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市民一人ひとりの自覚〜映画『積極的平和国家の作り方 コスタリカの奇跡』を観て

 コスタリカは、軍隊を持たない国として有名である。9条を持ちながら何となく軍隊のない国、平和な国としてあこがれていた。その国の、軍隊を持たないことがどういうことかという映画があるというので、見に行った。

 コスタリカは南北アメリカ大陸のちょうどくびれたところ、ニカラグアの南に位置する。アイゼンハワーの声が響く。「銃を一丁作るのも、軍艦1艇の進水も……盗みと同じ。飢えて凍える人々を無視するから……」「今こそ国々が重大な決断をしなければならない正義と恒久平和を模索するべきだ……」と。アメリカはいまだにそれが出来ていないが、コスタリカでは実現している。この映画は2人のアメリカの社会学の准教授の共同監督と聞けば、この出だしも頷ける。

 ほぼ全編がインタビューなのだが、挿入されるその時のニュースフィルム、アニメーション、街中の様子、人々へのインタビューで飽きさせることがない。

 兵役がないこと、軍事費がないので社会福祉と教育と環境保全の充実に使われた。国民皆保険であること。文化と教育に力を入れているので識字率と進学率が高く(国立大学は試験さえ通過すればだれでも入学できる)、将来の可能性が広がった。衣食足りて将来の可能性も開かれているということは、なんと素晴らしいことか。ついつい国民みんなが、基本的暮らしを保障されていない日本に住んでいる自分の不幸を思い、オスプレー1機やめれば実現するであろう生活保護の充実を考えてしまうのであった。

 しかし、この充実した市民生活はぼんやりしていて手に入ったものではない。先人たちの叡智と行動によって実現し、しかもいまだに気を緩めると失う可能性もあるのだ。それを監視ししているのは、市民一人ひとりである。驚くほど自国が批准している国際条約に精通し、何をどのように守っているのか一人ひとりが自覚的に暮らしているのだ。

 1980年代のアメリカは南米を戦場にしたがり、圧力をかけたが、国民の70%を越える人々が武器をとることに反対し、中立宣言をする。2人の大統領が、2回の戦争の危機に、ヨーロッパの国々やローマ法王を訪ね、コスタリカの不戦の立場に理解を求める行脚をしているのにも、驚きだった。これでは、いくら頑張ってもアメリカはコスタリカに軍事基地を置けない。南米を戦争状態にすることはアメリカの国益であった。武器が売れるからだか、共産主義化を防ぐという名目であった。

 隣国ニカラグアが国境を越えて侵攻してきたときも、国民に予備軍への参加を求め、国境警備の訓練の強化で対抗しようとした国策に異を唱えたのは国民だった。そしてとった対策は、国際司法裁判所に訴え、一発の銃を撃たずに解決したのである。この事実を我が国の現首相に聴かせたいと、思わずつぶやいたのだった。

 映画を見終わってホールの階段を降りながら、「軍隊を持たない、平和であるということは、簡単ではない。国民一人ひとりの覚悟にゆだねられている」「日々の努力が必要」とわが身を振り返った。選挙の投票率の高さ、子どもまでが誇りにするコスタリカの自然環境や兵役のない幸せの価値を知る人々がこの常備軍を持たない選択を支えていると思うのであった。

 コスタリカの常備軍の廃止は1948年である。九条を持つ日本の憲法は1947年施行された。そして現在の彼我の差はどこにあるのかと、の疑問を反芻しながら帰途についた。〔笠原眞弓〕


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