太田昌国のコラム「サザンクロス」 : 遭難者、漂着民、排外主義者、脱北者、政治指導者 | |
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遭難者、漂着民、排外主義者、脱北者、政治指導者
私もかつて新潟から佐渡へ渡る船の中で経験したが、陸地に囲まれたこの海の地形は独特で、波高が高く、船も揺れる。柿山氏によれば、冬場には大型船でも、荒波で航行が難渋するという。この海へ、簡素な構造の古い木造船が操業に出たのである。食べ物に事欠く漁船員の命懸けの操業だったであろうことは疑いの余地もないだろう。 これを指して「武装難民の可能性がある」と言ったのは、麻生副総理である。「警察で対応するのか、自衛隊の防衛出動か。射殺するのか」とまで言った。「工作員とかいろんな可能性があるから徹底した取り締まりを行なっている」と述べたのは菅官房長官だった。哀しみ、同情すべき事態を政治的に利用しようとする魂胆が透けて見える。北海道松前町の無人島には、舵が故障した難破船の乗組員が上陸した。無人の避難小屋にあった発電機その他すべての物品を「盗んだ」として、船長のみが起訴され、3月9日に函館地裁で「懲役2年半」の求刑がなされた。柿山氏によれば、保安庁のヘリはこの船舶の遭難救助もせずに、何かをしでかすことを待ち、監視する日数を重ねていたらしい。海洋法に関する国連条約や「海上における捜索及び救助に関する国際条約」に基づいて、関係者は、遭難船の人命救助に必要な手段を尽くさなければならない。不履行には罰則規定もあるという。「国難」を煽る悪扇動に基づくすべての行為は、国際法が定める論理と倫理の前に、本来はその根拠を失うべきものである。
今回の漂着船とそこに遺された遺体の報道に接しても、同じ感慨を覚える。遭難者は手厚く保護するか、不幸にして死した場合には丁寧に弔わなくてはならない。同時に、朝鮮を支配する独裁体制が核とミサイルの開発に莫大な資金を投じる一方、民衆に強いている苦難に満ちた経済生活を思う。そんな気持ちで近所の図書館の棚を眺めていた今日、注目してきた民俗学研究者、伊藤亜人の新著『北朝鮮人民の生活――脱北者の手記から読み解く実相』(弘文堂、2017年)を見つけて、借りた。 きょうは朝から、来る5月に行なわれるらしい米朝首脳会談のニュースで持ち切りだ。政治指導者はどこの国のそれも、駆け引きや騙し討ちや妥協や折り合いで、もっともらしい「政治」とやらを続けるだろう。私たちもその行く末を注視し、必要なら介入することもあるだろう。だが、私たちの存立基盤は「国家」でも「政府」でもなく、ここで述べてきた文脈に即して言うなら、遭難者や漂流民や脱北者の視点で〈世界〉を観ることなのだ。 Created by staff01. Last modified on 2018-03-10 10:38:37 Copyright: Default |