポートを調べている図だ。「俺たちはロバか?」と怒りを買った。そんな経緯もあってワリドはボスの商人に話を持ちかけ、壁画を売ってしまった。

 壁から切り離された絵に価値があるや否やの専門家の議論が面白い。また、バンクシーが壁を一望できるホテルを建て、観光客が押し寄せたという話も興味深い。しかし、そこをワリドは「恥ずべき場所」と唾棄する。その彼の「いつかこの壁もベルリンのようになるだろう」という言葉が印象に残る。
(『サンデー毎日』2018年8月12日号)

※8月4日より新宿シネマカリテほか全国順次公開


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