〔週刊 本の発見〕 『君たちはどう生きるか』 | |
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本の生命力、そして時代●『漫画 君たちはどう生きるか』(原作 吉野源三郎 漫画 羽賀翔一 マガジンハウス 1300円)・『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎 解説 丸山真男 岩波文庫 620円)/評者=志真秀弘
それが今年漫画化され、発売後数ヶ月で50万部を越すベストセラーになっている。 『君たちはどう生きるか』は中学(旧制)2年生の主人公「コペルくん」の冬から春への数ヶ月の出来事、そして彼を見守る叔父さんの手紙からなる。友達へのいじめに一緒に立ち向かおうと約束したコペルくん。ところがその場にいたのに、彼だけが友達を見捨ててしまう。戦争に突き進もうとする時代の空気が小説に立ち込めている。愛校心のない学生は「非国民」の卵だから制裁を加えろなどの主張が広がって、「気風を一新すべし」と柔道部の上級生が気合を入れて回るような風潮が「いじめ」の背景にある。山本有三も吉野源三郎もこうした偏狭な国粋主義や反動思想に屈せず、自由で豊かな文化、人類の進歩への希望を「少国民」に託そうとした。これは抵抗の小説だった。
『君たちはどう生きるか』は数年前に「SEALDs選書プロジェクト 基本図書15冊」に選ばれているが、今回漫画化されて新装版(20万部)もそして岩波文庫版も売れ始めた。リーマンショックの年2008年、首切りも非正規雇用も広がった時、突然『蟹工船』(小林多喜二)がブームになったことを思い出す。 安保関連法、共謀罪、「国難」と称しての解散、憲法改悪といった流れが軍国主義政策そのものであることは、誰の目にも明らかだ。2017年と1937年は符合している。本に生命力があるだけではなく、時代が本を呼んだのか。そう考えると、『君たちはどう生きるか』がベストセラーになっているのを優れた本が売れているというだけで済ますことはできない。
漫画は清楚な画風でよく描かれている。が、丸山真男の解説を味わうためにも、ぜひ初版(岩波文庫)を合わせて読んでほしい。戦後に書き直された版にではなく、戦前の初版にこそ今の時代を考える材料がある。 *「週刊 本の発見」は毎週木曜日に掲載します。筆者は、大西赤人・渡辺照子・志真秀弘・菊池恵介・佐々木有美ほかです。 Created by staff01. Last modified on 2017-11-16 09:58:14 Copyright: Default |