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毎木曜掲載・第50回(2018/3/29)

朝鮮半島の平和をつくるために

●『南北首脳会談への道』 林東源(イムドンウォン)、波佐場清訳、岩波書店、2008年/評者:佐藤灯・金塚荒夫

平昌オリンピックを契機とした韓国と朝鮮(北朝鮮)の融和路線は4月の南北首脳会談、そして5月の史上初となる朝米首脳会談(韓・朝・米の三者会談になる可能性もある)の開催へ、東アジア情勢を大きく転回させた。これらの会談を通じて、朝鮮半島の非平和の根本的な原因である停戦協定も一気に平和協定に切り替えられる可能性も報じられている。南北が自分たちの努力と自己決定でこの情勢を導き出した手腕は実に見事だ。ただ同時にトランプ大統領がティラーソン国防長官を解任し、そのポストに対朝鮮強硬派のポンペオ元CIA長官を就任させるなど、情勢を楽観視することもできない。日本政府はこれまでの強硬的な対朝鮮政策によって今回のプロセスから蚊帳の外に置かれ、しまいには安倍首相が文大統領に拉致問題を議論するよう要請するに至っている。日本の市民社会は日本政府に対朝鮮外交の見直しを促していく必要がある。

 今回紹介する本書は2008年に韓国で出版された。著者の林東源は38度線の最前線に立った元軍人で、韓国の平和を守るピースキーパーとして、韓国軍の軍事戦略まで立案したほどの「反共保守主義者」だった。その彼が国際冷戦の崩壊を契機として、南北融和を通じて朝鮮半島の平和を作り出すピースメーカーへ変身する。本書は、林が金大中政権の国家情報院長などの政府要人として、2000年の南北首脳会談の実現を成功させるに至った外交ドキュメントである。

 朝鮮半島の平和を実現するための林の戦略はこうだ。対朝鮮政策には主に三つの選択肢が考えられる。一つ目は朝鮮の崩壊を促進させる「敵対的対決政策」。二つ目は、北が崩壊するまで待つ「傍観政策」。どちらも戦争につながる可能性があるため、採用することができない。取るべき3つ目の政策は、平和共存し、協力を通じて朝鮮を少しずつ変えていく「包容政策」である。具体的には(刃造鯒鵬する一切の武力挑発を許さない、吸収統一をしない、O族鬚閥力を積極的に進めることを基本的な原則として、▽多くの対話と交流を通じて朝鮮が自ら変わることのできる環境と条件をつくる、▽経済の相互依存を高め、「民族経済共同体」の建設を進める、▽緊張緩和と平和定着のために軍備管理を実現することなどを推進するものだ。注目すべきはこの政策は韓米安保同盟の放棄を必要としないことである。むしろ地域の安定のために、在韓米軍の削減と役割の変化も視野に入れながら韓米安保同盟を維持し、そして自主国防を実現する路線も同時並行で進める。これが南北の和解と平和の実現のためにアメリカを説得する条件、すなわち朝鮮半島のことは自分たちが決めることができる環境を作り出すことにつながる。

 金大中政権の誕生後、林は政府の外交安保首席秘書官に任命される。林がまず取り組んだのは金泳三政権時代に冷え切った南北関係を改善することだ。金泳三は「核をもった相手とは握手できない」として、米・朝の関係正常化と南北対話に反対し、朝鮮の崩壊に期待をかけたため、南北の関係は悪化していた。この経緯を踏まえ、林は第一に当局間の対話を再開する。第二に民間企業の朝鮮との交易を活発化させ、経済協力を進める。第三に民間レベルでの南北交流と対話を奨励する。第四に軍事休戦会談を早急に復元させる努力をした。この努力によって「政経分離」の原則から経済活動や金剛山観光を活発化させたり、民間レベルで「解放」を祝う南北交流が進められたりした。これらの努力がアメリカの当時のクリントン政権の対朝鮮政策を崩壊を促進する政策から体制保障をしつつも変化を促す政策へと変えさせることにもつながり、南北首脳会談を実現する基盤にもなったのである。

 また現在の情勢に照らして注目すべきはブッシュ政権誕生後の韓・米関係だ。ブッシュ政権誕生後、クリントン政権時に実現の目前にまで来ていた朝・米の関係正常化の可能性はたち消えてしまった。ブッシュ政権がクリントン政権の政策を継承せず、朝鮮を“ならず者”国家として、崩壊を促進し、戦争も辞さない態度を見せたからだ。それに対して、金大中大統領は「かつてレーガン大統領はソ連を“悪魔の帝国”と呼びながらも対話でデタントを推進して共産体制の変化と冷戦終結を成し遂げたし、ニクソン大統領も“戦犯だ”と糾弾しながらも中国を訪問して関係改善と改革開放の変化を導いた」と例に挙げた。そして「友人との対話は易しく、嫌いな人間との対話は難しい。しかし国家利益のために、そして必要によって対話をしなければならないときは、対話をすべきだ」と説き、米国は唯一の超大国として雅量をみせ、前提条件なしに北朝鮮と対話するよう」(342頁)説得し、ブッシュが南北和解の方向性を公式的に支持する方向へと導いたエピソードは興味深い。

 南北首脳会談の前後の過程から、学べることは非常に多い。特に核問題の解決なしに対話はありえないとする姿勢はかえって朝鮮の核開発を促進させた一方、包括的な関係改善を目指す平和的な政策が核の脅威を減少させ、南北関係の改善につながったことは大きな歴史的教訓だ。

 日本は朝鮮半島の分断と非平和を引き起こした当事者だ。日本の市民社会は安倍政権が南北首脳会談や南北の平和と統一を妨害することを許さず、核の問題と拉致問題を解決しないかぎり対話はありえないという敵対的な外交政策を根本的に転換させていかなければならない。

 朝鮮との関係改善の希望はある。それは、さまざまな課題はありながらも日本の市民社会が植民地支配責任を果たす努力や朝鮮半島の子どもたちとの日本の子どもたちの交流事業などの努力を積み重ねて来たことだ。

*「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美・佐藤灯・金塚荒夫ほかです。


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